第4話
パターンC
彼らは兵士だった。
大戦でなくなった小国は幾つもある。その一つの兵士だった。
彼らは国を守るために必死に戦った。何人もの仲間が倒れた。そして敗れた。
敗走しながら、蹂躙される国を見て泣いた。叫んだ。
他国にたどり着き、志願兵となった。
戦った。戦い続けた。
彼らが生き残ったのは、運が良かっただけだ。特殊な才能も持ち合わせていない。
明日は自分たちが死ぬかも知れない。
それでも、彼らは戦った。
何かを守りたかったのだ。自分たちが守れなかった何かを、誰かに守って欲しかったのだ。
幾度も敗走を繰り返した。彼らは何とか生き残った。
そうして、敗走を繰り返している内に大戦が終わった。
喜べば良いのか、嘆けばいいのか、判らなかった。
自分の国で兵士をしていた頃はまともだった。
何度も敗走し、誰かが死ぬところを目撃し、誰かを見殺しにし、そして生き残ってしまった彼らは、もはやまともではなかった。
仕事に就こうとした。もう戦わなくて良いのだ。
日常のちょっとしたことが戦場を思い出させた。
後ろから声をかけてきた誰かを殴り倒したことがあった。
夜中に在りもしない声を聞いて、震えることがあった。
彼らは悟っていた。自分たちが日常に戻ることは出来ないと。
だが、彼らは何をすれば良いのか判らなかった。守るべき国も民ももうこの世にはない。
彼らは必死だったのだ。失ったものではなく、新しい何かを得ようと。
何人かの仲間は新しい門出を迎えた。彼らは自分のことのように喜んだ。
最後まで残った彼らは、特に不器用だったのだろう。
何をすれば良いのか迷っているとき、戦友の一人が声をかけてきた。
傭兵ギルドが人手不足で、大規模な求人をしているらしい。
傭兵になれば、どこかの誰かを守ることができるかもしれない。淡い希望を抱いて傭兵ギルドに入った。
入団訓練もあったが、兵士として経験を積んでいた彼らには難しいものでなかった。
彼らは実績を考慮されて、新兵よりは幅広い仕事が回ってきた。
害獣退治や魔物退治で村人に感謝されるのは嬉しかった。少し報われた気がした。
そうやって日々を過ごしていた。
ある村に妖魔討伐依頼で出向いた。コボルト10匹という話だったが、実際に村につくと30匹以上のコボルトがいた。
不思議に思い、村人に話を聞いた。初めは口を割らなかったが、繰り返し聞くと話してくれた。
依頼料を抑えるために少なく告げたらしい。
重大な契約違反だが、村を守るには仕方なかったのだろう。
仲間と相談して討伐を行うことにした。多少厳しいが、なんとかならない数ではない。
待っていて村が襲われたら元も子もない。彼らはコボルトの集落を襲撃した。
楽な戦いではなかった。少なくない傷を負ったが、なんとか勝つことができた。
村人にはとても感謝された。
街に戻ってギルドには何もなかったと報告した。怪我の治療でしばらく仕事を休むことになったが、焦燥感はなくなっていた。
ギルドから呼び出されてこの訓練を受けることになったが、多少の不満はあった。
この間に仕事をすれば、その分多くの人を助けることができる。
しかし、命令であるから仕方ない。森の中での訓練はあまりしたことがないし、良い機会だと思うことにした。
森に入り指令書を確認する。森の奥にいる巨大狼を倒せという内容だった。
安全な森にもこんな魔物がいるのか。誰かが狩りにきて襲われたら大変だ。
気を引きしめた。自分たちの仕事で誰かが救われるかも知れない。
森の中を進む。一週間ほとんど飲まず食わずで敗走したときに比べれば辛くもない。
予定より進むことができた。夕方も近いが、休もうかもう少し距離を稼ごうか考える。
少し先に、誰かの野営跡が残っていた。簡単な竈まで作ってある。
先人に感謝しつつ、同じ場所で野営をすることにした。
集めた枯葉や枝を竈に入れ、火を付ける。
続けて食事の準備をしようとする。突然、火が弾けた。
音に驚き顔を庇う。破裂音は数回続き、腕に軽い火傷を負った。
何かが仕掛けられたいたのだろうか。竈を調べずに使ったのは失敗だった。
一度火を消し、竈を壊して調べるがよく判らない。
同じ場所でもう一度火を付ける気にならなかったので、少し離れた位置に火を付ける。今度は何も起きなかった。
2交代で見張りをしながら朝を迎える。
羊皮紙に記されていた巨大狼の巣まであと少しだ。昼前には着くだろう。
森を進む。いた。大きな木下に巨大狼が寝そべっている。
自分たちが剣を抜くのと同時に、巨大狼が立ち上がった。
気付かれたが、問題ない。一気に距離を詰めようと駆ける。
狼は身を低くして駆けだした。自分たちと反対方向に。
逃げた。一瞬呆気に取られたが、慌てて追う。
平原なら狼に追いつけなかっただろうが、森の中では巨大狼も全速力といかないのだろう。あまり離されていない。
走って巨大狼を追いかける。何故逃げ出したのだろうか。
脚に何かが引っかかり、前のめりに転ぶ。
仲間達が自分を踏みそうになるが、なんとか避けてくれる。
立ち上がる。一体何に脚が引っかかったのかみると、草が結ばれて輪を作っていた。
罠だ。何故こんなところに。
軽く体を動かして調子を確かめる。幸運にも脚を挫いてはいないようだ。
見失う前に仲間達の後を追う。
仲間の一人が、足下から伸びたロープに絡まり宙づりになった。
駆けよってロープを斬る。
ここには多くの罠が仕掛けられているようだ。あの巨大狼はそれを知っていてここにおびき寄せたのだろうか。
判らない。判らないが追いかけるしかない。
必死になって追いかけるが、追いつくことはできなかった。
追いかけている間に何度か罠にかかった。怪我をするような罠でなかったのが幸いだ。
追いかけている間に日が暮れてしまった。仕方なく野営する。
明日で3日目だが、巨大狼を追跡することになった。
あれがいては、この森に来た誰かが襲われてしまうかも知れない。
明日の予定を確認しながら体を休めた。
結局の所、5日目に救助が来るまで巨大狼に追いつくことはできなかった。
救助にきたものにそれを訴えたが、追いかけることは許されなかった。
ギルドからの命令で森を引き上げることになる。あの狼が誰かを襲わなければいいのだが。
4日目になっても戻らなかったため、救助が行われる
巨大狼を追い続けていた模様
指令を達成とするか判断は保留する




