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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第7章】高慢天使と強欲悪魔
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7−17 出会いは、まさに運命

 マハさんの宮殿も立派すぎて目が回りそうだったけど、流石に女王殿下のお城は別格らしい。父さまのお屋敷や、マハさんの宮殿とは比べ物にならない大きさの門構えに……ただただ、驚くばかりだ。


「さ、ギノ。ここがお祖母様の住んでいるお城なの。早く行こ?」

「あ、うん」


 さっきまで僕より少し小さめの銀色のドラゴンだったエルが、見慣れたいつもの姿に戻って僕の手を引く。そう言えば、手を繋ぐなんて初めてだから……ちょっとドキドキする。


「おや、エルノア様。お久しぶりです」

「うん、久しぶり! 今日はね、将来のお婿さんと一緒にお祖母様に会いに来たの!」

「それはそれは。とっても素敵ですね!」

「でしょう?」


 門をくぐった後の、広い広い庭園の先。お城の入り口を守っている兵士さんに声を掛けられて、元気にそんな事を答えるエル。見れば……立っている兵士さんはみんな女の人みたいで、その様子からも、竜族の男の人が少ない事を実感してしまう。


「あ、初めまして……。あの、今日はエルのデートの練習に付いてきました……。女王殿下はお元気でしょうか」

「えぇ、本日もお加減がよろしいご様子で、いつも以上ににこやかにお過ごしですよ。是非、将来の王子様も女王殿下にお会いになってください」

「将来の王子様⁉︎ ぼ、僕がですか⁇」

「あら、エルノア様の将来のお婿さんとなれば、そういう事でしょう? フフフ、お似合いすぎて妬けてしまいます」

「あ、それはどうも……」


 どうしよう。お城の人達にまでそんな事を言われたら……ますます、どうしたらいいのか分からない。別にエルは嫌いではないんだけど……なんか違う気がする。


「……ギノ、大丈夫?」

「え? あ……うん、大丈夫。女王様もお元気みたいだし、折角だから、僕もご挨拶しようかな」

「うん!」


 広い廊下を進むと、更に広すぎてどうすればいいのか分からない大広間に出る。そこは交流の場でもあるらしい。色とりどりの鱗を纏った尻尾の人達が、あちこちで楽しそうにお話をしている。そんな中に知っている顔を見つけて、エルが元気よく誰かを呼び始めた。


「あ! 爺や! それと……ラヴァクールも! 久しぶり!」

「おや、エルノアちゃん。それにギノ君も。久しいのぅ」

「これはこれは、エルノア様。お久しぶりです」

「うん!」


 長老様とラヴァクールさん……と呼ばれた男の人と、その男の人の影に隠れるようにして、女の子がこっちにやってくる。長老様にはお世話になったし、こうして会えると、僕もとても嬉しい。


「オフィーリア様、お久しぶりです。後……そちらの方は初めまして、ですよね。僕はギノって申します。エルノアちゃんと一緒に、女王殿下にお目通りに参りました。その……これからもよろしくお願いいたします」

「フォッフォッフォッ。ギノ君は相変わらず、いい子じゃの〜。ほれ、ラヴァ。この子が例のべへモスじゃよ。間違いなく将来の竜界を背負って担う子じゃろうから、サクッと仲良く挨拶しちゃいなさい」

「えぇ、もちろんです、長老様。……自己紹介が遅くなって、すまない。私はラヴァクールと言う。殿下から銀の氷原を任されている、水のエレメントマスターなのだが……まぁ、それは抜きにして。今後とも、仲良くしてくれると私も嬉しいよ。エルノア様の事も含めて、よろしく頼む」

「……ハイ。今後ともよろしくお願いいたします」


 僕がおずおずと挨拶をしていると、ラヴァクールさんの後ろに隠れていた女の子が、こちらをじっと見ていることに気づく。あれ? 僕……何か変なこと言っちゃったかな?


「……おや。アウロラ、どうした。そんなに身を乗り出すなんて、珍しいな」

「アウロラ……ちゃん?」

「あぁ。どうやら、君に興味があるらしい。この子は私の娘のアウロラ。今日は久しぶりに一緒に出かけたいなどと申したから、連れてきたのだが……ほら、アウロラ。そんなに見つめたら、失礼だろう。一体、どうしたんだ?」


 ラヴァクールさんが困ったように言っている間に、アウロラちゃんがこちらに歩み寄ってくる。そうして僕の顔を覗き込んだかと思うと……しばらくして、何かに納得したらしい。急に僕の横に回って、左腕に抱きついてくる。


「え? ……え⁇」

「こ、こら、アウロラ! どうしたのだ⁉︎」

「トト様。私……この人をお婿さんにする」

「はい?」


 そう言って、更に彼女の腕に力が入る。


「ちょ、ちょっと! ギノは私のお婿さんだもん! 横取りしないで!」


 今度は僕を渡すまいと、エルが右腕に抱きついてくる。えっと、僕、どうすればいいんだろう……?


「……やだ。ギノ様は私のお婿さんにする。いくら相手が女王様の孫でも……譲らない」

「あ、あの……2人とも落ち着いて……。それでなくても、僕、ちょっと腕が痛いよ……」


 僕がそう言うと、ようやく彼女達が離れるものの。……そうしたら、今度は2人で睨み合っている。彼女達の様子が色んな意味で……ちょっと怖い。


「まぁ、将来有望なギノ君なら女の子達が取り合っても仕方ないかの。闇属性のハイエレメント持ちとなれば、お婿さんの条件としてもバッチリじゃし」

「長老様もそんな事を言っていないで、止めてください……。第一、僕はまだ未熟ですし……。女王様の孫とも、エレメントマスターの娘さんとも釣り合わないです……」

「そうかの? ワシはギノ君がどっちとくっついても問題ないと思うが……のぅ、ラヴァ。……って、およ?」


 困惑する僕を諭す長老様の横で……今度はラヴァクールさんが僕を見つめている。こちらはこちらで……一体、どうしたのだろう?


「あ、あの……僕の顔に何か付いていますか?」

「いいや?」

「でしたら……僕、何か失礼な事を言ってしまったんでしょうか?」

「いいや、断じて」

「では……何か気になることでも……?」

「ギノ君はエルノア様と結婚するのかい?」

「別に、そこまで決まっているわけでは……」

「ふむ。だったら是非、アウロラも君のお嫁さん候補に加えてくれないだろうか」

「はい?」

「父親の私が言うのも何だが、アウロラは人見知りが激しい分、心を許した相手には徹底的に尽くすタイプでね。結婚した暁には、必ずいい妻になると思う。しかも……幸いにも貧相な私にではなく、妻のカミーユに似て夕焼けのような髪が綺麗な子だ。きっと大人になったら、テュカチア様にも負けない美人になると思うし、どうだろう?」

「えっ、その……」

「私はその母さまの娘だもん! ぜ〜ったい、私の方が美人になるんだから!」

「……私、負けない。私のカカ様もとっても綺麗。私もきっと美人になる。しかも、私はワガママ言わない。ギノ様に一生尽くす」

「ゔ……だったら、私も今からワガママ言わないもん。ギノの言うこと聞くもん」


 泣きそうになりながら、エルがアウロラちゃんと張り合っているけど……と言うか、エルは自分がワガママだって分かっていたんだ……。そして一方で、広い広間でも僕達はとても目立つらしい。気づけば周りに人集りができていて、興味津々にエルとアウロラちゃんの言い争いを見守っている。ど、どうしよう。とにかく2人を止めなきゃ……!


「あ、ほら、2人とも! みんな見ているよ? そういうことは、大人になってから考えればいいと思うし、今から喧嘩しても仕方ないでしょ?」

「……そんな事、ありません。お婿さんの確保、とっても大事。早いに越した事ない」

「そうよ! サッサと決めてもらえないと、一生独りぼっちになっちゃうもん! ギノはとにかく、私のお婿さんになるんだから! 後から来たくせに、何なのよ!」

「出会いは一期一会。先だろうが、後だろうが、関係ありません。要は2人の出会いが運命かどうか。……今朝、自分の部屋から、竜王城が久しぶりに綺麗に見えたから……何かあると思ってトト様と一緒にやって来たけど。……これは運命の出会いがあるという、吉報だった。ギノ様と私の出会いは、まさに運命」

「何、それ⁉︎ だったら、私なんか人間界でギノと出会ったんだもん! そっちの方がよっぽど、運命だもん!」

「お、お願いだから……2人とも落ち着いて……!」


 ますますヒートアップする2人の言い争いに、周りの人たちがクスクスと笑っている。みんなちょっと面白がっているんだろう。実際、長老様は2人を止める事なく、とても愉快そうにエルとアウロラちゃんを見守っている。その横で……ラヴァクールさんはアウロラちゃんを応援しているらしい。時折、「そこだ、いいぞ」なんて、握りこぶしを作りながら小さく呟いている。こんな時、父さまがいてくれたら、ちゃんと止めてくれるんだろうけど……。その父さまは今頃、母さまのお世話で精一杯だろうし……。どうして、竜族の女の人はみんな強引なんだろう……。

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