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感情の摩天楼(6)

 そう。

 ミーアにとって、この国は最初から、守る価値のあるものではなかった。彼女の故郷ではあったが、それに対する愛国心など持ち合わせてはいなかったのだ。騎士団にいながら彼らの行動を冷めた目で見ていたのも、それが理由だ。

「僕は君を守りたい……ううん、そうじゃない。本当は、ただ君と一緒に居たいだけなんだ。本当言うと、君が騎士団に入るのを賛成したのだって、本当は嫌だったんだ」

 この国にこだわっていたのは、ただ自分の我儘を聞き入れてくれたリックのためだけであった。自分から言っておいて後で中途半端に投げ出しては、リックに合わせる顔がないと思ったからだ。それも今日で終わりだ。

「君の意見を尊重した、って言うのは嘘で、本当は君を拒絶して、君との関係がギクシャクするのが怖かったんだ。キィちゃんだけじゃなくてミィちゃんも居なくなるんじゃないかって怖かったんだよ。だから君の言うことを認めた。嘘をついた。僕だって嫌な奴だよ」

 真に守るべきもの。自分の本当に帰る場所。それは、彼女の目の前にいたのだ。自分を偽るのももう止めよう。帰るべき場所に帰ろう。そう思った瞬間、心が嘘みたいに軽くなっていくのを感じた。

 ――そうじゃない。理屈じゃない!

「でも実際に離れ離れになって、すごい寂しいって気づいたんだ。あの時意地でも止めておけばよかったって何度も後悔した。だからもう僕は後悔したくない。どうなってもいい。君と一緒にいたいんだ!」

 もうどでもいい!ずっとリックと一緒にいたい!


 リックが一息にまくしたてた後、彼の顔は真っ赤になっていた。そして恥ずかしさを申し訳なさで赤くなった顔のまま、リックがミーアに言った。

「どうかな……って言っても、騎士団になっちゃったミィちゃんにはかなり酷な話かもしれないけど……」

「やろう。リック」

「え?」

 即答してきたミーアにリックが困惑する。

「だ、だけど、ミィちゃん、いいの?せっかく騎士団の団長になったって言うのに」

「いいんだ。私ももう、自分を誤魔化すのに飽き飽きしていたんだ。今までは我慢して来たけど、でも今回のあれでもう吹っ切れた。騎士団は抜けようと思えばいつでも抜けられるしな」

「でも、なんだか僕の都合だけで動いてるような気がして……」

「勘違いするな。私だって、その……お前と離れ離れになるのはもう嫌なんだ……」

「ミィちゃん……」

「だから、お前の提案は、私にとっても天の助けに等しい物なんだ。私だって嬉しいんだ、リッくんが大胆になってくれてな」

 そう言って、ミーアが意地の悪い笑みを見せる。リックはもう拒絶できなかった。否定しない代わりに、自分に言い聞かせるようにしてミーアに尋ねる。

「じゃあ、本当にやるんだね?」

「ああ、今日王宮に行って、騎士団を辞める旨を伝えてくる。出発はその後。すぐにしよう」

「着替えとかはどうする?」

「私は団長だぞ?使ってない金は腐るほどあるんだ。好きなだけ持っていって、旅先で好きなのを買えばいい」

「ミィちゃん、強かになったね」

「処世術だよ。騎士団長たる者、こうでなくてはな」

 立ち上がったミーアが胸を張り、小さく笑みをこぼす。それはリックが子供の頃に見た、意地っ張りな所のある、大好きな女の子の笑顔。

 それにつられてリックも笑い出し、その二つの笑みは互いに互いを刺激し合い、段々と深く大きくなっていく。

 心のつっかえが取れたように、二人は暫くの間大いに笑い合っていた。


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