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バリスタと呼ばれた少女  作者: 風早
バリスタさんと傭兵ギルド
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第3話

 パターンB

 彼らは農民だった。

 彼らの育った農村は大戦によって放棄された。

 街に避難した彼らは日銭を稼いで生活をしていた。大戦が終わるまでの辛抱だと思っていた。

 大戦が終わり、彼らは村に戻った。しかし、村には何も残されていなかった。

 打ち壊された建物、荒れ果てた畑。

 呆然としていた彼らを、村長が呼んだ。

 村の中央に戻ってきた村人達が集められた。

 戻ってきたのは元々の半分ほどの人数だろうか。彼らを見渡して村長は言った。

「村に戻ってきてくれたのはありがたい。だが、見ての通りここには何もなくなっている。下手をすれば今年の冬は越せないだろう。

 復興の支援があるそうだが、どの程度のものか判らない。場合によってはこの村を捨て、他の村に行くことになる。

 だからお前達は無理にここに残る必要はない。街に行き生活しても良い。私にはどちらが良いか言えないが、自分達で考えて結論を出して欲し


い」

 愕然とした。大戦が終われば全てが元通りになると、何の根拠もなく思っていた。

 その日は使えそうな物を集めて壁と屋根を作り、夜露を凌いだ。

 同じ年頃の連中と集まって、相談した。

 家族が残る者は残るらしいし、大きな街にでる者もいた。

 俺は大戦で身寄りを失った何人かと一緒に十字の街に行くことにした。

 元々村でもあまり居場所はなかった。なら大きな街の方が人に紛れて良いだろうと思った。

 十字の街は復興で忙しく動いていた。俺達は日雇いでお金を稼いで生活を始めた。

 宿に泊まれる日もあったが、泊まれない日の方が多かった。そんな日は人通りのない路地裏で身を寄せ合って休んだ。

 なんとか食べることはできたが、体が休まる日はなかった。

 そんなある日、働き先で傭兵ギルドが傭兵を募集していることを聞かされた。

 こんなところで浮浪児同然の生活をしているより、マシな生活ができるんじゃないかと言われた。

 俺達で何かができるとは思わなかった。だが、倉庫整理や荷物運びのような仕事もあるんじゃないだろうか。

 そう思い、傭兵ギルドを訪ねることにした。

 すぐに入ることができた。泊まる場所として宿舎が紹介された。

 4人部屋だったが、元々4人で生活していたから構わない。毎日屋根と壁がある場所に泊まれるだけで充分だ。

 与えられた仕事は楽でなかった。後方勤務は希望者が多いらしく、経験者や何らかの特殊技能持ちのみだった。

 それでも討伐等の仕事は回されなかった。俺達の仕事は商隊の護衛など頭数が必要なものだけだった。

 大戦の影響で盗賊の類も増えている。

 何度かの仕事は上手くいった。襲われることなく仕事を終えれた。

 なんとかなるかもしれない。そう思い始めた頃、護衛していた商隊が襲われた。

 訓練はしていた。剣の振り方を習った。けれど、人から殺意を向けられるのは初めてだった。人を殺さなくてはいけないのは初めてだった。

 彼は必死に剣を振るった。無我夢中だった。振るのをやめたら殺されると思った。

 結果として、彼は負傷したが生き残った。商隊も無事だった。

 怪我を治しながら、本当に傭兵を続けていくのか迷った。食い扶持を稼ぐ方法がないのも確かだった。

 そうしていると、新人向けの訓練ということで呼び出された。

 どんな訓練なのか不安だった。内容を聞いてほっとした。敵はいないし、誰かを殺す必要もない。

 森に入って指令書を広げた。ある植物の花を採ってこいというものだった。

 植物の絵と生息域も書かれていた。

 これならば、なんとかなる。

 森の中に足を踏み入れる。仲間と相談し、前後の警戒に1人ずつ、2人が枝拾いをすることになった。

 ゆっくりと通りやすい道を探して歩んでいった。最悪、2日目中に花を採取できれば、最後日に急いで戻れば良い。

 注意を払いながら森を進む。日が傾き始めた頃、前方に動く影を見つけて注意の声を上げる。

 他の訓練者だろうか?

 声をかけようか迷いながら、それを観察する。やがて姿が見えた。ゴブリンだ。

 悲鳴を上げそうになり、声を呑む。安全な森のはずなのに、どうしてこんなところに。

 いや、安全といっても普段は安全というだけだ。昨日ゴブリンが迷い込んでいたら、それを察知する方法はない。

 やるか、隠れるか、やりすごせるのか?

 剣を握りしめ、唾を飲む。仲間たちも硬い表情だ。

 しばらく様子をみるが、1匹だけだ。他にいないのであれば、戦った方がいいかもしれない。

 やりすごしても後ろから襲われる危険は残る。1匹だけなら、4人で囲めばなんとかなる。

 剣を抜く。剣をつかむ手が白くなっている。

 雄たけびを上げながらゴブリンに切りかかった。ゴブリンは慌ててよけようとするが、動きが鈍い。

 全員で囲んで切り続けた。ぴくりとも動かなくなって、剣を振るのをやめた。

 やった。倒せた。

 剣を鞘に収めようとするが、指が固まって離れない。

 深呼吸をして心臓の鼓動を和らげる。今度は離れた。

 疲れたから休みたいが、ゴブリンの死体の傍で休みたくはない。体を引きずって進む。

 森を進むと拓けた場所にでた。まだ早いが今日はここで野営することにした。

 日が暮れる前に食事を取り、交代で休みながら見張る。暗くなってからは火を絶やさないように注意する。

 朝が来た。疲れは取れていないが、手早く朝食を食べて出発する。

 今日は急がないと、指令を達成して戻れないかもしれない。

 昨日よりも少しだけ急いで森を歩く。

 なんとか昼過ぎには目的地の近くまで行けた。

 前方が騒がしい。この声はコボルトだ。

 慎重に脚を運び、草陰から様子を伺う。目的の花の周囲にコボルトの群れがいる。数は十匹を超えている。

 体が強張る。ゆっくりと、慎重に、静かに来た方向へ戻る。

 充分に離れて、息をつく。

 最悪だ。まさかコボルトが巣を作ってるなんて。何て運が悪いのだろう。

 仲間達と話し合う。戦うべきだろうか?

 俺達の2倍、いや、3倍の数がいる。勝てない。勝てたとしても、何人か死んでしまうかもしれない。

 誰もが戦いたくなかったが、言い出せない。

 そうだ。あの花が咲いているのがあそこだけとは限らない。近くに生えてるんじゃないか?

 皆が頷く。コボルトがいる場所に拘る必要もない。他を探そう。

 コボルトと鉢合わせしないように、慎重に周囲を探していく。歩みはとても遅い。

 日が暮れるまで探したが、花は見つからなかった。時間切れだ。

 明日には来た道を戻らないと帰りが間に合わない。

 指令を達成できなかったが、3日間乗り切ることはできるだろう。

 半分達成できただけでも上出来だ。


 3日間を森の中で過ごして帰還

 ただし、指令は未達成

 監視員より、目的地にたどり着いたが戦闘を避けて指令を達成できなかったと報告あり

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