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第二話 恋との約束により、愛にきたけもの。1-4

 弘樹が屋上にいる時間、カンナと祐一は人気のない校舎裏で会話を交わしていた。


「どういうことですか?」


 開口一番、カンナは祐一を尋問する。


「用件をまずいえよ。『どういうことですか?』だけじゃわからねえ」


 飄々とした態度を祐一はとっているが、カンナの顔にはあきらかに憎悪が見て

とれた。


「セカイさんの『不平利領域』に何かができるとしたら……それはもう、わたくしの知る限りあなたしかいません。ここであなたの選べる選択肢は三つです。一、『アサイラム』で死ぬか。二、ここで死ぬか。三、あなたが何をヒロ様にしたのかを、わたくしに教えるか」

「……ここで殺しあうのはルール違反じゃねえのか?」

「黙れ――関係ありません」


 さすがに本気になっているカンナを目の前にして祐一は一度だけゴクリと唾を飲み込み、一歩後ろへさがる。


「選択は? 二秒以内に答えてください」


 ――美剣カンナと戦闘になっても勝ち目はない。逃げることも……、できるわけがない。


「……選択は三だ」

「さすが祐一さんです。自分の力を過信していない。そういうところは嫌いじゃありませんよ」


 カンナの表情が少しだけやわらかくなる。


「ぬかせ! まあ良いや。結論から言うと何かはした」


 祐一のはぐらかす言葉に、カンナは宝石すら霞むような碧眼を大きく見開いて、彼の瞳に焦点を合わせた。


「全て包み隠さず話しなさい。あなたの選べる――」


 ガリガリと祐一は乱暴に頭を掻く。


「前にも言ったが俺はヒロとユキ、二人の親友だ。俺は二人の力になりたいと思ってる。そこで俺は領域を使ってヒロの記憶と心を、それぞれ一部だけ切り離したんだよ」

「……それだけですか?」


 カンナが意外な顔をする。もっと重大なことをしたと思っていたらしい。


「ああ、記憶はもちろん。心も『不平利領域』の影響下だろ。お前が絶対視しているモノの中で、ただ俺が無様に足掻いてるだけなのさ。ヒロにユキのことを思い出して欲しかったからな」

「そうですか……」


 一通り祐一から話を聞くと、その後カンナは一瞬で空間から一本の刀を取り出して、それを彼の左肩から脇腹にめがけて躊躇なく振りおろした。


「――ごっ!」


 ゴキッ! と、不快な音が鳴ったが――祐一の身体は真っ二つになっていない。

「斬れない……。嘘はついていませんか」


 切っ先を眺めながら納得の表情を浮かべるカンナに対し、祐一はあまりの痛みに蹲っていた。


「わかりました。祐一さん、教えて頂きありがとうございます」

「ゴホッゴホッ! 無理やり脅迫しただけだろうが! でも良いのかよ。俺はヒロとユキの二人を会わそうとしてる。そんな俺を……お前は」


 疑問を抱く祐一にも、カンナは別にかまわない様子だ。


「誰の指図も受けないと言ったのは祐一さんの方でしょう。それが祐一さんの思想だとしたら、それを強制的に変えたり排除することを――わたくしはできません」

「……なぜだ?」

「祐一さんは『人間』ですから。『サル』や『虫けら』とは違います。無論ヒロ様の障害になられるのなら容赦はしませんが、あなたはヒロ様の力になりたいとも言っています」

 ようやく祐一は立ちあがり、カンナの姿を観察する。


 ――正直殺されると思った。だが俺はまだ生きている……。


「俺は、今まで通りユキも助けるぜ」


 その意志にカンナは少しも動じた態度を見せない。そして妖艶な笑みを見せる。それは祐一に見せたわけではなく、自然にこぼれた自嘲であった。


「わたくしは由紀様……水瀬由紀が嫌いです。ずっとヒロ様の隣にいた彼女に嫉妬しているのです。だから『蛇』に喰われる彼女を、わたくしは一切助けません。もちろん捕獲、または殺害対象となっている彼女を『蛇』より先に見つけても容赦はしません。やはり……ただの妬みなのですよ」


 カンナのその言葉に祐一も少しだけ心を動かされるが……。

 それでも祐一は、『姉』の親友である由紀の味方だった。


「お前がヒロのことを好きなのはよくわかってるつもりだが、それでも俺は、ずっと昔から親友の二人を助けるために動くぜ」


 カンナの本音に祐一も、今の気持ちを正直に伝えた。


「昔のわたくしなら、もうこの場であなたを始末していたでしょうね。でも今のわたくしは人形ではありません。自分で考え、自分で決めることができます。祐一さん。これから先は少々特殊な鬼ごっこですね」

「はあ? 鬼ごっこ?」


 鬼ごっこという言葉にピンとこない祐一は、頭に疑問符を浮かべた。


「鬼は水瀬由紀。先にわたくし達が始末したり、または『蛇』が鬼を喰らうか。それとも、あなた達が鬼を守り抜き、そしてヒロ様に無事その鬼を会わせることができるか……」


 それは鬼ごっことはまったく別の遊びだが、あえてその名前を口にしたカンナだ。


 カンナが幼少の頃はずっと宮殿に幽閉されていたという話は、三十四家紋の中でも特に名門の、神道家の息子である祐一は知っていた。


 そのカンナが提案した遊びなのだ。今の、昔を懐かしく思い出しているような感じの彼女を見ていたらわかる。


 つまり、過去に誰かとそういう遊びをしたということだろう。だから祐一も、その鬼ごっこに参加してやることにした。


「はっ! ユキを鬼とはまた酷い呼び方だが、参加してやるぜ! その鬼ごっこにな! ユキは絶対にもう一度、ヒロと会わせてやる!」


 その祐一の決心に、またカンナも決意を頑なにするのであった。


「ヒロ様と水瀬由紀は、もうこれから先、絶対に会わせません。水瀬由紀は、わたくしがどこまでも追い詰めて――誓って殺します」


 カンナの決意が並々ならぬものだったので、祐一は正直に彼女から選択肢をだされた時、脳裏を掠めた恐怖を話した。


「しかし、ヒロの頭痛は俺が原因だし、正直こんな場所に呼びだされた時は、殺されることも覚悟してたんだけどな」


 祐一の本音が表にでるとカンナは一度、自分のレモン色の鮮やかなブロンドの長髪を手でなびかせる。


「水瀬由紀のことを考えているから頭痛が起きたのでしょう。だから……わたくしは…………。そっ! それにセカイさんの『不平利領域』は、あなたが持つ『呪呪禽領域』の比ではありません。もうこの瞬間にもヒロ様にとっての水瀬由紀など、所詮は中等部時代での友人程度の認識になっていますよ」



 ムスッとした顔でカンナは答えた。こんな表情もできるのかと、祐一は思わず興味を抱いてしまうのであった。

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