Fall(3)
その報が各国家に届けられたのは、ミーアとリックが再会したすぐ後のことだった。
一匹の魔物が突如王宮内に現れ、王族と貴族階級の人間数百人を皆殺しにしたという。そして討伐に向かった騎士団を全滅させると(殺した訳ではないらしい)、それ以外の人間には目もくれることなく、ローブを纏って表通りを疾駆し、闇の中に消えて行ったという。
これが後にゲルトラントの虐殺と呼ばれる事件であったが、これには続きがあった。
ゲルトラントの政治や軍隊を動かしていたのは基本的に貴族階級の人間たちであった。だから彼らを統率するべき存在が全滅した今、ゲルトラントの防衛力は大きく低下していた。最大戦力であった騎士団が全く使い物にならなかったのも、それに拍車をかけていた。
そしてその隙を、魔物たちは見逃さなかった。
大挙してやってくる魔物を前に、ゲルトラントの人間はただ門を閉めて耐えるしかなかった。しかしその門を前にして、魔物たちは突如その侵攻を止めてしまったのだ。そして櫓で弓を構えたまま訝しむ衛兵に対して、魔物の一匹がおもむろに叫び始めたのだった。その内容を聞いた衛兵は自分の耳を疑った。魔物が叫んだ内容は、要約すれば次のようなものだった。
原因はわからなかったが、魔物という種族は、何十年も前から同族間で子を成すことが困難になっていた。出来ないことも無かったが、一組の夫婦が一生のうちに子を成す確率は一パーセントにも満たなかったという。そもそも魔物の男女比率は男性の割合が極端に少なく、そうした要因も重なって、彼らは種の存続の危機に陥っていたという。
その現状を憂えた魔物の長は、一つの決断をした。それまで接触を控えていた人間に近づき、彼らと交わって子を成そうとしたのである。この決定を下した時には、すでに彼らは絶滅するかしないかの瀬戸際にあった。この現象について研究する時間も残されていなかった。強硬手段に出るしかなかった。
そう。魔物たちは殺戮や侵略のために動いていたのではない。『繁殖』のために、各国家を襲撃していたのだった。襲撃と言っても、それはどちらかと言えば人間の方から仕掛けてきた攻撃に対する防衛が殆どであったり、人間を攫うのだって彼らの本意ではなく、ある意味で最終手段であった。実際、攫ってきた人間にはしっかりと事情を説明し、魔物と契りを交わした人間は、その後は彼らの棲家で夫ないし妻と共に平穏無事に過ごしているという。
それを聞き終えた時、ゲルトラントの国民は大いに揺れた。レイグナス教徒に無許可でセックスした者は死刑というふざけた法令が、一時期本気でまかり通っていたような国である。国民のフラストレーションは限界まで溜まっていた。そして今、彼らを縛り付けるレイグナス教徒――貴族階級の連中はこの世にいない。
本能が道徳心を越えた瞬間だった。ゲルトラントの人間は、自分たちの方から門を開けた。
数か月後、地図からゲルトラントの名前が消えることになるが、そこで魔物と共に過ごす人間たちはとても幸せそうであったという。




