甘美なる搾取の祝宴
『カルロッテ様、もっと……もっと僕を見て……!』
『画面越しなのに、身体が熱くて、どうにかなりそうだ……!』
狂乱するコメント欄の熱気が、ディスプレイを越えて私の肌にまとわりつく。
何万もの羨望、性的な羨望、そしてひれ伏したいという屈従の意志。その「歪んだ欲望の眼差し」が集まれば集まるほど、私の新しい肉体はより瑞々しく、より凶悪な磁力を帯びていく。
「……あ、は……っ」
不意に、下腹部の奥深くが、じりじりと焼け付くように熱くなった。
引き締まった少女の、陶器のように白い下腹部。
そこに、私の意思とは無関係に、どす黒い紫色の光がじわりと滲み出てくる。
それは皮膚の内側から浮かび上がる、おぞましくも美しい「淫紋」。
ハートを逆さにしたような歪な意匠に、蝙蝠の羽と茨の棘を絡ませた、サキュバスとしての絶対的な身分証だ。
それが脈打つたびに、私の喉は、砂漠の真ん中に放り出されたように激しく渇き、疼きを求めて悲鳴を上げ始める。
「ねえ……みんな。今日も私に、たくさんの『お食事』をくれるかしら?」
私はドレスの裾を少しだけ持ち上げ、液晶画面に向けてその妖しく発光する紋章を、ほんの少しだけ見せつけてあげた。
ネットの向こうで、何万人もの男たちの「息を呑む音」が、電脳の海を通じて確かに私に届いた。
深夜零時:スクリーン越しの捕食
サキュバスの「食事」とは、肉の交わりだけではない。
むしろ、画面の向こうで私に焦がれ、狂い、自我をすり潰していく男たちの「魂の残滓」と「生命力」こそが、最も極上の栄養源だった。
私は、あの日私を突撃しようとして、今や私の奴隷となった若い配信者のアカウントを画面にピン留めする。
「ねえ、そこのあなた。……私のために、もっと熱くなって?」
画面の向こうで、彼が狂ったようにキーボードを叩き、全財産を投げ打つような高額のギフトを贈り始めるのが分かった。
それと同時に、彼の精神が、彼の持っている「若さ」と「エネルギー」が、光の回線を通じて私の元へと流れ込んでくる。
(……ああ、入ってくる)
ゾクゾクとするような快感が、背骨を駆け上がった。
男たちの執着、恋焦がれる苦しみ、自分では決して手に入らない美への絶望。
それらが濁った紫色の霧となって、スマートフォンの画面から文字通り這い出し、私の鼻腔へと吸い込まれていく。
「ん……ぅ……、あは……っ」
美味、という言葉すら生ぬるい。
45年間、安物パンと腐りかけたコンビニ弁当で胃袋を誤魔化してきた「日影薫」の、死んでいた味覚が、この瞬間だけは狂喜乱舞して叫び声を上げている。
(もっと、私に注ぎ込みなさい)
(お前たちの惨めな人生を、貯金を、プライドを、全部私に溶かして寄越しなさい)
吸い上げるたびに、下腹部の淫紋がさらにギラギラと、夜の闇を妖しく照らし出す。
私の喉の奥から、蜜のように甘い、そして毒のように冷たい吐息が漏れ、それが再びカメラを通じて世界へと伝染していく。
彼らは私を消費しているつもりで、その実、骨の髄まで吸い尽くされているのだ。
かつて私を踏みにじった「大衆」という名の怪物を、今度は私が、この小さな指先一つで、甘美な地獄へと飼い慣らしている。
「……ふふ。今日も、ごちそうさま。良い子にしてたら、また明日も、撫でてあげるわね」
配信の切断ボタンを押した瞬間、部屋は元の、死んだような静寂に戻った。
しかし、今の私には、冷え切った六畳間などどうでもよかった。
私の肉体は、何千人もの男たちから吸い上げた生命力で満たされ、発光するかのように白く、そして滑らかに波打っている。
「……はぁ、……あはは」
床に横たわり、漆黒の長い髪を散らしながら、私は自分の身体を抱きしめる。
下腹部の淫紋は、食事を終えて満足したように、今はかすかな微熱を残して、じわじわと皮膚の奥へと沈み込んでいく。
かつて、この部屋で「死にたい」と呟いていた45歳の男は、もうどこにもいない。
この魔性の肉体がある限り。
私を、カルロッテを求める、狂った世界がある限り。
私は明日も、男の「泥」を被りながら、夜に咲く最高に美しい「悪の花」として、その生を謳歌し続けるのだ。




