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第7話 最低最悪の屋台

 ★


 再び四人が夜空の下に集まった。木造の借家の中で、四人はベットで仰向けに寝たままになっているアイフルを見つめていた。資金は潤沢、経験値も集まった。だから、早く次のダンジョンに向かいたいのだが、そうは問屋が卸さない。アテナから受けた加護を取り払わなければ。アイフルがベッドから起き上がれない。重なった疲労が原因なのだろうが、それだけとも思えない。


 大汗をかいて苦しそうに唸る。呼吸が荒く、顔が真っ赤だ。肩が上下に動いて目が移ろいでいる。


 「勇者様……可哀想……」


 「身体に二つの加護は無理なのじゃろう。およそ人間が耐えられる苦痛ではないわ」


 「あの金髪の女神を八つ裂きにすれば、ご主人様は助かるはず……」


 闘争心と凶暴化。この二つの荒ぶる感情が身体を駆け巡る状態。よく今まで耐えていたとすらいえる。彼女は必死に自分が暴走しないように耐え続けていたのだ。この状況を打開する方法はある。アテナの言いつけ通りコロシアムで優勝するよりも、もっと簡単な方法だ。


 「私の加護を取り払えばいいのですわ」


 加護を切る、つまり勇者と女神の関係では無くなる、ということ。ラピアとしては、アイフルの監視や補佐の任から降りることになる。アイフルは『凶暴化』の加護を得られない。また、闇のオーラを纏えない。


 この町の連中が暴れ回って喧嘩している理由も簡単だ。彼らもとっくに担当する女神に見捨てられて、アテナの加護のみが残った状態なのだろうから。勇者大量召喚の弊害だ。一人ひとりを大切にしない。駄目だと判断したら、また次の勇者を召喚すればいい。


 「女神殿。それは早計というものだ。貴方無しでは勇者殿は成り立たない。女神が勇者を捨ててはならない」


 「そうだよー! 切るべきは『芸達者』の方なんだから」


 「ご主人様の女神は貴方にしか務まらない」


 ラピアは少しだけ嬉しそうな顔をした。頬を人差し指で掻きながら笑って見せる。


 「今週末に決闘場に行き、優勝すればいいだけのこと。容易いわ!」


 「ふっふっふ。僕も勇者様の為に頑張るよー。肉弾戦最強の獣人族の力を見せてあげるよー」


 「あの金髪め。奴の祭典を血祭にしてやろう」


 強がっていると思った。誰も口には出さないが、心の中できっと『アイフル無しで勝ち切る』と誓っている。あとは修行あるのみだ。三人は各々が窓の外へと出ていった。アイフル無しでは経験値は思うように入らない。それでも今週末に備えて少しでもレベルアップを図ろうとしたのだろう。


 「見かけによらず真面目な人ですね。しかし、このまま寝込まれても困ります。さて、どうしたものやら……」


 アイフルは頭を抱えてふらつきながらベッドから這い出てきた。目つきが悪くなっている。足取りは重く、壁伝いに歩いている。


 「頑張りますねぇ。可愛らしいこと」


 「私がこの程度でくたばるはずないだろうが。私は病欠なしの優等生だ」


 二つの重なり合う加護を受け入れない。受け入れた方が楽なのに、それを拒絶し続けている。


 「あの三人も散ってしまいましたし。今日は戦いは難しいですね。では……」


 「なんだよ」


 不審がるアイフルに対して、アイフルは妖艶な笑みを浮かべる。お得意の営業スマイルだ。


 「夜の街に繰り出しますか」


 ★


 ネオンの町。薄暗い街中には瘴気が漂っている。冷え切った寒空に二人の少女が歩いていた。この世界で最も治安が悪い町。グランドシャットの夜道は危険で一杯だ。人身売買、内臓購買、素人が手に入れてはいけない危険な魔術が書かれた本。これらが……木材を曖昧に組み立てただけの屋台に、鎮座する形で売ってある。当たり前のように。


 「なにあれ?」


 「奴隷を手に入れるならば、最も安値で手に入る地帯ですわ」


 反吐が出る風景である。身体中が傷だらけの人間が男女関係なく販売してある。


 「人身売買って、もっとコソコソ隠れながらすることだと思っていた」


 厭らしい視線、下種の表情を浮かべた商人が目を光らせている。日中のように無作為に襲い掛かって来る真似はしない。アイフルは地面をジッと見ていた。この光景を見ていられなかった。同情心や憐憫ではない。痛みがコッチにまで伝わってくるようで。


 「荷物持ちにでも使う為に購入しますか?」


 「いらない」


 「勇者に拾われる奴隷は一生感謝されますよ。こんなみすぼらしい自分に優しくしてくれるなんて」


 「それが嫌だって言っているの」


 どこが楽しい買い物なのだろうか。心が締め付けられるようで……ん?


 「アテナがいる……」


 「あの女! 何をしていますの……」


 本当にどの場に行っても出くわす女神様だ。相変わらず自信満々な笑顔。鋭い目線の先には勇者がいた。あまりレベルが高くない。武器も安物であり、甲冑は傷だらけ。満身創痍で膝から地面に倒れ込み、天を仰いで心が此処に無いような表情だ。一目で分かる弱々しい勇者だ。その勇者を慈しむように髪を撫でまわす。


 「今までよく頑張ったな」


 と、そんな優しい言葉の跡に……彼から光が消え去った。女神の加護の没収。勇者としての資格剥奪だ。その少年は目が泳いだまま半裸で道端に捨てられた。アテナは笑みを止めて立ち去って言う。その少年が言葉にならない悲鳴をあげた。この町の人間に地面を引きづって連れ去られていく。気味が悪い光景。あまりの悲劇的な光景に二人は言葉を失った。


 「ちょっと……あれって……」


 「この町の奴隷はこうやって量産されていたのですね。敗者には何の権利もない。残酷な世界ですね」


 この町を出るしかない。でも、加護を祓うにはコロシアムに参加して勝つしかない。


 「さぁ。それでは魔の書でも探して購入しましょうか。お値段が張る上に効率は悪いですが、書物からも能力スキルは手に入ります。凶暴化を活かせるのうりょ……アイフル!」


 息を呑む前に駆け出していた。奴隷となった少年を掴み上げている大男の腕を、真横から引き剥がそうとした。その前に太い腕で薙ぎ払われる。アイフルは左腕から地面に落ちた。薄着の二人組が鼻息を鳴らす。次の瞬間に竜人リザードマンへと変化した。


 「突然変異メタモルフォーゼだと!」


 人間の顔など簡単に飲み込めるくらい大きな手のひらがアイフルを襲う。その手に平に持っていた短剣を突き刺した。『雪洞』と呼ばれる真っ赤な結晶を内蔵する剣。その刀には光線が含まれる。竜人の手先を焼き焦がした。即座に腕を引っ込めて痛がる表情をする。


 周囲の人間が金切り声をあげた。飛び跳ねるように退散していく。いくら治安が悪い町だからとはいえ、魔物が町に徘徊するなどイレギュラーだ。本来起こるはずがない現象である。魔物の姿を横目に見て、ラピアはしかめっ面をして考えた。やはりこの町は……何かある。


 どさくさに紛れて先ほどの少年も逃げ出した。残ったのは竜人二匹とアイフルにラピア。竜人が力強く地団駄を踏む。鼻息を鳴らし、大声をあげて威嚇する。エンカウント:継接竜人レベル20


 「この野郎!」


 腰からもう一本の短剣を抜き去る。行灯あんどん雪洞ぼんぼりは月明かりに照らされて真っ赤に染まった。立ち上がって腰を屈める。自分独りという状況なのに呼吸が安定している。今まで加護の影響により具合が悪そうだったのに、まるで戦いが始まった瞬間に健康的になったような感覚だ。芸達者の効果が如実に現れている。


 二足歩行の蜥蜴とかげ。図体は2m程でありかなりの巨体。以前のブネと違って翼竜ではなく、地を這う竜である。地上で生きることに特化している分だけ、身体が巨大であり筋力が凄まじい。弓を持たない今のアイフルでは分が悪い相手である。


 「アイフル! 少年は逃がせました。だから……」


 相手の実力は此方と拮抗している。二体一で戦えば負けるのはコッチだ。体格差で勝てない以上は、魔力に物を言わせる火力勝負といきたいがアイフルはその手のゲームセンスの必要な分野は滅法苦手。ロックオン、気配遮断、囮や誘導作戦、フェイントや不意打ち、残弾管理などセンスの必要な行動をとれない。


 「勝てない……」


 そう小さく声に出すも動き出した局面は変えられない。竜人がその大きな拳を真っすぐ突き立ててきた。アイフルは無気力に地面に転がる。連戦での疲労、芸達者による体調の悪さ、何もかも条件が悪い。それでも奮い立って立ち上がるも竜人がそれを許さない。大きな足で踏みつけて立ち上がるのを阻止する。


 「女性なのに……勇者。それも女神の加護がふたつ」


 「いくらで売れるかな」


 弱肉強食は自然の原理。負ければ喰われる。凶暴化すれば身体能力は竜人如きは上回れるだろうが、今のポテンシャルで可能なのだろうか。しかし、このままでは負ける。戦闘を控える為に繁華街にやって来たのにここまで逆効果になるとは……。


 「アイフル!」


 距離をとってゆっくりと立ち上がる。目線が鋭くなっている。二対の双剣が真っ赤に光る。町が静まり返るようだ。風の音しか聞こえない。気迫だけで竜人を押している。理屈の無い強さ。圧倒的な存在感。


 「芸達者を発動した……。いけません! アイフル! これ以上は……」


 と、言い終わる前に動き出していた。目にも留まらぬ素早い動きで竜人の首から上を切り落とす。硬い皮膚も首元はさほどの強度はない。ただ一撃で狙いを切り裂く正確さと、素早い身のこなし。これが芸達者だ。ピンチになると力が発揮される。理屈で言い表せない技の精度が著しく増す技術。竜人が灰になって消える。灰の塊が地面に激突して砕け散った。


 「勝ったぞ……」


 「瞬殺ですね。具合の方は?」


 「悪いに決まっているだろ。でも……身体が馴染んできている気がする」


 「その分凶暴化が欠けてきているってことですよね」


 「あぁ、そうだ。最初は凶暴化に頼ろうと思ったが全く発動しなかった」


 「くっ……。これは由々しき事態ですわね……」


 他の女神に立場を奪われかけている。その焦りが顔に現れていた。拳を握り締めて心を落ち着かせる。それでも苛立ちを隠しきれない。夜の月が不気味に二人を照らす。

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