第一話:霊感ゼロの日常と、二度目の距離感
はじめまして、あるいはいつもありがとうございます!
本作を見つけていただき、本当にありがとうございます。
本作は、霊感ゼロ(自称)の主人公が、おっとり美女の部屋の「ヤバいいわく」を物理的に(?)片付けていく、ちょっと不気味でお色気ありな日常オカルトコメディです。
★【一挙投稿スケジュールのお知らせ】★
本日17:31から、10分おきに最終話(第七話)まで一気に出撃いたします!
・第一話:17:31予定
・第二話:17:41予定
・第三話:17:51予定
・第四話:18:01予定
・第五話:18:11予定
・第六話(完結):18:21予定
一気に最後までお読みいただけますので、ぜひお付き合いいただけますと幸いです!
まずは第一話、どうぞお楽しみください!
「この子には、そっちの才能は全くありませんね。綺麗さっぱり、ただの一般人です」
中学二年の秋、酷い肩凝りと偏頭痛に悩まされる俺を見かねて、母が俺と妹を連れて行った先でのことだ。
そこは、地元でも『本物』と噂される、とある霊能者の自宅だった。
薄暗い和室、漂う線香の匂い。
その男は、俺の手相を凝視し、人相を眺め、名前と生年月日を何度もなぞった後、あっさりとそう言い放った。
「その代わり、妹さんの方は……うん、かなり強いものを持っています。引き寄せやすい体質ですね」
隣で所在なさげに座っていた妹が、小さく肩を揺らしたのを覚えている。
妹には「ある」が、俺には「ない」。
俺には、見えないものを感じる能力も、怪異を退ける力も、何一つとして備わっていないらしい。
プロの太鼓判を押されたことで、母はひどく安心し、俺もまた「自分の体調不良はただの成長痛か運動不足だったんだな」と納得した。
それから五年。
俺、進藤駆は京都の大学へ進学し、一人暮らしを始めた。
第一志望だった国立大学には滑り落ちたが、その滑り止めとして受かった、京都の歴史ある仏教系私立大学に入学した。サークルは、なんとなく響きが面白そうだった『現代仏教文化研究会』。
霊感ゼロ of ゼロの、ごく普通の大学生。
京都という、そこかしこに歴史と「いわく」が転がっている街に住みながらも、俺の日常は怪異とは無縁の、極めて平穏なものになるはずだった。
あの合コンに行くまでは。
九月の夕方六時。
京都の夏は、九月に入ってもなお容赦がない。太陽は西の山際にへばりついたまま沈みきろうとせず、ぬるま湯のような、湿度の高いねっとりとした空気がじっとりと肌にまとわりついてくる。
地下鉄烏丸線の松ケ崎駅。
改札を出て地上へと上がると、そこには見覚えのある、柔らかい雰囲気の女性が立っていた。
「あ、駆くん! こっちこっち!」
小さく手を振って駆け寄ってきたのは、九条莉子さんだった。
数日前、サークル仲間の宮田大地に誘われた合コンで知り合った女子大生だ。
当時の記憶を遡ってみても、俺が彼女を特別に狙って口説いたわけではない。大地がセッティングした賑やかな席で、数人と連絡先を交換したうちの一人が彼女だった。
覚えていることと言えば、田舎育ちのおっとりしたお嬢様風の雰囲気と、身長一六〇センチほどのふっくらした体型――いや、それ以上に、男なら嫌でも視線がいってしまう圧倒的な巨乳の持ち主だということくらいだ。
「お疲れさま、莉子さん。わざわざ駅まで迎えに来てくれてありがと」
「ううん、全然! 久しぶりだね。来てくれて嬉しいな」
莉子さんは人懐っこい笑みを浮かべ、軽く挨拶を交わす。
だが、「お久しぶり」と言われても、実際に会うのはこれがまだ二度目だ。それにしては、なんだか妙に距離感が近い気がする。
俺がこの松ケ崎なんて、京都市の北端に近い場所までわざわざやってきたのは、合コンから数日後、莉子さんから『ルイン』でメッセージが届いたからだった。
特に大したやりとりをしていたわけでもない。こちらから甘い言葉を囁いたわけでもない。それなのに、
『今度、私の家に来てくれないかな?』
という、あまりにも直球な誘いを受けた。
――これは、もしかして……ワンチャンあるのでは?
男なら誰しも抱くであろう淡い、しかし邪な期待が胸をよぎった。だからこそ、怪しむこともせず、そそくさと電車を乗り継いでここまでやってきたのだ。
「私の家、ここから修学院のほうに少し歩いたところにあるの。行こ?」
「あ、うん。案内よろしく」
並んで歩き出す。
すると、莉子さんがごく自然な様子で、ぽつりと言った。
「そういえばね、私、妹と一緒に住んでるんだ」
「……え?」
その一言で、俺の頭の中で膨んでいたピンク色のバルーンが、音を立てて弾け飛んだ。
妹。
つまり、同居人がいる。
当然のように、俺が期待していた「ワンチャン」という名の儚い夢は、木っ端微塵に打ち砕かれた。
「あ、そうなんだ。妹さんと二人暮らしなんだね……」
なるべく落胆を声に出さないよう心掛けたが、引き攣った笑みになっていなかっただろうか。
じゃあ、なんで俺は呼ばれたんだ?
ただの友達として、家で鍋でも囲むため? それにしては、今日ここに来るまでの連絡で、妹が同居していることなんて一言も聞いていなかった。
「うん。柚葉っていうんだけど、私と違って黒髪でスレンダーな子なの。駆くん、驚かないでね?」
「何に驚く要素があるんだよ」
「うふふ、なんとなくね」
おっとりと微笑む莉子さんの横顔を見つめながら、額を流れる汗を拭う。
「それにしても、ここ京都市の北の方だけど、やっぱり暑いな。鴨川が近いからかな」
「そうだねえ。でも、うち、すっごく涼しいから。大丈夫だよ」
そう言うと、莉子さんは「ほら、急ごう?」と、俺の手をぎゅっと握った。
柔らかく、少しひんやりとした手のひら。
女の子に手を引かれるなんて滅多にない経験に、一瞬だけ心臓が跳ね上がったが、すぐにその「ひんやりとした冷たさ」が、単にエアコンの効いた部屋から出てきたばかりだからではないような、不思議な違和感として残った。
歩くこと十数分。
住宅街の中に佇む、外観の新しい綺麗なマンションが見えてきた。
四階建ての、角部屋。3LDK。
家賃はそれなりにしそうだが、女子大に通う田舎の資産家の娘である九条莉子が住んでいると考えれば、特に不思議ではない。むしろ彼女の雰囲気ぴったりな、清潔感のある建物だった。
俺が余裕を保っていられたのは、本当に、ここまでの道のりだけだった。
「はい、到着! 鍵開けるね」
ガチャリ、と金属音が響き、莉子さんが重い玄関ドアを押し開ける。
「お邪魔しま――」
言いかけて、俺の言葉は喉の奥で凍りついた。
(……待て。これは, さすがにヤバい)
靴を脱いで一歩、踏込んだ瞬間。
五感を、いや、五感を超えた「何か」を冷たいナイフで一突きにされたような衝撃が走った。
何も聞いていない。莉子さんはただ微笑んでいる。
だが、北側の玄関から入ってすぐの廊下の左手にある、普通のドア。
そこから放たれる『気配』が、俺の全身の神経を逆なでし、激しくアラートを鳴らし始めた。
ぞわぞわと、形容しがたい悍ましい何かが背筋を這い上がってくる。
心臓が警鐘を乱打し、冷や汗が吹き出す。皮膚という皮膚が粟立ち、全身の毛穴が収縮する。
二十年の人生の中で、一度だって感じたことのない、芯から凍りつくような恐怖のゾクゾク。
――おい、ちょっと待て。
俺は五年前、「霊感は綺麗さっぱり無い」と言い切られたはずだ。ただの一般人のはずだ。
それなのに、どうして。
このドアの向こうに「とんでもなくヤバいもの」が居ることを、俺の生存本能がこれほどまでに、狂ったように叫び続けているんだ――?
「…………」
硬直する体を必死に宥め、俺は極めて自然な動作を装ってスニーカーの紐に手を伸ばした。
何事も起きていない。俺はただの、霊感ゼロの大学生。そう自分に言い聞かせ、乾いた喉からどうにか声を絞り出す。
「……ねえ、莉子さん。莉子さんの部屋って、そこですか?」
違う、と言ってほしかった。
そこは物置だとか、開かずの間だとか、あるいは妹の部屋だとか、どんな言い訳でもいいから、俺に牙を剥くこの不穏な気配の源が、目の前でおっとりと微笑んでいる彼女のプライベート空間ではないことを、心の底から祈っていた。
だが、祈りは呆気なく打ち砕かれる。
「そうだよ。……ふふ、気になる?」
莉子さんは小首を傾げ、悪戯っぽく微笑んだ。
当たりだった。最悪の当たりだ。
第一話をお読みいただき、ありがとうございました!
自称・霊感ゼロの駆ですが、早くも雲行きが怪しくなってまいりました……。
次の第二話は、10分後の【17:41】に投稿されます!
莉子さんの新築マンションの玄関を開けた瞬間、駆を襲う「ヤバすぎる悪寒」とは――!?
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それでは、次の話でお会いしましょう!




