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第3話 突然の来客

「客ですか?」


 次の日も探索斡旋所にてちゃんと働こうと自分を奮い立たせてきたシューズに、受付嬢のフーコが客の来訪を告げた。


「はい。バンガードライセンスをお持ちの方が話があるそうです」


「バンガード……」


 バンガードはダンジョン内のかなり広い地域で影響力のある組織だ。

 そのライセンスを得る為には、かなり厳しい条件を満たす必要があり、所属しているというだけで実力者であることが保証されている。

 また、バンガードライセンス所持者は様々な特権と影響力を持っている。

 シューズの住んでいるようなさほど大きくない街の探索斡旋所程度なら、どうとでもできるくらいの物をだ。


 そんな相手がどういう要件でシューズに会いに来たのか見当もつかなかったが、断る理由も見当たらない。シューズは会うことにした。




「どうも! 貴方がシューズさんですか! 初めまして!!」


 シューズが了承して通された部屋には、一人の男がいた。

 男の目は糸のように細く、濃いめの金色をした長い髪を持ち、毛量の多いそれを、ド太い三つ編みで無理やりまとめていた。


「ど、どうも。えっと、用ってなんなのでしょうか?」


「まずはその前に自己紹介を!! シューズさん! 『金色の千眼』という二つ名をご存知ですか!」


「金色の千眼……金髪で無敗無敵と言われてる……こないだも、たった一人で三百人の盗賊を生捕にしたとか……」


 シューズはその二つ名について噂を聞いたことがあった。

 その者はまるで千の瞳を持つかのように戦闘の全てを見透かし、圧倒的に強いとだ。

 そして金髪をしているらしい。

 バンガードライセンスを持つ者のなかでも、二つ名をつけられる者はダンジョン内で広くアイドル的扱いを受け、その活躍を耳にすることは多い。


「はい! 何を隠そう僕はその『金色の千眼』!!

 ……のパッとしないと言われてる『弟』、トートです! どうもっ! よろしくお願いしますっ!」


 そういってトートは手を出して握手を求めてきた。


「……よっ……よろしくお願いします」


 コメントに困り、とりあえずシューズは握手を返した。


「あれ!? 面白くなかったですか!? 割と鉄板の自虐ネタだったんですが……! いや有名人のただの弟かよ! って!」


「そ、そうなんですか……。 それであの……ご用件というのは?」


「あ、そうでした! 実はシューズさんが出会ったという『人型をした虫の怪物』についてお話を伺いたくて……!」


 その言葉にシューズの顔は曇った。

 トートがいうそのモンスターは、シューズが所属していた探索者パーティが壊滅する原因になったモンスターだった。

 ダンジョン内には人の他にも様々な生き物が生きている。ダンジョンに適応してさまざまな変化を遂げている生物達がだ。

 人にとって危険性の高い生物も多い。人間の生活圏に近いそれらの駆除も、探索者の仕事には含まれたりする。


「……何を話せばいいんでしょうか?」


「それではまず……」


 シューズはトートに遭遇した『人型をした虫の怪物』について、いろいろな質問をされた。

 内容としてはパーティ壊滅時に探索斡旋所などから何度も聞かれた内容をなぞる物が多く、シューズは話し慣れてしまったそれらを澱みなく答えられた。


「なるほど……! まとめると、大きさは4から5メートル。 左手がよく切れるカマキリの様なカマ、右手が鈍器にもなるデカいカニのようなハサミ。 顔はバッタみたいで、ハエみたいな羽で空も飛べて、めちゃくちゃ早くて強い……ですか!」


「はい、そんな感じです」


「魔生物かどうかとかは感知できなかったんですか!?」


「俺の領域(テリトリー)は範囲が狭くて感知力は低いので……」


「お仲間さんは何か言ってませんでしたか!?」


「正直、対応するのに精一杯で、情報共有の余裕は無くて……」


 魔生物、領域(テリトリー)はダンジョンで変わった人間や生物の特徴の一つだ。

 それらの特徴は、ダンジョンで人が生きていく上で必須の物となっている。


「戦闘時の様子を聞いてもいいですか!?」


「戦闘はほとんどできていなかったと思います。 まずガードン……うちのパーティで一番防御が硬かった奴が潰されて、リーダーの判断で、すぐ逃げに徹するように動きましたから」


「潰されたお仲間さんの救出には動かなかったのですか!?」


「潰されたというのは、身動きが取れなくなったみたいな抽象的な意味じゃなく、文字通り叩き潰されたという意味です。 生きてるわけがないと一瞬でわかるくらいに……」


「あっ……、なるほどすいません……!!」


「いえ…………あの、バンガードの方があの怪物の話を聞きにきたってことは、ヤツの討伐に来たと言うことなんですか?」


 まだ説明の途中であったが、シューズはどうしても気になっていたことを聞いた。

 仇は討たれるのかどうか。シューズにとってそれはかなり重要なことだった。


「討伐はまだ決まってませんね! 俺は『コンちゃん』と違って、そこまでバリバリの武闘派というわけでもないですからね! パッとしない弟は、下調べの情報収集要員がメインです! つまりはパシリです!」


「『コンちゃん』?」


「『金色の千眼』って二つ名がついた時に俺がつけたあだ名です! コンちゃんって呼ぶと怒られますけどね!」


 話を聞いている感じやトーンや表情で、自虐はしていても思ったよりトートと金色の千眼の兄弟仲は悪くないのだろうなという印象をシューズは持った。


「調査というのは何のためにですか?」


「まあ、パッとしない弟の僕でも倒せそうなら単独討伐も視野に入れた調査ではあるんですけど、基本的には…………シューズさん、口硬そうだし言っちゃってもいいかな!?」


「何かあるんですか?」


「はい! 実はここだけの話、この街の近辺って、原因不明の行方不明の数がそこそこ多いんですよ……!!」


「原因不明の行方不明……」


「はい! 行商人とか、探索者とか、盗賊とか、対象はバラバラではあるんですけど、謎の消息不明が時たま発生してます!」


「ダンジョン内はそこそこ危険ですし、珍しいことでもないと思いますけども」


「そうですね! でも、死体や装備、馬車とかの乗り物の類いも含めて痕跡すらなく消えてるんですよ! 生存者や目撃者もなしで!」


「痕跡がない……」


「この辺は死体や遺失物の消失時間もかなり長めですし、なにより目撃者がいないというのが少し変なんです! 例えばめちゃくちゃ強くて大食漢の生物がいたとしても、食べることが目的なら、目撃者を残さないことに違和感があります! ある程度の獲物が確保できれば、逃げるのを追うのは変です! 話を戻しますけど、シューズさんは人型の虫生物から逃げる時、かなり執拗に追われたという話ですよね!?」


「……はい」


 シューズはパーティのリーダー、ロレムの父に、逃げ切れる可能性があるのはお前だけだ。助けを呼んできてくれと、逃がされた。

 その時にロレムの父パロムは、人型の虫生物の行動を阻害するように、他の仲間を守る様に動いていた。

 シューズは言われた通りに逃げの一手、助けを呼ぶために街に向かっていたが、そのシューズを追うように人型の虫生物は追ってきた。

 その時点で、パロムや他の仲間がどうなっていたか、シューズにはわからなかった。

 確かなのは、そこから数時間、シューズは人型の虫生物と命懸けの鬼ごっこをして生き延びたということだ。


「それから考えても、人型の虫生物は明らかに知能があり、何らかの目的があって目撃者を完全に消していた可能性があります! 今までの行方不明者との関連があればですけどもね! 実際、シューズさんのパーティの死体や装備は、一つも見つからなかったんですよね!?」


「……でも、そんなの何のために?」


「それがわからないし、危険性もありますので、パッとしない僕がまず調べにきた感じです! シューズさんの遭遇した人型の虫生物……どうでもいいですけどこの言い方長いですね! えっと、カニのハサミにカマキリのカマだし、『カニカマ』って呼びましょうか! カニカマの目的や行方不明者との関連性、どのくらいの知能や力があるかを調べます!」


 ネーミングセンスはどうかと思ったが、シューズは名前についてはどうでもよいと思うので、カニカマという呼び方に関しては流した。


「……それがわかればバンガードで討伐してくれるのですか?」


「……わかりません! 僕としては危険ならカニカマを討伐したいですけど、僕一人で倒せそうじゃなきゃ他のバンガードを呼ぶ必要があります! その場合どうするか決めるのは、バンガードでももっと権力のある人になると思います! バンガードは一枚岩じゃないし、所属メンバーの方向性もバラバラなので、その時に来た担当によりますね!!」


「討伐以外の結論もありえるんですか?」


「まあ、捕獲だとか、研究だとか、ゾーニングのために生存拠点の強制移動とか、色々ありえますね! バンガードには極端な思想の変人が多いですので!!」


 まともなのはパッとしない自分くらいですよハハハと、トートは笑う。


「他は、何について話せばいいですか?」


「話はこれくらいで、シューズさんとカニカマの遭遇地点まで案内してもらえますか!? 探索斡旋所の話では調べても何も残ってなかったみたいですが、一応見ておきたいので!!」


 それを聞いてシューズは少しビクリと身体を震わせてしまう。

 命の危機を思い出してしまったのだ。


「怖いのならやめておきますか……!?」


 心配するようにトートが聞く。


「いえ、大丈夫です。行きます」


 大丈夫ですと、シューズは自分に言い聞かせるように繰り返した。

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