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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第7章】高慢天使と強欲悪魔
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7−23 真祖の悪魔について

 湿っぽい空気はどうも、肌に馴染まない。ボクとしては報告も済んだ事だし……次は興味津々の話題について、聞いてもいいでしょうか? と思いつつ、お口の方が先走って、ポロリとお伺いの言葉が出ているけど。ま、この位は許されてもいいよね?


「それで……報告が終わったところで、質問をしてもいいでしょうか?」

「何だ? 別に構わんぞ」

「あ、はい。ルシフェル様は魔界で、どの位の悪魔に出会いました?」

「はて、向こうではヨルムツリーの根元に引き篭ってたからな……。大した数は遭遇していないように思うが……。一応、相当レベルの悪魔は挨拶に来たりもしたから、上級悪魔以上であれば一通りは会ってはいるか?」

「あ、そうなんですね……」

「それがどうかしたか?」

「いや、マモンは強かったのもそうなんですけど……。かなりのイケメンだったものだから、つい悪魔はみんな格好いいのかな、なんて思っちゃいまして。その辺、どうなのかな、と……」

「……」


 ボクが勇気を出して質問したら、みんな固まったようにこちらを見つめてくる。あ、どうしよう。コレ、いけないやつだったかな……?


「あぁ、なるほど。マモンも男前と言えば、その類なのかもしれんな。長い髪をたなびかせながら、飄々としている雰囲気は、確かにゾクゾクするものがある」

「……私は嫌いですね。人を食ったようにヘラヘラして、ハーヴェンを怒らせたりするし」

「ルシエルは既に素敵な旦那様がいるから、そうなるのかもしれんが……。まぁ、お前の意見はこの場合、あまりアテにならんな。ハーヴェン様が相手では、大抵は霞んで見えるだろう」

「フフフ……でしたら、そういうことにしておきましょうか」


 オーディエルに諌められて、ルシエルがちょっと満足そうな顔をするけれど。……なんだろう、超悔しい。


「あれ……? でも、マモンの髪、短かったよ?」

「そうなのか?」

「うん。短髪黒髪の美男子、って感じだったし……」

「ほぉ? マモンの奴、とうとう髪を切ったのか。本当に一体、何があったのだろうな。あいつの心変わりはさて置き、あの見た目で髪を切れば……ふむ。まぁ、悪くない。確かに……悪くないな」


 ボクが何気なく言うと、今度はルシフェル様が食いついてくる。やっぱり『愛のロンギヌス』に夢中になっている時点で、天使長様も中身は乙女なんだね。ちょっと安心したよ。


「何れにしても、ボクもちょっとハンサム探しに魔界に行きたいな、なんて思っちゃました。……で、どうなんです? 悪魔はみんな、イケメンなんですか?」

「どうだろうな? 真祖の悪魔以外は基本的に本性で生活しているから、見目の麗しさはよく分からん。マモンはそれこそ、真祖の悪魔だからあの姿のままだが……まぁ、若造みたいに人間に化ければはっきりするか? とは言え、化けた時の姿は闇堕ちする前の姿にかなり依存するようだから、その辺は運だろうな」

「な、なるほど……。そっか、大抵の悪魔は本性の場合は、イケメンかそうじゃないかは分からないんだ……。残念だなぁ……」

「でも、ハーヴェンちゃんは魔神の姿も素敵よね。しかも、肉球プニプニなんでしょ? 私も、あっちの姿のハーヴェンちゃんにも、会ってみたいわ」

「……ハーヴェンの肉球も私のですから。もう二度と、他の人には貸してあげません」

「まぁ! ルシエルは本当、意地悪なんだから。そんなケチなこと言わないで、ちょっとくらいプニプニのお裾分けしてくれても、いいじゃない?」

「嫌です」


 すっかり涙が乾いて、元気を取り戻したラミュエルがルシエルに「肉球プニプニ」のお触りを打診している。あぁ、確かに。ハーヴェン様はあっちの姿もマッチョだし、筋肉を基準に考えればある程度、見分けられるかな。


「フフフ。そういう意味では、サタン様もあのお姿のままという事か。あぁ、あの逞しい胸元に飛び込んでみたい……」


 ラミュエルとルシエルが肉球について言い合っているお向かいで、肉球プニプニを体験済みのはずのオーディエルがかの文通相手に思いを馳せている。そう言や、サタン様も真祖の悪魔だっけ。という事は……見た目に関しては、真祖の悪魔に狙いを絞ればいいって事?


「ルシフェル様。真祖の悪魔って、ルシフェル様以外に6人もいるんですよね? 後の奴って、どんな感じなんですか?」

「言われてみれば……お前達に真祖の悪魔について、説明をしていなかったな。確かに、その辺の情報は把握しておいたほうがいいかも知れんし……この際だから、彼らの特殊能力の部分も含めて説明してやろう」


 マモンがそこまで悪い奴じゃなさそうだってことが分かったところで、余興に気が回る余裕ができたんだろう。どことなく得意げなルシフェル様が、真祖の悪魔のことを説明し始めた。


「そうだな。ある程度、実力順に説明するとしようか。まず、今は大分落ちぶれているとは言え、おそらく現在でも最強クラスの実力を持っているのが、さっきまで話題に登っていたマモン……強欲の真祖だろうと思う。こいつは相手の畏れや敬意なんかを吸収して、桁外れの戦闘能力を発揮することができる。そのため、奴の強さは知名度と地位に比例すると言っていい。……私に負けた後、若造にも負けたと聞いていたが。それでも上級悪魔がある程度、束になっても蹴落とすのは難しい相手だろう」

「……って、事は。ハーヴェン様はあれに勝ったことがあるんですか?」

「あぁ、そうらしい。なんでも、マモンが無理やり乱暴しようとした相手を助けたとか。親のベルゼブブ曰く、若造は怒らせると予想外の実力を発揮するタイプらしくてな。まぁ、マモンも格下の相手に油断していたのだろうが。その時に角を折られてから……鳴りを潜めていると、聞いたことがある」


 この間、優しく料理を振舞ってくれた相手が……そんなに恐ろしー相手だなんて、思いもしなかったなぁ……。


「因みに、マモンの角で思い出したが。悪魔は低級になればなるほど、再生能力の恩恵を受けやすい傾向がある」

「そうなんですか?」

「ただし、これには胸糞悪い理由があってな。ヨルムツリーが下級悪魔の傷を優先的に再生してやるのは、弱い悪魔は何度でも袋叩きにされてもいいようにしているから、らしい。弱い奴は強い奴にいくら暴力を振るわれてもいいようにできている、という事だそうだ。とは言え、その最中は痛みも苦しみもあるのだから、される方としてはたまったものではないだろうな……。魔界とはそういう場所だという事も、併せて覚えておけ」


 そんな事を言いながら、ルシフェル様はさも嘆かわしいと首を振るけれど……。それは神界もあまり変わらない気がする。

 純粋な暴力なのか、言葉の暴力なのか。ただ、それだけの違いだ。やっている事は、悪魔も天使も大して変わりゃしない。


「更に言うとな、実は真祖の悪魔には再生能力がないから、角や翼なんかを落とされると、そのままだ。とは言え……現状、そう言った部分が欠損しているのはマモンとリヴァイアタンだけだし、他は大きな怪我1つしていないのだから、流石は大悪魔と言うところなのだろう。……まぁ、その辺の話はこのくらいにして、次の奴は……あぁ、ベルゼブブの方が上位か? 若造絡みで、お前達もよく知っているとは思うが。暴食の真祖にして、魔力部分で魔界最強を誇るのがこのベルゼブブで……こいつは冗談抜きで、曲者だな。闇属性のほぼ全ての魔法を使いこなし、最上位闇魔法4種の唯一の保持者で、魔法道具錬成のスペシャリスト。触覚が発達した器官で、相手の嘘を見抜く能力まである。その為、こいつを相手にする時は変に体裁を繕わない方がいい。基本的に面倒見が良い奴だから、いきなり襲いかかってくる事はしないだろうが……機嫌を損ねた場合は、しばらく遊んでくれなくなるから、要注意だ」


 しばらく遊んでくれなくなるって。子供じゃないんだから……。


「だが、暴食の悪魔の例に漏れず、好物を差し入れれば大抵の事は水に流してくれるようでな。……真祖の中では一番扱いやすいかもしれん」


 なるほど。ベルゼブブは単純、これも覚えておこう。それで、差し入れが有効……と。うん、確かに分かり易い。


「……で、3番目は憤怒の真祖のサタンだろうな。魔法能力は一番低いが、それを補って余りある、怪力と身体能力の持ち主で……自分の怒りを、そのまま力に変換することができる。あと、意外と統率に拘る奴でな。魔界で唯一、城と直轄の軍隊を持ち、配下の悪魔数もダントツで多い。ある意味、真祖の悪魔としての役割を最もきちんとこなしている奴かも知れん。しかし、統率が上手く取れているのもサタン本人が、というよりは……配下の悪魔が優秀だから、という方が正しいか」

「サタン様は不器用だが、とても優しい方なのだ……。きっと配下の多さも、それが理由に違いない」

「サタンが優しいだなんて、初めて聞いたが……。この間はそれなりに協力をしてくれたと聞いていたし、今はそれでもいいか」


 手を合わせてキラキラしながら、うっとりしているオーディエルの様子に、ルシフェル様は何かを諦めたらしい。明らかに呆れつつも、話を続けてくれる。


「で、次は……この後はどいつも大して差がない気がするが……。勢力的に言うと、次点は怠惰の真祖のベルフェゴールだろうか。永久凍土を縄張りにしている悪魔でな。怠惰の悪魔は熊系統の動物になるせいか、1年の9割を冬眠して過ごしている。当然、トップのベルフェゴールも殆ど寝ているな」

「だったら、永久凍土なんかを縄張りにしなければいいんじゃ……?」

「……甘いな、ミシェル。逆だ、逆。あいつらは冬眠をしていたいから敢えて、永久凍土を居住地に選んだんだそうだ。ベルフェゴール自体は魔力の部分で行くとベルゼブブに次ぐ実力者のようだが、如何せん、本気を出すこともないらしくてな。特殊能力として、魔力やエネルギー消費を最低限に抑えることができると聞いたこともあるが……。戦いの場に出たことがないあいつが、本当に強いのかどうかは謎のままなのだそうだ」


 何、それ⁉︎ 神秘のベールに包まれているにも、程があるでしょ! 真祖の悪魔がそれでいいの⁉︎


「それで……次は色欲の真祖のアスモデウス。真祖の悪魔の紅一点にして、魔界娼館の女帝でな。激しい性格と妖艶な姿を持つが、能力も特殊だ。強烈なフェロモンを発生させて相手の性欲を刺激し、洗脳することができるらしい。……ただし、嗅覚に訴えかける能力でもある為、嗅覚自体がない相手には効かないのと、他の真祖の悪魔相手には効果を発揮できないのだそうだ。そういう部分もあって、真祖の悪魔の中では順位は下だが、他者を意のままに操ることができる部分を考えれば、性格の複雑さも含めて、最も敵に回さないほうがいい相手だろう」

「あぁ〜、何だろう。勝手なイメージだけど、超嫉妬深そう」

「嫉妬深い、か。まぁ、それも間違いではない気もするが、彼女の場合はどちらかと言うと気難しいとか、気分屋とかの表現が合っている気がするな」


 うーんと。難しいお年頃のまま大人になって、ワガママになっちゃった、と。そんな感じかな?


「で、嫉妬といえば。最後の6番目が羨望の真祖、リヴァイアタンになるのだが……。こいつだけ逆方向に別格というか……。中級悪魔程度の実力しかないものだから、オマケで真祖の悪魔を名乗っている気がする。まぁ、いい。特殊能力としては、自身の体を水と同様に変化させることができてな。その気になれば液体だけではなく、気体になることもできるらしい。一応、以上で真祖の悪魔は全てだが……う〜ん、そういう視点で見てみると、真祖の悪魔は後は見た目は微妙なのしか残っていないかもな……。辛うじて、ベルゼブブはまだマシな気もするが……あいつは色彩感覚がメチャクチャな上に、他の部分で難がある。正直、他の真祖は見目麗しいには遠いな。外見だけで考えるなら、インキュバスの方が確実に美男揃いだろう」

「インキュバス?」

「有り体に言えば、男版サキュバスだ。中でもアスモデウス親衛隊の3人は殊更、美形だったぞ」


 おぉ! ここにきて、有力情報キター! 魔界に遊びに行く機会があったら、アスモデウスの所にお邪魔すれば、素敵な旦那様を探せるかもしれない。


「ただし、インキュバスもサキュバス同様に色欲の悪魔であるため、見境がない。特定の相手とくっつくなんて頭はハナからないから、もし若造みたいなのを探しているんだったら、色欲の悪魔は避けた方がいいだろう。惚れたら間違いなく苦労するし……って、私まで何を言っているんだ。……と、とにかくだ。恋をするなとは言わないが、余興は程々にしておけ。分かったな」


 最後は自分で妙に意味深なツッコミを入れつつ、ボクの淡い期待を粉々に打ち砕く天使長様。そんなぁ。期待させておいて、それはあんまりじゃないですか。……あぁ、どっかに素敵な出会い、転がってないかなぁ。

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