交狂曲「デススマイルズ」(1)
王宮に戻ったミーアの心は躍っていた。
つり橋を渡って無駄に大きい正門を潜り抜け、巨大なホールの右手奥にある鉄製の扉をノックする。「入れ」という声と共にミーアが扉を開けると、そこは四方を本や資料がぎっしり詰め込まれた本棚で囲まれた小さな部屋だった。そしてその正面に見える机を挟むようにして、メガネをかけた痩せぎすの大臣が毛皮の椅子に深々と座っていた。
彼こそが騎士団員の統括を行っている大臣であり、退団手続きは彼と行うことになっていた。手続きと言っても、単に大臣に自分が騎士団を抜ける旨を報告するだけで事足りた。
臆することなく大臣と対面したミーアが、迷いのない口調で騎士団を辞めることを大臣に伝える。今まで自主的に辞める者がいなかったために、それを聞いた大臣は顔を真っ青にした。
「ほ、本気なのか?本気で騎士団を辞める気なのか?」
「はい。もう決めたことです」
「なぜだ?なぜ辞めようと思ったのだ?今の待遇に不満があるとでもいうのか?」
「申し訳ありませんが、理由をお話しすることは出来ません。とにかく、明日にはこの国を出ようと思っておりますので、よろしくお願いします」
未だに信じられないというふうに無様に狼狽し続ける大臣にどこか蔑みの色を含めた目つきを投げかけながら、ミーアがそそくさと部屋を抜け出す。呆気ないが、これでお終いだった。
本当、こうするだけで良かったんだ。
今までの五年が酷く空虚な物に感じられたが、ミーアはそれ以上過去に思いを馳せることを止めた。これからはリックと二人で、新しい旅を始めるのだ。今はその事に気分を集中させるべきだ。そう思いながら、 ミーアは荷物整理の為に一旦自室に戻ることにした。




