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バリスタと呼ばれた少女  作者: 風早
バリスタさんと奴隷商人
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第4話

 馬車に乗り、空を駆ける。

 今日は3人買えた。最近は調子が良い。連中には感謝しなければならない。

 魔物の方はあまり捗っていないが、元々条件が厳しいのだ。焦る必要もないし気長にやれば良い。

 充分な数を揃えたら、十字の街に魔物を解き放つ。

 交易の中心である街が被害を受ければ、周辺各国にも大きな被害が出るだろう。

 しかし、充分な被害を与えるだけの魔物を入れるにはあの建物はいささか小さい。

 計画的にも他に拠点があった方が良いだろう。

 あの建物ほど条件の良い場所が他にもあるだろうか?

 下水道の一部を拡張するのはどうだろう。あまり頻繁に入ると怪しまれる。

 やるとしても計画の末期か、怪しまれない通路を手に入れてからだ。

 なるほど、下水に入りやすい建物を買うのは良いかもしれない。

 先のことを考えると楽しくて笑ってしまう。

 魔物の調達ペースから考えて10年以上掛かるだろうが、それで良い。

 重要なのは確実に十字の街へ被害を与えることだ。

 おっと、十字の街が見えてきた。慌てて高度を上げる。

 充分な高度を得たまま街の上まだやってきたら、姿隠しの魔術を使う。

 ゆっくりと人のいない道を探しながら高度を下げる。

 今日は調子がいいようだ。建物にそのまま繋がる道に人影がない。

 音を殺して着地すると、魔術を解く。馬車を走らせ建物に近づく。

 おや、馬車を庭に入れる入り口に杭が立てられている。

 柵でもないし、縄が張ってあるわけでもない。入り口の中央に杭が立てられているだけだ。

 子どものいたずらだろうか?

 飛べば避けて入れるし、馬に踏み倒させても良い。だが目立つだろう。

 仕方ない。慣れない二本脚で立ち上がり、馬車を降りる。

 周囲を見渡すが人影はない。

 杭を軽く揺すってみるがびくともしない。かなり深く刺さっているようだ。

 一体誰がこんなことをしたのだろう。

 杭を抜こうと両手で掴む。



 その日の内に、役所の手続きも無事にすんだ。

 建物の庭の入り口が見える家を買い取ったのだ。

 その家に向かう途中で工務店により長くて頑丈な杭を買う。

 買った家の中で模様替えも必要だ。家具店によって頑丈な棚や椅子、毛布を買う。

 重要なのは邪魔になるものがないことと、ちょうど良い高さであることだ。

 買ったものは荷車を借りて持って帰った。すぐに家の中に配置する。

 少しよくない部分があったらしい。娘の指示で建物の壁に穴を空けて調整する。

 夜になったら早い内に杭を庭の入り口に打ち付けに行く。馬車がやってくるのは深夜以降というのは聞き出しいて間違いない。

 娘が拳を杭に打ち付けるとずぶずぶと地面に沈んでいく。

 ハンマーを買うのを忘れていた。娘も棍棒を壊したことを忘れていたらしい。

 大きな音が鳴らず、逆に良かったかも知れない。

 ここまですると吾輩にできることはほとんどない。

 娘は寝台の上で俯せになり、構えに入った。

 巨大なクロスボウを室内で展開し、銀の矢を番える。

 そのまま空けた穴からあの建物の庭を狙う。

 持久戦という言葉があるが、この娘にとっての持久戦はどれほどのものだろうか。

 娘は毎晩、身動ぎ一つせずに狙い続けた。

 それでも娘がいうには、日中休めて楽な方らしい。1番長かったときは1週間同じ体勢で狙い続けたそうだ。

 吾輩は小さじを使って娘の唇を湿らせ、魔術で適温を保った。

 4日目、吾輩が空からくる魔物を感知した。

 娘に知らせてこっそりと外に出て空を見る。翼がない馬が空を駆けている。あれは天馬の一種か。

 家に戻り来たと伝える。娘は短く判ったと返した。

 目論見通り、杭を見つけた家主が馬車から降りる。歩き方がぎこちない。怪我をしているのか?

 家主が杭を両手で掴んだ瞬間、矢が放たれた。

 一拍遅れて家の中に弦の震える高い音が響く。

 矢は違わず放たれた。家主の頭が破裂する。勢いを残した矢は天馬の胸に深く刺さった。

 天馬は嘶きを上げて倒れた。

 少し遅れて、家主が前のめりに倒れる。そしてその姿が膨張する。

 3mほどまで膨れた体は赤い毛のライオンに変わった。

「あれはマンティコアか。ヴァンパイアかと思っていたのじゃが」

 マンティコアが人間に化けていたのか。そんな話は聞いたことがない。

 すぐに二人で家から出て、死体を調べに行く。

 マンティコアの死体の下に腕輪が落ちていた。魔法の品だ。

 解析の魔法を使って調べると、登録した生物に変化する魔法が掛かっている。

 腕輪に嵌められた4つの宝石にそれぞれの生物の一片を入れると登録できる。

 2つはもう嵌められている。残り2つだ。

 デメリットは吾輩の使う変化の術と違い、体の動かし方などを1から学ばないといけないことか。

 本来は違う生物になるものではなく、違う人間に化けるためのもののようだ。

 吾輩が持っていても仕方がないものだ。娘に渡す。

「有り難く受け取っておくのじゃ。後で使い方も教えてたもれ」

 娘が嫌な笑顔を浮かべたが何をするつもりだ。

 家主の死が確認できたので、後は打ち合わせ通りに地下への扉を開け放つ。

 吾輩がこっそりと忍び込み、静かに魔物の息の根を止める。

 朝になれば家主の死体で騒ぎになり、捕まっている奴隷達も見つかるだろう。

 吾輩も娘も奴隷達の世話などしたくなかった。

 無事に済んだことを娘に告げる。娘は解体用のナイフで天馬をばらしていた。肉屋にでも持って行くのか?

「そんなわけなかろう。矢を見つけられたくないだけじゃ」

 なるほど。証拠隠滅といえば買った家もある。

 娘が天馬をばらしている間に家に行き、壁の穴を埋めて家具をバラバラに配置し直す。

 これで充分だろう。

 娘と合流して吾輩の家に戻った。娘はそのまま眠りについた。忙しいことだ。


 後日、あの建物が無事捜索されて奴隷達が解放されたことを娘から聞いた。

 奴隷達は南西から連れてこられていた。少なくない村が何者かに襲われて壊滅しているらしい。

 何かと騒がしいことだ。

 娘に腕輪の使い方を教えると、がしりと首の後ろを捕まれた。

 待て、何をする。

 そのまま空いている手で腰の毛をむしり取られた。

 ぶちぶちと千切れて悶絶する。

 娘は吾輩を放りだすと、吾輩の毛を腕輪の宝石に入れた。

「依頼料じゃ。というか連れてこられたときの恨みはこれでなしにしてやろうぞ」

 なんと我が儘な娘だろうか。

 毛をむしられた腰が寒い。解決したらすぐにドワーフの街に向かおうと思っていたが、毛が生え替わるまで待つとしよう。

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