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勇者召喚からハブられた俺は、女神様の脱ぎたて神装(パンツ)で異世界を生き抜く ~明日を笑顔でいるために~  作者: 藤塚 まあき
第二章 ママに私が生まれた日の空の色を聞いたら、「おじいちゃんの頭と同じだよ」と言われた
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第26話 4! 呪いはパンツで跳ね除けて!

 ――重々しい扉の音が、あたりに響く。

 どうやら地下室へ続く階段があったらしい。


「――誰か来る……!」


 ――次いで、軽い足音と共に、金属が床を引っ搔く音が。


 長い鎖を引きずりながら、枷を嵌められた闇色の髪の少女が、虚ろな瞳でファントムの隣へ並び立っていた。


「ユノリア……!」

「――! スカーレット!!」


 俺とシルヴァさんの声が礼拝堂に響く。

 ――だがそれも虚しく。

 目の前の少女――ユノリア=スカーレットは、どちらの呼びかけにも応じる素振りはなかった。


「ファントム……! 貴様、彼女にいったい何をした!」


 ブランさんが激昂するが、ファントムは半壊した仮面を片手で支えながら、楽しそうに口端を歪める。


「見ての通り、配下の上級悪魔を憑かせました。彼女の過去を刺激する幻影を見せ、精神を乱して抵抗力の下がった所にすぅっと……ね」

「…………」


 ユノリアは人形のように端正な顔立ちをピクリとも動かさず、生気の失った様相で、静かに錫杖を構える。

 ファントムの言うように、影に潜んだ上級悪魔によって操られているようだ。


「……それにしても」


 ……状況にそぐわないかもしれないけど、あえて言わせて欲しい。


「――さっきから気になってたけど、ユノリアの衣装、なんか変わってね?」


 ユノリアの纏っていた漆黒の修道服は、いつの間にかゴシック風の黒ドレスへと差し替えられているみたいで……。


 全身に嵌められた長い鎖が、囚われたゴスロリ人形のような儚いえっちさを醸し出していますよ。

 これはいけません。


「……っていうかファントムお前。捕まえたユノリアを、わざわざこの衣装に着替えさせた上に拘束具を嵌めたのか? 15歳くらいの悪魔よりはるか年下の人間の小娘を、こんなゴスロリのマニアックなSM衣装に? ……ちょっとひくわー」

「なにィ!? ファントム貴様ァァァァァァッ!! おれの愛娘の服を脱がし、あまつさえ裸を見たと言うのかァァァァァァッ!!」

「何ということだファントム! 恥を知れ!」


 俺たちの追及を受けて、周囲のファントム配下の悪魔たちも反応を見せる。


「えっ! そうだったんすかファントム様!?」

「きゃっ! ファントム様のえっち!」

「失望しました。ファントム様のファンやめます」


「うーん、この圧倒的アウェー感」


 ファントムは嫌そうに嘆息すると、さりげなくユノリアと距離を離しながら付け加える。


「ご心配せずとも、彼女の世話は配下の女性悪魔にすべて任せ、私は一切手を触れず視界にも入れませんでしたよ。正直、聖職者として一時的に過ごした身としまして、私もこのデザインに若干引いているところです。

 ……ふむ。私はなぜこの場で弁解をしているのでしょうか。…………あのクロエとか言う少年。彼から発せられる独特の空気にのまれてしまった……?」


 変態疑惑を自ら否定したファントムは、続けて微妙な空気を払拭するように一つ指を立てた。


「……ひとつ、昔話をいたしましょうか。聖典にも記されております、由緒正しいお話です」


 そのまま、戦いの余波で亀裂の生じた女神像をおもむろに指し示す。


「ここに奉られておりますのは、エーテル教の主神――大地の女神。しかしその座は正統に簒奪した物であり、元々は男の神が世を統べていたようです」


 亀裂の生じた女神像の目元は……なぜか、泣いているような顔にも見えた。


「かつてこの世界に存在したという、男神。その者は無限の魔力を持ち、疲弊する心を持ち合わせていない、まごう事なき至高の存在でした」


 ……疲弊する心が無いのが至高?

 それって……。


 ブランさんを見やると、俺の心中に答えるように補足してくれる。


「――以前、クロエくんが聞き流した『はじめから疲弊するような精神がない存在は魔法を使えるか否か』について答えよう。……答えは、魔力の許す限り何度でも使い続けられる、だ。そしてかの男神は無限の魔力を内包しており……」


 無限の魔力と、疲れる心を持たない存在。

 だとするとそいつは――。


「――じゃあ永遠に魔法をぶっ放し続けられるって事なのか! 疲れる事なく何時間でも何十日でも何百年でもぶっ通しで!?」

「ふふふ。御名答――」


 ファントムは俺の反応を楽しむように、説明を続ける。


「――しかし、その身はかつて聖剣であったアダマスの剣に斬り落とされ、男神の返り血によって、アダマスは呪剣へと姿を変えました」

「ああ。ちんちん切ったやつか」

「お静かに。……ここまでは一般的なエーテル教の聖典に記されてある、大地の女神が覇権を握るまでのお話です。

 ――ですが、疑問に思いませんか? 聖剣が反転するほどの呪いを帯びた返り血。――それを、聖剣の使用者が浴びれば、いったいどうなってしまうのか」


 今はブランさんが持つ『呪剣アダマス』。


 戦闘時は聖なる魔力を込めた事により白亜に輝く美しい刃をしているが……普段は、錆びついた呪いの武器のような見た目をしている。


 ――確かに、剣が返り血を吸ったなら、使用者だって浴びててもおかしくはないだろうけど……。


 それとユノリアに何の関係が……。


「――って、まさか! ユノリアがそのちんちん切った剣士の子孫だって言うのか!?」

「クロエくん。言い方」

「…………“呪いの血族”。彼女らはそう呼ばれておりまして。――どうやらシルヴァさんの契った女性(おひと)が、そうであったらしく……」

「…………」


 ――シルヴァさんは、激しい怒りの形相でファントムを睨んでいた。


 ……呪いの血族。


 確かにユノリアが特殊な生い立ちをしているのは分かった。

 だが、具体的にどんな呪いがユノリアの一族に備わったんだ?

 ファントムはその力の何を欲しがっているのか――。


「その一族は男神の返り血を浴びた事によって、人の身ではあり得ぬ凄まじき能力を手にされました。中でも分かりやすく継がれたのが――」


 半壊した仮面の奥で、したり顔をするファントム。


「――男神と同じ、無限の魔力」


 ――ユノリアの周囲に、数え切れない程の魔法陣が出現する。


 まるで孔雀の羽のように展開されたそれらは、銃の照準を突きつけるかのように俺達に向けて並べられていた。


 無限の魔力と言うからには……これほどの量を魔力消費関係なく撃ち続けられるって事なのか……?


 だが人間であるユノリアは、その神とは違って疲弊する心を持っている。


「――呪いにより無限の魔力を内包した一族。しかし決して尽きることの無い魔力を持っていようと、心を持つ身では魔法を連続して使えば精神的に疲弊し、永遠に放ち続ける事は出来ません」


「……! そういうことか、下衆め……!」

「どういうことなんだ?」


 俺達を庇うように構えるブランは、大きな背中を向けたまま俺の質問に答えてくれる。


「先程も話した通り、心を持たない者は、精神の疲弊を気にする事なく、魔力の許す限り魔法やスキルを使い続けられる。……つまりファントムは無限の魔力を持つユノリアの――」

「――心を、壊そうって言うのか……?」


 ……礼拝堂に拍手の音がなる。

 ファントムは、出題に正解した解答者を称えるかのように両手を鳴らしていた。


「そう! ならば話は簡単です! 彼女の心を壊し、何一つ考えぬ人形へと変えてしまえばいい。戦いにおいて、精神は……『心』は、邪魔なだけ。疲れる心がなければ、無限の魔力はようやく意味を成すのです!」


 ――操られたユノリアから、闇色のオーラが溢れ出す。

 彼女の足元は……まるで、金属が錆びついていくかのように呪いの力が広まっていた。


「……つまりお前たちは、その最強の存在ってのをユノリアで再現しようとしてるのか? 魔王軍の戦力として!」

「その通り。なんの因果か、あなた方が『呪剣アダマス』を持ち込んでくださったおかげで、剣の反応から、シスター・ユノリアが“呪いの血族”であるという確証を得られました。剣の方は別に必要ありませんので、そのままお返ししておきますね」


 じゃあこの惨状は俺達のせいだって言うのか……?


「騙されんじゃねぇ二人とも。恐らく予定が早まっただけで、元からスカーレットには目をつけていたハズだ。それに、お前らがここにいるからこそ、奴らに対抗できる力が揃っている」


 シルヴァさんが構えると、ファントムは楽しそうにユノリアへ視線を送る。


「――今は彼女に暗示をかけ、我が配下の悪魔に憑かせる事で動かしておりますが、直にそれも必要なくなるでしょう。

 身近な者を1人ずつ、彼女の手で殺させる。そうすれば壊れると思うのですが……」


 そのまま、おぞましい笑みを浮かべてみせた。


「どうでしょう、人間の皆様。私は人間でないので分からないのですが……ちゃんと壊れると思いますか? それはもう不安で不安で……」


 ……ファントムの野郎。

 さっきのやり取りで愛嬌のある奴かもと思っていたが、しっかりゲス野郎だ。こいつは。


「さあ! 悲劇の第二幕と参りましょう! スカーレットさん! 恐ろしいデュラハンと魔物使いに追い詰められた、哀れな私をお助けください?」


 まったく追い詰められてなさそうな声音で懇願するファントムに反応し――ユノリアの乾いた唇が抑揚なく開かれる。


「――呪われし血族、血塗られし運命(さだめ)宿業(しゅくごう)を糧に、三位一体の獣が、我が身より無法に這い()づる。滅びの刻よ、来たれ――」


 ――なっ、なんかヤバそうな詠唱を始めたぞ!?

 これ、ひょっとして……。


「これはまさか……固有奥義……っ!」

「やっぱりかっ!!」

「呪いの血族の魔力で放たれる大技だ! 二人とも絶対に食らうんじゃねぇぞ!!」

「……避ける隙を与えるとお思いですかね?」


 ファントムが指を鳴らすと共に。

 未知の攻撃に備える俺達三人を、ファントム配下の悪魔たちが再度取り囲む。


「彼女の眠っている力を、取り憑いた上級悪魔のコントロールによって引き出してさしあげました。――文字通り、戦況を一変させるお力です」

「くっ……! スカーレット! おれだ! 目を覚ませ――!」

「無駄です! さあ、おやりなさいスカーレットさん!」


 大仰に両手を広げるファントムの隣で――。

 虚ろな眼をしたユノリアは、……頬へ、一筋の涙を垂らす。


 ――恐らく、意識自体はまだ残っている。

 だが、彼女の意思をあざ笑うかのように――操られた肉体は、ただ、静かに呟いた。


「――固有奥義(十八番)。《血塗られし(ジューン・)666の(ブラッド・)魔獣撃(トライビースト)》」


 ――瞬間。世界が――割れた。


 ……より正確に言うなら、ユノリアの周囲に浮かぶ666はあろうという無数の魔法陣。


 その空間がひび割れ、まるでこの世の向こう側から“ナニカ”が這い出づる様に、おぞましい獣の形をした魔砲が、不規則に掃射された。


「ひゅっ――」


 最初に消滅したのは――俺に組み付こうとしていた下級悪魔。

 魔の獣に喰らい抜かれ、傷口から錆びが広がるように固まってゆき――パキン……と、儚く散った。


「ファ……ファントム様っ!? 我々は――」

「選定をします。生き延びた者だけ、今後も使ってあげましょう」


 慈悲深い笑みで放たれる無慈悲な宣告と共に――。


 ユノリアの放った固有奥義は、味方であるはずの他悪魔まで巻き込んでゆく。


 轟音。衝撃。超振動。

 もはやここが地獄だと言われても納得できてしまう!


 たった一つでも脅威だと言うのに。

 嵐のように降り注ぐ666……いや、尚も増え続けて掃射される魔獣たちは、蛮族の饗宴のように悪魔たちを喰らい抜いていって――!


「「おおおおお――!!」」


 ブランさんとシルヴァさんは、俺を守るようにそれらを捌いてくれている……!

 俺も女神様の『神装』で魔獣を防ごうと殴りつけるが、あまり手応えは感じない。


 ジャックやファントムはメィチス様を下級女神とか言っていたが、かつての最高神の呪いを防ぐには、聖なる力の格が足りてないって事なのか……!


 ……くそっ。

 俺はやっぱり足手まといにしかなってねぇ……。


「ふむ……出力が安定しておりませんか。まだ調整が必要そうですね」


 つまらなそうに安全圏から嘆息するファントム。


「――シルヴァ殿。少しの間、クロエくんを頼む」


 奴を睨みながらも、ブランさんは無数の魔獣撃を捌きながら勢いよく前進を始めた!


「……! 流石ですねぇ。よもや初見の固有奥義に対応しながら私を仕留めにかかるとは!」

「例え悪魔が憑いていようと、技を操るのはユノリア自身の深層心理だ。既に以前の共闘から、彼女の攻撃の軌道は読めて――」


 その言葉は不意に遮られた。

 見やると、ファントムの合図と共に現れた大量の下級悪魔たちが、ブランさんに組み付いて動きを止めている。


 ブランさんの力量なら一瞬の足止めにしかならない。

 ……されど、今この場では致命的な一瞬。


 空間の亀裂と共に這い出づる数百の魔獣が、既にブランさんへ照準を定めており――、


 だが作戦が成功すると言うのに、悪魔たちの顔は一様に怯えている。


「悪魔は縦社会なのですよ。上位(わたし)の命令は拒めません」

「……っ! すまないクロエくん! シルヴァ殿! 私が戻るまで何とか保たせてッ――!」


 ――組み付いた悪魔共々、ブランさん目掛けて数百の魔獣撃が降り注いだ。


「ブランさん!!」


 爆炎が晴れる頃――彼女の姿はそこには無かった。

 爆心地には錆びが広がり、呪いの影響が色濃く残るだけ。


「……ブランカ・リリィベル。彼女はこれにて閉幕ですね」

「――んな訳あるかッ!」


 ……ブランさんがやられる訳ねぇ!


 遠くへふっ飛ばされただけだ。

 超がつくほどのお人好しだし、怯える悪魔たちを庇ってすらいたのかもしれない。

 それなら避けられなかったのも納得だ。


 ……だから俺も、勇気は失うな。

 約束したはずだ。

 どんな事があろうと、彼女は必ず俺の側へ駆けつける。


 それまで俺は、俺に出来ることをするだけだ!


 気合い入れろ黒江幸輝!


 『明日を笑顔でいる為に』――これ以上、情けない姿は見せられねぇ!!


「おパンツ・ナックルッッッ!!」

「うーん。技名」


 嘆息するファントムは無視して渾身の拳打を魔獣の1体へお見舞いし――グググッと、牙を剥き出しに俺の拳を跳ね除けようとする魔獣を必死で抑えつける。


 ――もはや教会の中は滅茶苦茶だ。


 建物は半壊し――無数にいた悪魔たちもごくわずか。


「『反射行(リフレクトショット)』――バリア!!」


 見るからに精神的疲弊の色を見せるシルヴァさんは、跳弾する魔弾群で弾幕を作り、できる限り魔獣撃を捌いてくれている。


 いまだ止むことのない魔獣撃を前にして、俺はシルヴァさんの負担を少しでも減らすべく、こっちに来る魔獣達と泥臭い格闘を演じる。


「――この空間に満ちた呪いの力。ただの人間にはさぞやお辛いことでしょう」


 ……気づけば、俺とシルヴァさんの身体は、少しずつ錆色が生じ始めていた。

 直撃を食らわなくても、同じ空間にいるだけで呪いの影響があるのかよ。


 流石に敵を強く設定しすぎじゃねぇか……。


 ――だけど!


「たとえ呪われてでも……!」

「守りたいものがある……!」


 ――まだユノリアの心が壊されていないなら、たとえ無限の魔力を持っていようと、いずれは精神の疲弊で攻撃は止まる。


 ユノリアを救うとしたら――そのチャンスを待つしかない!


「ガフッ……!」

「シルヴァさん!? ……くそっ!!」


 流石に限界か!

 俺を庇いながら捌いてくれてたんだ。

 後は俺が何とかしないと――!


「ふふはははは!! シルヴァさんも陥落し、残るは戦力の足しにもならないちっぽけな少年ただ一人! あなたは周りの足を引っ張りながら、最期は無惨に死に絶えるのです!」

「それでも俺は! 俺に出来る事をする!!」


 怪我をしたシルヴァさんをかばうべく、俺は先頭に立った。

 相変わらず宙に生じた無数の亀裂からは、魔獣の形をした砲撃が唸りながら照準を定めてくる。


 ――俺に出来る事って言ったら、やっぱりアレしかないよな……。


「たとえ効果が薄くたって、何度でも殴り飛ばしてやる。俺の……異世界おパンツ無双で!!」

「無茶だクロエ……! あれはかつての最高神に相当する呪いだ……。その『神装』……メィチス様の神格では太刀打ちが――」


 ……けど、触って殴る事くらいは出来る。


「……そうだ。認めてやる。俺はイキリパンツ太郎だ! パンツだけに、変態の汚名を被る程度のちっぽけな勇気しか持ち合わせていない、最低最悪の主人公気取りだ。……だけど、こんな俺でも、勇者の素質があると、言ってくれた人がいる。

 皆に勇気と笑顔を与える力があると、認めてくれた人が居るんだ……!」


 俺の独白に合わせて――拳に巻きつけたパンツが光を帯びる。

 見やれば大地の女神像が光りを放ち、そこから流れるように、パンツへ聖なる光が宿っていた。


 ………………なんで?


「どういう事でしょうか……まさかあの少年が、何か切り札を隠し持っていたとでも……」


 なにそれ知らん……怖っ。


 だが、不思議と力が湧き上がってくる。

 温かい光が、拳に巻いたパンツを起点として全身へ駆け巡ってゆくような……。


 ――気づけば俺は、脳内に浮かび上がった呪文を、知らず知らずの内に唱えていた。


「――聖なる白布(はくふ)の極光よ。真骨なる拳に宿りて、勇気の巨煌(きょこう)を撃ち鳴らせ――!」


 パンツを纏った拳が大いなる光を称える。

 まるでブランさんの固有奥義を意識した演出のように。


 ……えっ。嘘だろ?


 ホントにやっちゃうの? これ。

 マジで?

 さっきまで割とかっこいい台詞を吐いてたと思うんだけど、全部台無しになっちゃわない?


 ……ああでも、迷ってる暇はない。


 迫りくる魔獣の群れを睨み――俺はヤケクソ気味にその技を叫んだ!


「――『閃光・純白神装撃シャイニング・おパンツ・ナックル』――ッッッ!!!」


 ――うそーん。


 ホントに出ちゃったよ、俺の推定固有奥義。

 しかもおパンツ・ナックルの進化系。


 あれだけいた魔獣たちが、大きく膨れ上がった光の拳に飲まれて、アヘ顔をしながら消滅していった。

 攻撃の跡は、大地に命が芽吹くようにキラキラと地面が輝いている。


 ……戦況。一変しちゃった。


 特にスキルとか関係ない俺が勝手に叫んでただけのオリジナル技だったハズなんだけど、こんなんでも固有奥義になれんのかぁ……。


「……おい、クロエ。何だ今の……」

「俺も分からん。誰か教えて……」


 ごっそりと魔力を消費した為か、俺の全身を倦怠感が襲っていた。

 あるいはパンツだけに賢者タイムかもしれない。精神の疲弊とは違う気がするが――。


「………………少々面食らいましたが、どうやら連続での行使はできないようですね?

 ――忌々しき大地の女神め。さしずめ、奇怪仕掛けの糸を操る裏方気取りですか」


 どうやらファントムは、この力の正体に心当たりがあるらしい。


 ――だが、俺の魔力は消耗しようと、パンツに纏われた聖なるオーラは、弱まる気配がない。


 ……ファントムの奴、大地の女神がなんとかって言ってたか。

 大地の女神……かつて存在した男神に代わって、最高神についた女神様。


 もし。……もしも、だ。

 そんな存在が、このパンツに力を与えてくれたのだとしたら……。


「ひょっとして今なら、ユノリアの固有奥義を打ち消せるんじゃないか?」


 追加で魔獣を呼び寄せるユノリアを、俺は息を切らしながら見据える。


 流石にそろそろ、向こうも限界が近いと信じたい。


 ――脳内で反芻するのは、ブランさんから教わった言葉。


『――クロエくん。戦いにはリズムがある。一度乗ってしまえば、そう難しい事でもない』


 今の固有奥義で、リズムは完全にこちらへ傾いた。


『――いいか、クロエくん。敵の攻撃を避けるには、相手のクセを見極めるんだ。特に極限状態……言い換えれば無意識下での戦闘で、個々人のクセは顕著に現れる』


 この魔獣撃を操るのは、ユノリアの深層心理だって話だ。

 そして、ユノリアの攻撃を避けたリュパンツは言っていた……。


『魔法の威力は大したもんやが、まだまだ経験は足りんようやな。魔力の高さにかまけてんのか、攻撃の軌道は単調やで?』


 ……だったらやる事は簡単だ。

 踊るように攻撃を躱しつつ、パンツを巻きつけた拳で殴り、獣を消滅させ続ける。


 ブランさんは必ず戻ってくる。

 それまで俺は耐え続けるだけだ!


「……行くぜ!」


 ボロボロの身体を奮い立たせ、踊りかかる魔獣たちを、俺は正面から迎え撃つ――!


 右――!

 左――!

 くるっと回ってターン――!


「――おパンツ・ワルツ!!」


 ……攻撃が止む。


 魔獣の供給が途絶えた。

 虚ろな瞳をしたユノリアは――がっくりと膝をついた。


 ……やっぱり、精神の消耗によるガス欠だ。

 まだユノリアの心は死んでいない!


「げほっ……。くそ、致命傷じゃないけど、何発か貰っちゃったな。けど……」


 口元の血を拭いながらも、俺はユノリアを見据える。

 進化したパンツの影響か、錆びは俺の身体から消えていた。


 身体は動く。パンツは光ってる。

 攻撃が止んだなら――救いに行ける!


「……馬鹿な!? 途中からとは言え、素人が固有奥義を捌き切ったのですか!?」

 

 驚愕するファントムに俺は勝ち誇った笑みで叫ぶ。


「どうだこの野郎! 俺だって成長してるんだよ!」


 技名のセンスは成長してないけどな!


「……ぐ……魔物使い……貴様……」

「……ん?」


 声のした方へ視線を投げると、生き残りの悪魔たちが、俺を見上げていた。


 ……なんだ?

 「動きがうざい」って言うお叱りか?


「……魔物使い。なぜ敵である我々まで助けた……」


 …………。


「貴様と我々との力量差では……テイムを成功させる事もできまい……。追加の戦力として確保できぬなら……あのまま見捨てておけばよいものを……」

「……後味が悪いからだよ。俺のモットーは『明日を笑顔でいるために』だ。明日を笑顔でいるためなら、俺は何だってするぜ。……使い捨てにされた敵を助ける事だってな」


 ……俺はそのまま彼等に背を向けると――、


「……魔物使い。なぜ女性悪魔へチラチラと視線を向けているのだ」

「……明日を笑顔でいるためにッ!!」


 ちがうから……っ!

 別に『魔物使いかっこいい惚れましたぶちゅー』的な、エッチなお礼とか期待してないから……っ!


「……っ、……わた……し……は……」


 虚ろだった瞳に僅かな光が戻り、ユノリアが鎖を鳴らしながら息を乱していた。

 ……どうやら奴ら、ユノリアを酷使しすぎた事で、憑いた悪魔の洗脳が解けかかっているらしい。


「よし! チャンスだぜシルヴァさん!」

「ああ……」


 ボロボロのシルヴァさんを立たせて、肩を貸しながらユノリアの元へと向かう。

 もう少しで俺達の逆転だ!


「――私を忘れてもらっては困りますがね」


 ぬぅっ――と、何も無い空間から突如現れたファントム。

 満身創痍の俺達と違い、奴はまだ余力を残しているようだ。


「ほんの少しでも希望を持ちましたか、少年。あなたのちっぽけな勇気をいくら示そうとも、“力”無き者では悲劇を止める事など、できやしない」

「ああ。そうだな。確かに俺がいくら勇気を示そうと、俺のちっぽけな“力”じゃ、お前に勝てる気はしない!」


 俺の断言に合わせて、左手の契約紋が強く輝きを放つ。


 ――伝わってくる。

 “彼女”の熱い、魂の叫びが。


 ――外から遠雷の踏み込みが鳴り響く。


 頼もしい“力”が、すぐそばまで駆けつけて来ている!


「俺の担当は“勇気”。……だからブランさん。こいつを倒す“力”は任せたぜ」

「――ああ。今度こそ任された」


 温かな雷光が鮮烈に走り――、俺を庇うように、世界で一番安全な背中が現れた。


「――ブランカ……リリィベル……ッ!?」

「そろそろ疲れた頃だろう? いい加減に終わらせようか。ファントム」


 ……俺は俺に、出来ることをする。


 だからブランさん。

 俺に出来ないことを託したぜ。

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