第19話「向かうは鍛冶の国」
首都ヘンデルを離れて、俺たちは西へ向かって街道を進んでいた。
空はよく晴れていて、吹き抜ける風も気持ちいい。
街を出る時の空気は少し重かったが、こうして外を歩いていると、ようやく旅が始まったんだという実感がじわじわ湧いてくる。
「で、ユウマよ。行く当てはあるのか?」
隣を歩くティアが、こちらを見上げながら問いかけてきた。
「ちょっと遠いけど、このまま西へ進んでガリア共和国を目指そうと思う」
俺は地図を広げて確認しながら答える。
すると、ティアがひょいと横から覗き込んできた。
「ふむ。ドワーフたちが運営しておる国じゃの。中立国家でもあり、世界的に有名な鍛冶の国じゃな」
「そう。それが目当てだ」
俺がガリア共和国を目指している理由は、まさにそこにある。
俺自身が鍛冶師だから興味がある、というのももちろん本音だ。けれど、一番大きいのは、ちゃんとした武器を手に入れたいからだった。
《黄泉》は簡単に使えない。
かといって、今の《鍛冶》スキルだけに頼るのも危うい。この前みたいにオーガ級の相手が出てきたら、即席武器じゃ押し切れない可能性が高い。
ここらで一つ、メインに使える武器が欲しい。
できれば刀があれば最高なんだが……まあ、そこまで都合よくはいかないか。
「ん? 今、中立国家って言ったか? 魔族側にも武器を流してるってことか?」
「あー、そういう意味ではない。そもそも魔族側にも、武器作りを生業にしておる者はおるしの」
「へぇ、魔族にも鍛冶師みたいなやつがいるのか」
それは少し意外だった。
いや、考えてみれば当たり前か。武器も防具も必要なんだから、作るやつがいて当然だよな。
機会があれば会ってみたいものだ。
人間の鍛冶師と、魔族の鍛冶師。どんな違いがあるのか、普通に気になる。
「じゃあ、なんで中立なんだ?」
「妾も詳しいわけではないがの。人族……正しくは、魔族以外の種族は、魔族との戦争が起こる前は各々で戦争しておったのじゃ」
「なんだその物騒な話」
思わず顔をしかめると、ティアは肩をすくめた。
「それぞれ理由があったのじゃろう。じゃが、魔族という脅威が現れたことで、一時的に休戦して協力関係を結んだ。そういうことじゃ」
「なるほどな……」
敵の敵は味方、ってやつか。
いや、それで大陸規模の協力関係を作るんだから、相当な脅威だったんだろうけど。
「もっとも、その戦争も今となっては妾が止めてしまったがの。っかか!」
ティアは胸を張って笑っている。
だが、そこで俺は一つの嫌な可能性に気づいた。
魔族との戦争で協力していたのなら、その脅威がなくなった今、また元の関係に戻るんじゃないのか?
つまり、再び種族同士の争いが始まる可能性があるってことだ。
考えるだけでぞっとする。
「……なあ、それってさ」
「うむ?」
「魔族との戦争が終わった今、また別の戦争が始まる可能性ってあるのか?」
「なくはないじゃろうな」
あっさり言われて、俺はげんなりした。
「おいおい、勘弁してくれよ」
「安心せい。そう簡単には燃え上がらぬ。じゃが、火種が消えたわけでもあるまい」
さらっと言うが、全然安心できる内容じゃない。
「あ、それで思い出したが」
ティアがぽんと手を叩く。
「千年以上前の話じゃが、魔族の始祖と人族側で起こった史上最大の戦争が、大陸を割って今の世界の形になったそうじゃぞ」
「え、なにその天変地異。怖すぎだろ」
「そうじゃの。妾もそう思う」
そう言って、ティアはけろっと笑った。
いやいや、そんな雑談みたいに話すスケールじゃないだろ。
「しかしの、その戦争で人間、ドワーフ、獣人、エルフの四種族を束ね、導いておった者たちがおってな」
「へえ」
「そやつらは神楽の一族と呼ばれておったそうじゃ。おぬしと同じ、渡り人の集まりだったらしいぞ。もしかしたら、おぬしもその神楽の一族と血縁があるやもしれぬな」
「神楽の一族、か……」
確かに、その人たちが元日本人だと考えれば、どこかで血が繋がっていても不思議ではない。
千年前っていったら、向こうの世界で言えば平安時代くらいか? ちょうど武士が認知され始めた頃だったはずだ。
有名どころで言えば藤原道長とか、紫式部とか、清少納言とか。
まあ、そこまでいくと俺からしてももう完全に歴史の一部でしかないし、実感なんて湧かないけど。
「……ん?」
そこまで考えて、俺はふと顔を上げた。
「え、ティアってもしかして、その時代に生きてたのか?」
「あほか!」
ティアが即座に眉を吊り上げ、ぷくっと頬を膨らませる。
「妾がそんな歳をとっておるわけなかろう!」
「……確かに」
どこからどう見ても年下にしか見えない。
仮に数百歳だと言われても、中身が伴ってないから実質見た目通りだろう。
「おぬし、今ものすごく失礼なことを考えておったじゃろ」
「お、この道を左だそうだ。ほら、早く来ないと置いてくぞ~」
「あ、こら! 待たぬか! 誤魔化すでないぞ!」
後ろから飛んでくる抗議を聞き流しながら、俺は左の街道へ足を向けた。
旅の始まりなんて、これぐらいはしゃいでいる方が良い。
少なくとも、こいつが旅の連れなら退屈だけはしなさそうだ。
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