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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第7章】高慢天使と強欲悪魔
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7−40 “悪意”という感情

 お城の人に尋ねると、お祖母さまは具合が悪くてベッドにいるって言われた。

 お祖母様ならきっと慰めてくれると思って、お城まで来たけど。

 お祖母さまもお話できないなんて。

 分からないことは何でも教えてくれるはずだった父さまも、そしてお城の人も。

 今は誰も知りたい事を教えてくれない。


 自分で何かを考えるって、難しい。

 周りのみんながやってくれていた事を、自分でできるようになるのは、本当に難しい。

 私は今度お姉ちゃんになるのに、そんな事もできないまま。

 どうしよう。

 このままだと、本当に大人になれなくなってしまう。


 アウロラが言っていた事が間違いじゃない事も、何となく知っている。

 竜族は自分と向き合えないと、大人になれない。

 それは父さまにもずっと前から言われていた。

 だけど、自分と向き合うってどうすればいいのか分からない。

 それが分からないままだと、私は大人になれない。

 そして……。


(このままだと、本当にギノを取られちゃう……。ウゥン、その前にお嫁さんになる事もできない……)


 私は泣き虫だ。

 私はワガママだ。

 分からない事、気に入らない事があると、すぐに泣いて周りを困らせている。

 みんな困っているのも、私を情けないと思っているのも、本当は知ってた。

 知ってたけど、それを分かっているのを、みんなに分かられるのが怖かった。

 それを分かってしまったら、みんなに優しくしてもらえない気がして、怖かった。

 今の自分を許してくれる人がいなくなりそうで、寂しかった。


(あれは……叔母さま?)


 少し滲んだ景色の向こうに、ぼんやりとソワソワした様子の叔母さまが確かに見える。

 今であれば廊下には誰もいないし、誰かに私が情けない事を知られる心配もなさそう。

 叔母さまに相談すれば、何か教えてくれるかも……。


(……⁉︎)


 あ、あれ? この感じ……何?

 モヤっとした真っ黒い、そしてとっても冷たい空気。

 叔母さまの中に、何かよくないものがハッキリと見える。


 叔母さま、何をしようとしているの?

 叔母さま、その手に持っているものは何?


「叔母さま!」


 気づけば、声を掛けてしまっていた。

 声を掛けてしまった事をちょっと後悔したけど、もうどうしようもない。

 今の叔母さまは、いつもの叔母さまじゃない。

 私に気づいて、いつもの優しい顔をしてくれるけど、中に見える黒いものは……?


「あら、エルノア。久しぶりね。元気だった?」

「……う、うん……あんまり、元気じゃないかも……」

「そうなの? ……どうしたの、何があったの?」

「私、お姉ちゃんになるのに、何も自分でできないの。もっとしっかりしなきゃいけないのに……周りのみんなもちゃんと教えてくれるのに、何も分からないの……」

「……お姉ちゃんになるのは、とっても辛いことよね。親はお姉ちゃんを忘れて、新しい子供を可愛がるんですもの。……そうして、見捨てられたお姉ちゃんは愛をもらえないまま、寂しく大人になるしかないのよ」

「そ、そうなの⁉︎」

「えぇ、そうよ」


 そんな。

 父さまも母さまも私のこと、いらなくなるって事?

 そんなの、そんなの……!


「そんなの、ヤダ……!」


 叔母さまの中の黒いものが、紫と青い色に変化したのが見えたけど、またすぐにさっきよりも真っ黒に変わる。

 叔母さま、楽しんでる。

 私が苦しいのを楽しんでいる。

 そっか。

 叔母さまは……。


「……叔母さまはもしかして、私のこと嫌いだったの?」

「え? どうして? そんなこと……」

「だって今、私が悲しんでいるの喜んでた。叔母さまの中、真っ黒に染まった。……叔母さまは何を考えているの? そんな真っ黒な状態で……その手に持っているもので、お祖母さまに何をするつもりなの?」

「……⁉︎」

「袖の中にあるの、よくない物みたい。それ、どうするの?」

「嘘、でしょう? お前……まさか、私の感情が見えるの?」

「うん、なんとなく。今までは叔母さまのことはよく見えなかったけど……今はハッキリ見える。叔母さまの中に真っ黒い何かがモヤモヤしてる。……それ……よくない事を考えている人の中と、おんなじ」

「……そう。だったら、教えてあげるわ。これは“悪意”という感情なのよ」

「あくい?」

「そうよ。誰かが気に入らなくて、誰かがとにかく嫌いで。……私に女王の座を譲ってくれない母も、私から大好きな人を奪った妹も、そして……私から女王の座を奪おうとしている、お前も‼︎ あぁ! 本当に……何もかもが憎たらしい!」

「⁉︎」


 叔母さまが今まで見たこともない怖い顔で、袖の中にあった何かを私に投げつける。

 その悪いものはきっと、私にもよくないもののはず。

 それでも、私は逃げることもできずに……ただ目を閉じることしかできなかった。

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