11−50 死神さん、ギブアップ(+おまけNo.9)
モフモフ達の熱視線を物ともせず、冷静にギノにレクチャーを続けるマモン。しかし……そのあまりの集中力に、思わず脱帽してしまう自分がいる。あぁ、なるほど。真祖様は集中力も段違いなんだな。
「……どう? ちっとは感覚が掴めそうか?」
「は、はい。ただ今一つ、動きのイメージが掴めないというか……。どんな感じで相手を攻めればいいのかが、よく分からないです……」
「あぁ、そりゃそうだろうな。それじゃ、最後にデモンストレーションでもするか。それに、そろそろ手首に疲れが出てるんじゃない? 今日はこのくらいにして、少し休んでいろ」
「は、はい……すみません……」
「別に謝る必要はないだろーよ。初めてにしては上出来だと思うし、飲み込みも早い方だな。それに、基本の先は自分で磨くもんだ。試行錯誤しながら自分のスタイルを確立するのも、悪くないぞ。と、いうことで。ちょっと下がっててくれる? ……今、お相手を呼び出すから」
お相手……? 一体、誰に相手をさせるつもりだ……?
俺がそんな事を考えている矢先に、ギノを下げさせると、間違いなく物騒な呪文を詠唱し始めるマモンだが。えっと……ちょっと待って! まさか……死神にデモンストレーションのお相手をさせるつもりなのか⁉︎
「マ、マモン! ちょい待ち! ストップ、ストップ!」
「あ? どうしたよ、ハーヴェン。何をそんなに慌ててんだよ?」
「いや……だって、お前が発動しようとしているのって……」
「ジャッジオブデスだけど?」
「いや、いくら何でも、レヴナントを相手にするのは、キツいだろ! 大体、的は誰にするつもりなんだよ!」
「もちろん、俺自身をターゲットにするけど……何か問題が?」
「問題だらけだろ! 一歩どころか半歩でも間違えば、一発アウトじゃないか!」
「あぁ、そんな事か。別に相手が死神だろーが、死霊だろーが、アウトになる前に切り伏せりゃ、どうって事ないだろ?」
そんな事か……って。相変わらず冷めた表情で、サクッと俺の心配を流してくるマモンだけど。……本当に大丈夫なのか?
「悪魔の旦那。グリード様が発動しようとしている魔法って、もしかしてあの時、旦那が病院で使ったやつですかい?」
「あ、そっか。ハンナとダウジャは俺が使っているのを、見たことがあったっけ」
「え、えぇ。でも、目を閉じていましたから、どんな魔法かは分からないですけど……。そんなに危ない魔法だったんですか?」
「うん、冗談抜きで危ない魔法だな。所謂、即死魔法なんだが。不死身の死神を呼び出して、対象の命を刈り取らせる魔法で……残った体も綺麗さっぱり持っていかれるから、引っ掛かった場合は、冗談抜きで復活不能だ」
「そ、そんな魔法を自分に?」
俺が説明した魔法効果に怯え始める子供達を他所に、簡略化も交えてアッサリ闇属性の上級魔法を発動するグリード先生。……俺としては、不安しかない。
「初狩の鐘を打ち鳴らさん、弓付きの刃を振り降ろさん。我は死を望むものぞ、ジャッジオブデス……っと。ハイハイ、死神さん相手にレイピアの使い方を演習しまーす。身のこなしと足捌き、剣先の運び方に特に注目する様に。それじゃ。お相手、よろしく!」
呼び出された矢先に、鎌を振り回し始めているレヴナント相手に余裕の挨拶をかましつつ、改めて鋭い視線で相手を見据えるマモン。まっすぐにレイピアを構え、左腕は腰に回しながらも器用に武器の先だけで、レヴナントの斬撃を幾度となく弾き返し始める。えぇと……真祖様はこういう部分も型破りなんでしょうか……?
「ハーヴェン……相手の死神さん、何なんだこの人って、思っているみたいだけど……」
「だろうな。まさか、お稽古の相手をさせられるなんて、不死身の死神さんは夢にも思わないだろうな……」
「あぁい……凄いでヤンす!」
「そりゃ、そうでしゅよ。何たって、パパは魔界一なんでしゅから!」
エルノアの解説によると、相手の死神もこの想定外にどうすればいいのか、困惑しているらしい。骸骨の顔からは、感情を窺うことはできないが……幾度となく自慢の鎌を弾き返されて、首を刎ねるどころか、切り傷1つ与えられないなんて完全に予想斜め上だろう。一方、マモンは真っ直ぐな体勢と呼吸を僅かに乱す事もなく、まるで踊る様な軽やかな足取りで的確に相手の攻撃を防ぎながら、少しずつ攻勢を押し返し始めた。そして……。
「あっ……死神さんの鎌が……」
「折れちゃった⁉︎」
ご本人様の解説にあった「脆い部分」を執拗に攻めた結果だろう。優雅に体を旋回させながらの一撃は、確実に得物の急所を突いたらしく、大鎌が甲高い金属音の悲鳴を上げながら、無残に破壊される。そうなればこっちの物と言わんばかりに、今度は死神さん本体を容赦なく滅多突きにかかるマモンだが。……ここまでくると、レヴナントが可哀想に見えてきた。
「……さって、と。こっからは、ちぃっと本気で行くぞ? 木っ端微塵にされたくなかったら、逃走もアリだと思うけど。俺としては、最後まで粉砕する方が気分がいいかな?」
相手が舌を持たないのをいいことに、一方的に嘯いて更に容赦ない連続攻撃を仕掛け始めるマモン。というか、さっきまでは本気じゃなかったのかよ。しかも、いよいよ彼の腕の動きが早すぎて、全く見えなくなってきているんだが。このお方はさっきから、死霊相手に何をしてるんだ?
きっと……「呼び出しといて、それはないだろう」が向こうさんの本音だと思う。
「……? ………………⁉︎ …………、…………‼︎」
「死神さん、ギブアップって言ってる……」
ですよねー。エルノアに言われずとも、死神さんがギブアップ希望なのは間違いなく。レヴナントが泣けるのだったら、とっくに涙目だろう。
「それにしても……レイピア1つで、ここまでできるものなんですね……。僕も頑張らないと!」
「坊っちゃま、頑張るです?」
「パパみたいになるですか?」
「いや、あそこまでできなくていいと思うけど……」
「あ、あい……坊ちゃんもあんな風になったら、おいら、ちょっと怖いでヤンす……」
見ればレヴナントが両掌をマモンの方に向けて、助けてとジェスチャーしている様子。完全に弱腰な姿勢といい、高級感があった法衣が穴だらけにされているのといい。……確実に死神さんの方が被害者だろうな、これは。
「……チッ! ったく、不死身のレヴナントが情けない! ハイハイ、だったら退散していいから。ほれ、これも持って帰れよ。後を濁さず、がお前らの基本だろーが!」
戦意喪失している死神さん相手に舌打ちで応じた挙句に、無残に刺さっていた大鎌の刃先を拾い上げると、そのまま放り投げるマモン。そうして、刃先が見事に死神さんの肩に着地して、ザックリ深々と突き刺さる。
……いくら相手が不死身だろうとも、何もここまでしなくてもいいだろうに……。
「……と、まぁ。動きとしては、こんな感じか。レイピアを扱う上で重要なのは、しなやかな動き……相手に合わせてこちらも手数を整えつつ、的確に攻める事がとても大切なんだ。……つっても、俺自身はレイピアはあまり使いこなせていない部分があるから、自分でも工夫する様に」
「は、はい……。だけど……今ので使いこなせていない……になるんですか?」
色々と散々だった死神さんがスゴスゴと帰っていくのも、見送らないまま。こちらに向き直って、そんな事を宣う大先生だが……俺もギノに同感だ。仏頂面を見るに、謙遜でもなく本心だろうが。そんな事を言ったら、レイピアを本当に使いこなせている奴なんて、この世に存在しないのではないかと思えてくる。
(何れにしても、ギノにとってはいい刺激になったみたいかな? これでもう少し、活発になってくれるといいんだが)
興奮冷めやらぬと、武器の使い方について大先生を質問攻めにしているギノと、面倒がらずに、1つ1つに的確な答えを返すマモン。最後はしっかりと武器の手入れについてもお答えを頂けて、ギノも満足した様子だ。ギノは魔法や植物以外でも、理屈が通っていればしっかりのめり込めるみたいで……対象が武器の扱いとあれば、それに付随して体を動かす事も覚えてくれるかもしれない。
机に向かうのも大いに結構だけど、体も動かせば気分がしっかり上向くというもので。内向的になりがちなギノにとって、マモンのお稽古はとっても刺激的だったに違いない。そうだな……今はちょうど季節もいいし、本格的に冬になる前は、庭先でお茶をするのも悪くないかな。
※コンタローの呟き No.09
あい! 皆様、日頃のモフモフは足りていますか? モコモコ担当のコンタローでヤンす! 今回も元気に「大きさの情報」を振りまきにやって来たですよ!
えぇと、今日のお題は……何でヤンしょ?
『お屋敷メンバーの大きさについて』
……あの、今更ですか? 今更でヤンす? 他のことよりも、早く紹介するべきだった気がするんですけど……。
あぁい、とにかく気を取り直して。おいら達の大きさについて、紹介するでヤンす。
以前、おいらは40センチくらいだと、お話ししたと思いますけど……。同じモフモフ仲間のダウジャは、おいらよりもちょっと大きめの、55センチくらいでヤンす。で、ハンナはおいらよりもちょっと小さめで……35センチくらい。それと、坊ちゃんは162センチ、お嬢様は153センチでヤンす。後は……あぁ、神父様は確か167センチくらいだったです。
今回はこんなもんでしょうか?
久々においらも知っている情報をしっかり紹介できて、安心したでヤンす……。今日もここまでお付き合い頂けて、嬉しかったでヤンす! またお会いできた時は、よろしくです。
ありがとうございました!




