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全ての人の魂の歌

 パカパカパカ。

 月明かりの下、白馬の蹄鉄が小気味よいリズムを奏でる。その馬の背中に、二つの影が縦に並んで座っていた。

 前に座り手綱を握る影は人間のもの。そっと付き従うように後ろに座る影は人間を捨てたもの。種族の壁を越えて、二人の心は一つに繋がっていた。

「でもさ、実際どんな感じなの?」

 二人だけの旅路を行く中で、不意に前に座るリックが尋ねる。

「どんなって?」

「魔物になる感じだよ。やっぱり違和感とかあるの?」

「違和感か……」

 落ちないようにリックの腰に触手を巻きつけながら、後ろに座るミーアが首をかしげる。

「うん。まあ、あるにはあるんだが……なんて説明したらいいものか……」

「そんなに言いにくい物なの?」

「言葉にするのが難しいんだ。それは私じゃないって気持ちも確かにあるんだが、でもそれは生まれながらにして持っていたって言う気持ちもどこかにあって、それも身体の一部なんだと認めることも出来るし……」

「なんだか複雑だね」

「こればかりは実際になってみないとわからない感覚だと思うんだよな。やっぱり」

 そう言って締めるミーアの言葉を受けて、リックがどこかうわ言のように呟いた。

「僕もなってみようかなあ……」

「どういう意味だ?」

「いや、僕も魔物になって見ようかなってさ」

 そう言って苦笑するリックに、ミーアが呆れながら返す。

「止めておいた方がいいぞ。人間が魔物になるのは、誰でも出来る訳じゃないらしいからな」

「やっぱりそういうものなんだ……でも、もしもだよ?もしも僕に君と同じくらい適性があったとしたら――もしそうなら、僕も魔物になりたいんだ」

「たとえそうだったとしても、私は反対だな」

 リックの言葉をミーアがバッサリと切り捨てる。不満を隠すことなくリックが詰問する。

「ぶー。ミーアの意地悪。どうしてそういうこと言うのさ?」

「言わなきゃ駄目か?」

「駄目。許さない」

「参ったな……」

 困ったように左手で頬をかきながら、やがて顔を赤くしてミーアが言った。

「……その、お前が強くなったらさ。お前のこと、守れなくなるじゃないか……」

「……え?」

「私はお前の剣だ。お前を守る一振りの剣なんだ。私はそうありたいんだ」

「……僕だって」

 ミーアの告白を聞いて飛び上がりそうになる心を抑えながら、リックもまた本心を打ち明ける。

「僕だって、君のことを守りたいんだ。君が剣なら僕は盾だ。僕は君を守る盾になりたいんだ」

「リック……」

 耳まで真っ赤にしながらミーアが呟く。しかしそれを誤魔化すように意地の悪い笑みを見せながら、リックの耳元でミーアが言った。

「だったら、このくらいは耐えてもらわないといけないよなあ?」

「ひゃん!?」

背中の触手の一本を動かし、脇の下をそっと撫でる。

「ほらほら、どうしたどうした?盾様がそんな甲斐性無しでいいのか?」

 次々と触手を動員し、がら空きの両脇をくすぐり倒す。

「ひ、やめて、やめて、それは卑怯だよそれは!」

「卑怯もラッキョウもあるものか。ほうれどうしたどうした。この程度で音を上げるのか?意気地なしめー」

「う、うるさい!ミーアの馬鹿!やめてよ!やめてって、ひ、ひはははは!」

 落ちないようにしながらも笑い転げるリックを見て、ミーアはこの上ない満足感を覚えていた。姿形は変わってしまったが、自分の求めていた日常は確かにそこにあった。

 これであいつもいれば――そこまで考えて、ミーアは自分があるとっておきの情報を持っていることを思い出した。

 ひと段落したら、あの事を教えてやろう。きっとリックも喜ぶぞ。いや、先に驚くだろうか?「僕もなる」と駄々をこねるだろうか?

「反応が楽しみだな」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ……ふえ?なに、どうしたのミィちゃん?」

「ん、いや、少しお前に話しておきたいことがあってな」

「僕に?何の話だい?」

「あいつに関する、とっておきの手がかりだよ」


 人間と魔物を載せた白馬が、夜道をゆっくり歩いていく。

 二人の恋路は、始まったばかり。


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