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勇者召喚からハブられた俺は、女神様の脱ぎたて神装(パンツ)で異世界を生き抜く ~明日を笑顔でいるために~  作者: 藤塚 まあき
第二章 ママに私が生まれた日の空の色を聞いたら、「おじいちゃんの頭と同じだよ」と言われた
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第25話 3! “灰塵”のファントムなんてこわくない!

「なあブランさん。あのえっちな羊角の女悪魔に【モンスターテイム】を試してみてもいいかな」

「100%失敗すると思うぞ」


 軽口を交わしながらも、状況はさっと見極める。

 ……どうやらこの場にユノリアはいないらしい。

 どこか別の部屋に囚われてるのか?


「下級・中級悪魔の軍団か……雑魚はおれに任せて、二人にはファントムの相手をお願いしたい」


 魔銃とナイフ群を構えるシルヴァさんは、自ら露払いを買って出た。

 確かに室内なら、あの跳弾する魔弾は複数の敵に対しても有効だ。

 シルヴァさんの実力なら、俺たちに当たらないよう角度を調整するのもお手の物だろう。


「ブランさん。俺は――」

「私に付かず離れず、待機していてくれ。もし可能なら、第三者としての目線から戦場を俯瞰し、何か気づきがあれば教えて欲しい」


 彼女は取り戻した『呪剣アダマス』を手に、狙うべき相手を静かに睨めつける。


 礼拝堂の奥――女神像の前に立つファントムは、周囲に悪魔を侍らせながら両手を広げて俺たちを迎えた。


「どうでしょう。この妖の魔に満ちた教会は。あなた方人間に気づかれぬよう。少しずつ、少しずつ聖なる力を弱めていき――」


 周囲の悪魔たちが、各々の構えを見せる。


「今ではこの通り、我々悪魔が問題なく活動できるレベルにまで落とせました」

「けどその割に、てめぇの姿はボロボロだよなぁ。ファントム」


 シルヴァさんにつられて、俺もファントムの姿をよく観察する。


 光に焼かれ――傷だらけとなった翼を持つ悪魔。

 顔に嵌められた仮面は、自身の貌を他人には見せたくない程のものだと、暗に伝えているのかもしれない。


「……長い間聖なる魔力を浴び続けた事により、私の身体は醜く焼けただれてしまいましてね」


 嘆息しながら、鉤爪に光をギラリと反射させる。


「それでも戦闘に支障はありませんので、ご安心を」


 ――ブラフじゃなきゃ、弱体化は期待できないって事か。


「……さて。戦いの前に少々お仕事の話をさせてください。

 実はですね、我ら四呪奏へ新たに、先代死神執行部隊の指揮隊長――“切り裂き”のジャック殿を引き入れる交渉を担当しておりまして」


 “始まりの街スタール”廃墟に潜伏していたジャックを、今の魔王軍へ引き入れる動きがあったのか。

 あいつめちゃくちゃ厄介だったし、倒しといてよかった……。


「……ですがジャック殿は前・隊長。四呪奏という、隊長よりも下のポストでは、当然満足していただく事などできず、交渉は難航……というかぶっちゃけ不可能でしたので、代わりの成果を用意しようと暗躍していた訳です」


 それで呪いの血族とか言うユノリアを狙っていたんだな。


 例えるなら会社を退陣した前の部長を、穴の開いた課長のポストで復帰を促す、みたいなもんだろうか?


 ……そら、受けてくれないわな。

 前より下の役職で来いとか、ブチ切れ案件じゃね?


「そしてつい先日。交渉をしていたジャック殿と連絡が取れなくなってしまい、こうなれば何者かに討伐されたと見てよいのだと思うのですが――問題は、“誰に”倒されたのか」


 ファントムはまるで自身の推論を確かめるかのように、ブランさんを見やる。


 ……ブランさんの強さに気づいていやがるな。

 この分だと、俺達がジャックを倒した事に感づいてるみたいだ。


「……ブランさん。あいつ、四呪奏とか言ってジャックよりは格下らしいけど……ぶっちゃけ強さ的にはどうなんだ?」

「――確かに総合的なステータスでは魔王軍幹部であったジャックには劣るだろう。だが戦いの雌雄を決するのはステータスだけではない。

 私たちがジャックに打ち勝った時のように、奴もまた、私たちへの勝ち筋は十分にあり得る」

「――要するに油断せず勝ちにいけって事だな」

「ああ。――それでいい」


 周囲の悪魔たちが動き出す。

 シルヴァさんもそれに追従し、俺とブランさんとファントムの周りで、激しい戦いが繰り広げられていた。


「――我が異名は“灰塵(かいじん)”……その力、あなた方へ存分にお見せしましょう。その命。美しく散らせて、悲劇の舞台を彩る祝い花となりなさい?」


 花の花弁のように、自身の両手を前に突き出し、鉤爪を満開に構える。

 ……こっちも戦闘開始だな。


「お前だけは許さねぇぞファントム!! 行くぜブランさん!」

「ああ。行こう、クロエくん!」


「【モンスターテイム】――!!」


 俺の左手で、薄まっていたブランさんとの契約紋が強く輝きを放つ。


 そのままブランさんの首元の黒い炎が聖なる白い光へと塗り替わり。


 ……彼女の握る錆びついた大剣が、聖なる魔力を込めた事により、白銀に輝く美しき刃へと生まれ変わる――!


「……ほう? 戦闘力が大きく跳ね上がりましたね。――これは舐めてかからない方が良さそうだ」


 ジャックの時みたいな慢心は期待しないほうが良いみたいだな!


「ブランさん! もう一回アレ流すぞ!」

「ああ。頼む」


 俺は懐からスマホを取り出し、クリスティアお嬢様の聖唄を大音量で流す。

 これにより、周囲の悪魔たちは怯みだすが――、


「……ファントムの野郎、涼しい顔してやがるな」

「やはりある程度の格を持つ者は、多少のダメージを受けようとも支障ないようだ」


 それでもシルヴァさんの援護にはなる。

 テイム状態のブランさんならノーダメージだし、まったくの無駄じゃないはずだ。


「とりあえず音は流したままポケットにしまって……」


 ……ブランさんとファントムがにらみ合い、俺も女神様の『神装』を巻いた拳を構えて、やや後方で見守る。


 礼拝堂に聖なる伴奏が鳴り響く中――見合った両者の構えが動き出す!


「おおおおおおおお!!」

「シッ――!」


 唄に合わせて剣戟が鳴り響き、鉤爪と大剣による重奏が荘厳な楽曲を奏でていた――!


「【雷光斬】――!」


 バックステップと共に技を放ったのはブランさん!


 もはや定番になりつつある地を這う雷光の斬撃が、ファントムの元へ地面を削りながら飛来する――!


「ほう――この斬撃は……」


 ファントムはカギ爪を構えてそれを真っ向から――!


「――!」


 ……って無防備に食らった!?


 あえなく灰になって崩れ落ちるファントム。

 細身の長身だった仮面の悪魔は、床に灰塵となって積み上がっていた。


「一撃!? 大口叩いてた割にあっさり――」

「……いや。クロエくん。よく見なさい」


 ――灰になっていた身体が不意に蠢き。

 そのまま人の形を取りながら、再生と共にブランさんへ不意打ちを仕掛けてきた。


「――!」

「ほう……難なく防ぎますか……」


 仮面の奥で笑いながら、数歩後ろへ下がって構え直すファントム。


 ……灰になった姿から何事もなく復活した。


 なるほど。これがシルヴァさんの言ってた、無敵の再生能力か。


「――【迫雷撃】!!」


 ブランさんは大剣をくるりと構え直し、今度は白い稲妻のオーラを纏った大剣でズガァンと迫撃――切り伏せる!


 さっきは遠距離技だったが、今度は至近距離での一撃だ。

 技を食らったファントムは同じように灰化して塵となるが――。


「ふふふ……。いやぁ、見事な一撃でしたね」


 ……再び、何事もなく復活した。

 ブランさんの雷光が二度も直撃したと言うのに、痛がる素振りすら見せやしない。


 威力もさることながら、悪魔にとって光は弱点のハズだ。

 それを食らってもピンピンしてやがるのかよこいつ。


「……やっぱり何かカラクリがあんのか? 流石に本当に無敵ってのは――」

「――ああ。絶対にない。超越級であろうと、悪魔にとって光属性を防ぐ手立てはないはずだ。その証拠に、奴の身体は教会の聖なる空間にさらされ続けた事により、既に傷だらけ」

「今度は俺のおパンツ・ナックルも試してみるか? 女神様の光属性なら、悪魔への特効はより強いかもしれないし――」

「……いや。先程の二撃は、威力の異なる技にも関わらず、ファントムへの影響はまったく同じだった。だとすると、光属性の強さは関係ないと思われるが……。

 ――!」


 流石に作戦タイムをする暇は与えてくれず、ファントムの攻勢に対応するブランさん。

 振り下ろされた鉤爪を剣の腹で捌こうとするが――、


「ぐっ……!?」

「攻撃が――すり抜けた!?」


 ガードしたはずなのに、ファントムの鉤爪はブランさんを捉えていた!

 防御をすり抜けた瞬間にヤバいと思ったのか、咄嗟に後ろへ下がったおかげで傷は浅いが……。


「――なるほど。いよいよ厄介になってきたな」


 ブランさんは頬に汗を垂らしながら、傷口を手のひらで叩いてダメージを誤魔化す。

 攻撃を受ける瞬間、カウンターで斬撃を浴びせていたが、それすらも灰化したファントムの肉体は何事もなく再生していた。


「ふふふ……無駄ですよ、デュラハンの女騎士。我が身はたとえ灰や塵と化そうとも、永劫に復活する“灰塵(かいじん)”にして“怪人”! そして我が爪はあなたの身を確実に捉え、その身に血の花を咲かせる事でしょう……」


 再び満開に鉤爪を構えて、勝ち誇るファントム。


 偉そうなことを言ってるが、無敵再生のギミックがなければ、ブランさんは奴の動きを完璧に読み切って攻撃やカウンターを加え続けていた事は、素人目でも分かる。


 このままだとヤバいのは確かだが――逆に言えば奴の無敵性の正体さえ掴めば、ブランさんに負ける道理は微塵もない。


「……にしても偉そうに自分の異名をわざわざ自分で名乗りやがって。そんなに“灰塵(かいじん)”から復活すんのを自慢したいのかよ」


 俺が悪態をつくと、それが聞こえたのか。

 ブランさんは剣を構えたまま顎に手をやり、なにやら思案していた。


「わざわざ自分で名乗る……。わざわざ自分で……。――待てよ?」


 ……ん?

 ひょっとして何か分かったのか?


「……まだ確証はない。……が、仮説はある程度絞り込めた。――クロエくん。とりあえず何かしらファントムを煽って、注意を引き付けてくれないか。そういうの、得意だろう?」


 まるで人を煽り製造機みたいに……。


「下品なのでもおっけー?」

「……んー。……今だけ目をつむろう」


 苦笑いしたブランさんが構え直し――。

 俺はファントムに向けて、女神様のパンツを高らかに見せつけた。


「こっちを見な……ファントム……」

「おや。そういえば居ましたね。あなた。戦力的にどうでも良さそうなので、不覚にもスルーしてしまいましたが……ふむ。本当に何のおつもりです?」


 ファントムは仮面の奥で、困惑の色を浮かべていた。

 だってそうだろう。


 なにせ、今の俺は――。


「俺の被った仮面を見ろよファントム。どうだ? お前にそっくりだろう?」

「…………」


 変態の呼吸。性癖歴一閃。

 俺は顔面に被せた女神様のパンツを仮面に見立て、ファントムと同じポーズをとる事で奴を煽っていた。


「シルヴァのおっちゃーん! 何かファントムの特徴的な台詞ってあるかー?」


 周りで戦ってるシルヴァさんに問うと、余裕そうにおちゃらけた声が返って来る。


「――そうだねぇ~! 『これでは私は人質をとって勝ち誇るだけの小物に見えてしまうではありませんか』って言ってごら~ん!」

「これでは私はおパンツを被って勝ち誇るだけの小物に見えてしまうではありませんか(キリッ)」

「あははははは! 似てる似てる! そっくりだよクロエちゃ~ん!」


 …………ちらっ。


「…………」


 あ、たぶんこれファントムさん、ガチギレしてる奴だ。

 饒舌な奴が急に黙るとめっちゃ怖いな。


「……ふふふ。お下品な少年には、少々教育を施した方がよろしいでしょうか」


 うわっ! マジでこっちにヘイトが向いた!

 思ったより煽り耐性低かったな、こいつ。


「……何かしら企てておられるようですが、どのような攻撃を繰り出そうと、“灰塵(かいじん)”より再生する私にとっては無駄な足掻きです。あなた方は悲劇の運命に翻弄されながら、無惨に死にゆく筋書きなのですよ」


 ――“灰塵”にして“怪人”。

 ファントムの奴はそう名乗ったが、それならこっちだって相応しい異名を考えてやらぁ!


「だったらブランさんは剛理雷に満ちたゴリラだ! お前なんかに負けるかよ!」


 俺の啖呵と共に――白い雷霆の塊が、ファントムの元へと肉薄していた。

 ブランさんだ!


「食らえファントム! 我が雷光を!」

「何度も無駄な事をなさる――!」


 横薙ぎの構えで溜め込んだ大剣を迎え撃つべく、ファントムは即座に構える。

 しかしブランさんはかすかに笑むと――大剣に纏われた雷光が――フッとかき消えた。


「――【剛刃撃】!」


 自分から雷光を消して攻撃した!?

 無属性の攻撃技か!


「チッ……!」


 今度は雷光を纏っていない横薙ぎの剛撃!


 純粋なパワーによる一撃は――だがそれもこれまでと同じように、攻撃した部位が灰となって崩れ落ちる。そしてすぐに再生。


 ――不思議な事に、光属性で攻撃した時と、まったく同じ挙動だった。


「……よし」


 手応えのなかったハズのブランさんは、何か分かったのか。

 ファントムが目の前にいると言うのに、突然剣を地面に突き刺し、その場で目を閉じる。


 ――魔物となったブランさんは、人間よりも優れた感覚を持っている。

 視覚に頼らず――何かを探ろうとしているのか?


 ……そして瞬きの間に、何かを得心したようにニヤリと笑った。


「……なるほど。やはりそこか。――【雷光斬】!」


「……ってブランさん!? その攻撃の直線上は俺に当た――」


 まずい! さっきのゴリラ呼びで逆鱗に触れたか!?


「がァッ――!?」


 しかし悲鳴をあげたのは俺ではなく――ファントムの声。


 何もない所が斬りつけられ、ダメージを負ったファントムが突然現れた!

 そいつは鉤爪を振り上げ、今まさに俺を攻撃しようとしている直前だった!


 慌ててさっきまでファントムがいたはずの場所を見やるが――まるで幻が晴れるかのように、その姿は露と消えていた。


「ぐ……」

「読めたぞ、貴様が無限に灰から復活するカラクリが!」


 すぐさま俺を庇うように着地し、追撃を加えるブランさん。

 大剣を振るいながら、傷口をかばうファントムへさらなる連撃を叩き込む!


「――幻影魔法だな! それも普通の使い方ではない! 一定以上の実力を持つ者に対し、幻影魔法などの絡め手は効果が薄くすぐに看破される……。ならば別の事象だと誤認させ、動揺の生まれた相手を徐々に術中へ嵌めていく。“灰塵”という異名も、その為のブラフに用いた。……なんとも悪魔らしい、狡猾なやり方だな!」


 ええっと?


 つまりこいつは幻影魔法をさりげな〜く使って、現実と幻影の境界を曖昧にし、徐々に幻影の比重を強めていったのか。

 俺達がそれに気づかないよう、狡猾に、周到に。


 戦闘前に長々と語っていたのも、今にして思えば幻影を拡大させる為の時間稼ぎだったのかもしれない。


 って事はこいつ、ダメージを受けても復活する幻を見せていただけで、本当は全部避けるか防ぐかしていたんだな。

 恐ろしい演出も、見破ってしまえば案外舞台裏はシュールだな。


「……そう言う事だったのか」


 ブランさんの種明かしを聞いて、戦っていたシルヴァさんが、息を切らすファントムを横目で睨む。


「……始めは魔法陣の色を変えたりといった、小さな現実との相違も、次第に範囲を広げていけば気づく事は難しい。

 考えてみりゃあ、スカーレットの力が欲しいなら、人質に取ろうにも手荒な真似はできなかったはず。だがおれはその事に気づけず、まんまと奴の術中にハマった。……恐らく知らず知らずのうちにこちらの精神にも作用していたんだろう。

 ……チッ、その場に存在すらしていなかった人質をとられ、おれは間抜けにも踊らされてたって訳か」

「ふっ……ふふ…………」


 ファントムは多少フラつきながらも、仮面の奥で不気味な笑みをたたえたまま、俺たちから距離を取って一礼する。

 

「お褒めにあずかり、恐悦至極……。シルヴァさんの時は上手くいったのですが、あなたには通じませんか。動揺されてる間に術者である少年を仕留めようとしたのですが……見事に阻まれましたねぇ」


 ――ブランさんさえいなければ、いとも容易く俺を殺せたという自負が、目の前の悪魔の嘲笑から伝わってくる。


 ずっと感じてはいたが、俺の存在はブランさんにとって足枷となっている。


「心配するなクロエくん。君は私が守る。クロエくんは主らしく、後ろでドンと構えていなさい」


 今の俺のレベルじゃ、離れすぎるとテイム状態を保てないし、中途半端な位置に下がって敵の攻撃をブランさんが防げないくらいなら、近くにいた方がいいという判断か。


 まあとにかく、ゴリラ呼びが逆鱗に触れた訳でなくてよかった!


「……それとクロエくん。後で相応の覚悟をしておくように」

「すんませんでした」


 ああ。

 やっぱりファントムなんかよりブランさんの方が何億倍も恐ろしいな。


 とにかく戦いはこれで仕切り直しだ。


「……確かに、あなたの守りを突破し、あの少年を仕留めるのは難しそうだ。ならば私は愚直に参り――」

「――クロエくん。ちょっと失礼」


 ブランさんの片手が俺の頭に添えられ――そのまま勢いよくしゃがまされる!

 すると、さっきまで俺の頭があった場所にはファントムの爪が空を切っており――、


「むぎゅ――」


 潰れたグミみたいな声を出す俺をよそに。

 ブランさんの反撃の刃が、ファントムを横薙ぎに捉えていた!


「――愚直に術者の少年を狙い続けようと……したのですがね……っ……」


 傷口を押さえながら後方へ着地するファントム。

 仮面の奥の笑みは消えており、今の反撃はかなり手痛い一撃となったようだ。


 にしても、いつの間にかまた幻影と入れ替わっていたのか。

 さっきまで奴がいた場所は既にもぬけの殻だ!


「すまないクロエくん。これで背が縮むのは申し訳ないので、毎朝起きたらよく背を伸ばす運動をするように」

「俺はゴムか何かなのか……!?」


 二度も攻撃を阻まれたファントムは、俺へ攻撃を当てられなかった腹いせか、侮蔑するようにこっちを見た。


「……しかし情けない限りですねぇ、少年。女性の影に隠れて、自分は後ろで騒ぐだけ。さしずめ、イキリ魔物使い太郎とでも言ったところでしょうか」

「訂正しろ、ファントム」


 しかしその言葉を遮るように、ブランさんが大剣を突きつけ――。


「クロエくんはイキリパンツ太郎だ」

「そっちかー」


 ジト目でこちらを見た後、フッと笑った。


「だがそうだな。クロエくんが何の役にも立たないと思われているなら……少しばかり活躍してもらうとしよう」

「ん?」

「――クロエくん、右だ。そこを『神装』で思い切り殴れ!」

「そこか! おパンツ・ナックル!!」

「ぐぎゅぉ――!?」


 またまた何もない空間からファントムが現れた!

 ブランさんの指示通りに繰り出したおパンツ・ナックルは、奴の腹部へクリーンヒットしており……!


「がぁぁぁ!? 身体が……灼ける……ッ! ……おのれぇ、下級とは言え、忌々しき女神の『神装』か……!!」

「いいパンチだ。いずれは私より強くなってもらうのだから、男の子はそうでなくてはな」


 だからそれハードル高すぎるって。

 ……でも、シルヴァさんの代わりにファントムは殴れたぜ。ざまぁみろ!!


 ――すっかりこちらのペースに呑まれつつあるファントムを前に、ブランさんは雷光のエフェクトを鳴らしながら威圧する。


「無駄だファントム。貴様のやり方・行動パターンは既に見切った。私の戦闘形式は『理論に基づいた力押し』。戦い方を大きく変えぬ限り、私の導き出した勝利への理論から外れることなどできはしない」


 首筋に汗を垂らしながらニタリと笑うファントム。


「……私の力の一端を見破ったからと言って、勝ち誇るのは早計では? 確かにデュラハンは高位のアンデッドですが、超越級悪魔の格には及ばない。少々スマートさに欠けて私好みではありませんが――搦め手が通じぬなら、純粋な力で押し通るまで」


 そう告げた瞬間――ファントムの姿が大きくブレる。


「――!?」


 ――疾いッ!!


 高速移動によって残像を生み出し、俺が反応する間もなくブランさんの背後へ回っていたファントムは――、


「【血切・活華爪――】」

「――無駄だ」

「……は?」


 ブランさんは後ろを見ることなく、逆手に構えた大剣を柱に、背後からの一撃を技を出し切る前に受け止めていた。


「――! くっ!? 回避を――」

「遅いッ!」


 振り下ろされたファントムの鉤爪を絡め取るようにブランさんの大剣が躍動し――そのまま紫電一閃!

 ――懐へ鋭く斬り込んでゆく!


「――【雷切華(ライキッカ)】!」

「ごはァッ――!?」


 決まった!

 悪魔の弱点である光を大量に含んだ“雷光”だ!!


 雷光の華を鮮血のように咲かせて、ファントムがボロ雑巾のように勢いよく地面を転がってゆく。


「……言ったはずだ。貴様のやり方・行動パターンは既に見切った。――とな」

「ぐっ……く……」


 バチィ――! と、雷光を振り払いながら、苦しそうに這い上がろうとするファントムを、ブランさんは油断なく見据えている。


 その気迫に、周囲でやり合っていた悪魔たちとシルヴァさんも、戦いを中断して驚愕の色を浮かべていた。


「……能力を見破った途端、おれが手も足も出なかったファントムがいとも簡単に――! 強いとは思っていたが、ステータス以上に、戦いの技巧が研ぎ澄まされている。

 これがかつて最強の女騎士と謳われた実力か……!」


 雷光に焼かれて苦しみ悶えながら、尚も立ち上がるファントム。

 ……これでも倒れないってのは、相当タフだな。

 腐っても超越級悪魔って事か……。


「はぁ……はぁ……この(アマ)ァ……。一度ならず二度も三度も我が身を雷光で刻みやがってェッ……」

「どうしたファントム。貴様の被った仮面が割れ始めているぞ。いくら外面を取り繕おうと、その本性は品のない醜く爛れた快楽主義者。これではクロエくんの紳士性には遠く及ばないな」


 それ遠回しに俺が下品だって言ってません?


「――ふふ……! ……失敬。取り乱しました。にわかには信じ難かったのですが……これで確証を得ましたよ。さすがは生前、その名を轟かせた最強の女騎士ブランカ・リリィベル……! そしてその少年が持っているのは、まさしく女神の『神装』。どうやらジャック殿を葬ったのは、あなた方で間違いないようですね?」

「…………」


 沈黙を肯定と受け取り、ファントムは構えを解いた。

 半壊した仮面の奥で、何やら残念そうにため息をつく。

 

「元・魔王軍幹部にして、先代の死神執行部隊の長であったジャック殿を制したのであるなら、その一段下の役職である私一人では勝つことは不可能に近いでしょう。いやはや、大変困りました」


 まったく困って無さそうにやれやれといったポーズをとるファントム。


 なんだ? 戦意喪失した割に、まったく悲観してなさそうな――。

 ……むしろ、まだまだ勝算が残っている余裕の笑みが相手から感じられる。


 これまでのやり取りから、こいつは油断ならない奴だと分かっている。

 発言をそのままの意味で受け取るのは危険だろう。


「――ですので、“彼女”にも戦ってもらいましょうかねぇ」

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