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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第6章】魔界訪問と天使長
218/1100

6−26 僕的にはこういうの、とってもいいと思うの

「アッハッハ! そう、ルシファー観念したの〜?」

「なに、笑ってんだよ……。お前が色々と言ってくれてたお陰で、いきなり攻撃魔法をぶっ放してきたんだぞ⁉︎」

「でも、お前の方が上手だったんでしょ? さっすが、ハーヴェンは天使戦は手慣れているものがあるよねぇ」

「手慣れている? ……手慣れているってどういうことなんだ、ハーヴェン」


 さも愉快そうなベルゼブブの言葉に、不穏な空気を感じた嫁さんが食いついてくる。全く……ベルゼブブが一言余計なのは、デフォルトらしい。


「天使は攻撃魔法も補助魔法も……そんでもって、回復魔法も器用に使ってくるだろ? だから、魔法に対して創意工夫が足りないというか」

「それ、どういう意味だ?」


 ちょっと不服な顔をしているのを見るに、俺の言葉に引っかかるものがあるらしい。更に食いつく嫁さん。一方でオーディエルは前のめりになって、ウンウン、と俺の言葉を一言一句逃すまいとしているようだ。彼女の視線が、妙にやり辛いが。この際、ある程度は説明しておいてもいいかもしれない。


「ルシエルは異種多段の組み合わせって、考えたことってある?」

「異種多段の組み合わせか……う〜ん、あまりないかな……。簡易化した魔法を同時に発動はできるが、組み合わせを考えるというよりは、重ねがけする感じだ」

「そうだよな。使える魔法の種類が多いってことは、反面、型通りの使い方しかできないってことなんだと思う。で、俺は回復魔法は使えないし、実は……補助魔法は使えても、防御魔法は使える中になかったりする」

「そうだったのか?」

「あぁ。だから、相手の攻撃魔法を凌ぐ場合は同等以上の攻撃魔法をぶつけるか、他の補助魔法でどうにかすることを考えないといけない」


 俺の告白が予想外だったらしい、ルシエルが今日1番で目を丸くして驚いている。……今更、そんな事に驚かなくてもいいだろうに……。


「使える魔法でどうにかしようと考えた時、魔法を組み合わせて、付随効果で凌ぐために頭をフル回転させるんだけど……例えば、水の魔法を使った後に氷結させて壁代わりにしてみたり、氷の魔法で目くらましした後に、不意打ちを喰らわせたりとか。そんなことを四六時中考えているとな、何となーく相手の傾向を読めるようになってさ。特に沢山の魔法を器用に使いこなす相手ほど、俺の術中にハマってくれる奴が多い。数を知っている奴ほど、知識に溺れがちなんだよ。だから、異種多段の組み合わせで発生した、知識外の付随効果に戸惑う。天使は特にその傾向が強いんだ。攻撃魔法も防御魔法もキッチリ使いこなしてくるお前達は、柔軟性に乏しいことが多いから」

「う……そうだったのか……。そう言えば、初めて会った時も不思議だったんだよな……。手の内を読まれている気がして、ひたすら焦ったのをよく覚えている」


 ルシエルがちょっと悔しそうに、唇を噛み締めている一方で……オーディエルは感心したように、ルシエルとは別の意味で赤くなっている。両方とも色々と分かりやすくて、助かる。


「ハーヴェンは生前から、頑張り屋さんだったみたいだからねぇ。魔法はどこで習ったのかは知らないけど、無いものは無いなりに、なんとかしちゃうタイプだし」

「そういうこと。因みに、今日アポカリプスを防げたのは、前回のノクエル戦の経験が生きてま〜す。実はあの後、俺自身もかなり魔法の練習してたんだぞ?」

「なるほど! 努力と創意工夫が大事ということですねっ! とっても勉強になりましたっ‼︎ ありがとうございます!」


 また妙な感じの口調に戻っているオーディエルを、諦めた様子で見つめるルシエル。表情を見る限り、この状態はあまり好ましくないらしい。


「まぁ、とにかくルシファーは神界に帰ったよ。ヨルムツリーの玉座は空に戻ったから、迷惑ばかりで悪いんだけど……後は大悪魔同士で、なんとかしてくれないかな」

「うん、ま。それは仕方ないよね。僕としてはあんな所に籠るのはゴメンだし、他の奴に押し付けちゃおうっと」

「あ、そう……」


 相変わらず、適当なベルゼブブの様子に拍子抜けしつつ……支配欲の薄さに安心したりする。やはり、ベルゼブブは他の奴とつるんでいる方が性に合うようだ。


「今日も色々と騒がしくして、悪かったな。俺達はこの後、サタンのところに寄って帰るから。そのうち、こっちにも遊びに来いよ」

「うん。ベルちゃん、おやつ食べにそっちに行っちゃう、行っちゃう。ルシエルちゃんも、良しなに頼むね〜」

「はい。ベルゼブブ様の魔力は把握済みですし、出入りするのが屋敷であれば、私の方も問題ありません。お気軽に遊びにいらしてください」

「おぉ! さっすが、ハーヴェンのお嫁ちゃん! 分かってるなぁ〜! そういう事なら、僕の方も面倒な事じゃなければ、相談くらいは乗ってあげるから。ウンウン。僕的にはこういうの、とってもいいと思うの」


 何やら妙に満足げなベルゼブブの様子に、ルシエルも胸を撫で下ろしたらしい。少し緊張感が解れた表情に……俺も心なしか、安心してしまう。


「それでは、ベルゼブブ様。今日はお世話になりました」

「うん、オーディエルちゃんもまったね〜。サタンのことも、よろしく頼むよ」

「サタン様、ですか?」

「ま、アイツのところに行けば……どういう事か、よく分かるさ」

「?」


 帰り際にオーディエルに対して、意味ありげなことを言い放つベルゼブブ。俺としては何となく、理由は分かっているものの。それは彼女本人が感じるべきことだろう。


「さて、サタンの城はここから川沿いに北上したところだ。そのまま飛んで最後まで移動できるから、危険なことはないと思うよ」

「……本当?」

「うん、本当」

「……1人で無茶するのは、ナシだからな」

「分かってるよ」


 俺の無茶が相当、堪えたらしい。今にも泣き出しそうな瞳で、俺を見上げてくる嫁さん。思いの外、悲しい思いをさせてしまって、ちょっと後悔する。


「後は大丈夫。もうあんな思いは、させないから。そんな顔しないでくれよ」

「うん、約束だからな……」


 彼女の言葉の重みを感じつつ、翼を広げ彼女達を上空へ促す。色々あったけど……多分、後はそこまで揉めたりはしないだろう。


***

 オーディエルの報告を待つつもりが……何故か、先に結果が神界にやってきちゃった。まさか、ご本人様がそのままご降臨召されるなんて。もしかしてオーディエル、ボクの言ったことを確認するだけじゃなくて……ご本人様をお誘いしちゃったの⁇


「久しぶりに足を踏み入れたが……あまり代わり映えしないな、ここは」

「えっと……。まさか……ルシフェル様ご本人だったりする?」

「おちゃらけた口調も相変わらずか。……翼の数を見るに、お前はあの後昇進したみたいだな、ミシェル」

「あ、はい……一応、転生の大天使やってます……。ご本人が降臨されるとは、思いもしませんでした……タハハハ……」

「そうか? まぁ、いい。さっき、オーディエルとルシエルとは話をした。……色々と問題があるそうだな?」


 何を話せば、ルシフェル様を引きずり出す結果になるんだろう? と言うか、相変わらずの高圧的かつお堅い口調、超やり辛い!


「あら〜、そちらはどちら様でしょう〜?」


 ボクがガチガチに緊張しているのを他所に、何も知らないラミュエルがフワフワと出てくる。いや、待って! 今、その空気で出てくるのは、マズいって!


「ファルシオン……なるほど。お前が救済の大天使か」

「え? あ、そうですけど……あの、ミシェル。この方、どなたかしら……?」

「うん、ラミュエル。落ち着いて、聞いて。この方は……ルシフェル様。オーディエルが上手くやりすぎたみたいで、ご本人様がご帰還されたみたいなんだ」

「嘘ッ⁉︎ ま、まぁ〜、どうしましょう⁉︎ と、とにかく、まずはマナツリーの元へ!」

「言われなくても、分かっている。突然、戻ってきて悪いが……しばらくアレと対話したい。その後、人間界の状況を説明してもらおう。……分かったな、ミシェル」

「は、はいぃ!」


 リッテルの足取りを確認して、結果が出たから……ラミュエルに教えてあげようと思って出てきたのに……。ここにきて、お仕事追加かぁ……。見れば、ラミュエルがしっかりとルシフェル様をマナツリーの元に案内している。多分、彼女に案内は不要だと思うけど、神界の状況も交えて話をしているんだろう。だとすると、ボクはその間……。


(とにかく、今の人間界の状況をまとめる……と)


 あれ? でも、待って。状況をちゃーんと的確に記載した報告書があったような。そんな事を考えながら、憧れのあの人にサインを貰った、秘蔵の一冊をポーチから取り出す。


(そうだよ〜。まずはこれを読んでもらえばいいじゃん! ルシフェル様の趣味に合うかは分からないけど、これさえあれば、ボクは簡易的に流れをまとめるだけで済むじゃないか〜)


 相変わらず、ボク天才! なんにせよ、ここにきてルシフェル様が戻ってきたのは決して、悪いことじゃない。寧ろ、とっても心強いじゃないか。


(よっし。ボクはルシフェル様が戻ってくる間、もう一仕事しようっと)


 ……それにしても、オーディエル達は無事ルシフェル様に会えたんだな……。ハーヴェン様も付いているし、心配する必要はあまりなかったのだろうけど。あちら側はうまくいったみたいで、かなり安心した。一方で……。


(リッテルのことはどう報告しようかなぁ……。多分、彼女……何かに巻き込まれたみたいなんだよな……)


 リッテルの最後の記録を拾ってみたところ、神界には戻っていないことが分かった。そして、彼女は塔の情報を書き換えた後に人間界に戻ったらしく……その後の情報は何も残っていない。それでも、1つ、微かに彼女の魔力の痕跡を残していたものがあったんだけど……。


(そうだ。折角だし、切れ者のリヴィエルに任せようかな。オーディエルが帰ってきたら、相談してみよう……っと)


 問題がちょっと山積みになってきたけど、今のボクはやる気に溢れているもの。大丈夫。きっと……何とかなるさ。

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