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時間ができたので投稿します。
少し短いですがご容赦を。
何もない空間から現れた弓と矢を構える彼の体の周りを光の線が幾重にも走りまわる。
それはあたかも光と彼がダンスを踊っているかのようで、月明かりに照らされたその光景は、現代的なアスファルトでできた道路の中にありながらひどく幻想的な様相を呈していた。
「きれい。」
そのひどく幻想的な光景を側で見ていた彼女の口から、思わず言葉がこぼれる。
榊瑠唯は今ある状況も忘れその様子に見いっていた。
ただ、彼の心の中の有り様は、周りから見た幻想的な様とは異なりかなり慌てていた。
◇◇◇
(おいおい、ちょっと跳ばしすぎじゃないか?)
その両手に現れた知識ある神器であるその弓に、僕は落ち着くようにとなんとかたしなめる。
その弓には持ち主の力を高める効果があるが、弓に宿る意識である、気分屋な彼女に大きく左右される。
一度機嫌を損ねると最低限の力しか貸してもらえず、時にはご機嫌とりが必要な扱いが難しい武器でもあった。
それが今回は現れた瞬間から何も言わずとも彼女の気分は最高潮にあり、その効果は最大限。
これから魔王も倒さんとばかりの状態にあった。
そんな彼女は、世界に再び現れ、彼の手の中にある状況に喜びを隠しきれないでいた。
なにせ、生まれ出でた異世界を捨て彼に着いてきたものの、平和に見えるこの世界では使われることなどなく、彼女はこのまま彼の人生が終わるまで心の奥底で眠る覚悟をしていた。
それが今、再び彼の手の中にあり、射られようなどとは、彼女は目の前の憐れな獲物には感謝すらしたい気持ちになっていた。
彼女は直ぐにでも目の前の獲物を射らんと、自身をたしなめようとする主を急かす。
(さあ、あきら、早く目の前の絵文字を屠りましょう。何をもたもたしているの、相変わらず愚図ね、さあ。)
◇◇◇
僕は半ば暴走状態にある彼女をなんとか落ち着かせようと試みる。
(ちょっと、落ち着けって。それにこんな状態で矢なんか放った日には後ろの家もろとも吹き飛んじゃうだろ!)
そうこの弓は曲がりなりにも異世界では神弓と讃えられており、その力を最大限に使って一度矢を放てば、その先は嵐が過ぎ去ったかのように消え去る。
それを思い出し、警察の世話にはなりたくないとわめく僕に、彼女は少し冷静になってきたようだった。
(はあ、もう、そのへたれっぷりは変わらないわね。冷めてきちゃったじゃない。)
彼女はふてくされながらも、答える。
(ふう、落ち着いてくれたようで何よりだよ。)
彼女が落ち着きを取り戻すとともに、僕の身体の周りを幾重にも走っていた光も薄くなっていく。
そして、冷静さを取り戻した彼女に再び出会えた感謝と多分の喜びを込めて、僕は改めて挨拶をかわすのだった。
(改めて、ひさしぶり。)
彼女は少しの間だけ無言になった後、照れを隠すように心の中にちいさな声を響かせた。
(……えぇ、ひさしぶり、あきら。)
次は明後日には投稿したいと思います。