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第1話 世界はダンジョンに飲み込まれた

久々投稿、よければお付き合いよろしくお願いします。

 世界の全てが、ダンジョンに飲み込まれた。

 それも、ずっとずっと昔に。


 なぜ飲み込まれたのか。

 飲み込まれる前の世界の姿はどうだったのか。

 幾層にも重なり、果てなく広く感じる壁や天井のその先、ダンジョンの外の世界はどうなっているのか。

 それらの質問の答えはたくさんある。


 古いとある冒険家の手記。

 巨大宗教の世界の成り立ちの教え。

 頭のいい学者さんの考察。 etc...


 たくさんあるが、どれも言ってることがバラバラで、それらのどれが正解かを証明できる者はいないし、確かめた奴がいるのかどうかすらわからない。

 わかるのは、そんな真偽もわからなくなってしまった話が至る所で蔓延ってしまうだけの時間が、世界がダンジョンに包まれてから過ぎてしまっているということくらいだ。



 世界を包み込んだダンジョンの環境は特殊だ。

 膨大な水に満たされた場所、

 無限にマグマが溢れつづける場所、

 常に雷が迸る場所、

 重力が入り乱れる場所、

 繋がるはずのない遠くに繋がる扉、

 毎日形が変わる広大な森、

 音と光がないただ白だけがある衣装部屋、

 夢と現実が入れ替わる宿、

 形のないものを捕らえる牢獄……。

 それらの環境の共通点は、床、壁や天井で囲まれた、ダンジョンの『中』であるということくらいで、一定ではない。


 そんな特殊なダンジョンの環境を、生まれてから当たり前の世界のあり方であるものと受け入れて、人々はなんとか生きていた。






 __ドカリッ


 一人の男が、頬を殴られ、飛んだ。


「パーティを組みたいだと!? 仲間を置いて逃げてきたお前と組みたい『探索者』なんて、居るわきゃねぇだろうが!!」


 そこはダンジョンの中で比較的環境が落ち着いた場所に作られた街。

 その中で、街の外に出て、ダンジョンから様々な形で生活の糧を得てくる作業を生業としている人達がいた。

 『探索者』と呼ばれる人達だ。


「……すまない」


 殴られ、倒れた男が謝った。

 彼の名前はシューズという。

 彼は数週間前に、自分の組んでいた探索者パーティが壊滅した。その際に、彼一人が生き残り、逃げ延びたのだ。

 身体は細めで背丈は普通、年頃は二十代後半くらいで、目立った特徴のない男だった。


「あ゛っ? シューズテメェ、言い返しすらしねぇのか! オメェも奴らと一緒におっ死んでた方がマシだったんじゃねえかァ!?」


 倒れていたシューズを殴った男が、襟首を掴んでシューズを立たせ、持ち上げる。

 締まっているのか、シューズは苦しそうにもがく。


「フレラータさん! それ以上の暴力行為を続けるなら、出禁処置を取りますよ!」


 彼らのいた場所、探索斡旋所の受付嬢がそう叫ぶ。


「あ゛っ?」


 フレラータと呼ばれた男は、声をかけてきた受付嬢を睨みつけながら威嚇する。

 フレラータは頭をスキンヘッドにした大男だ。

 服装は周りを威嚇するかのようにトゲトゲしく、背中に背負った大きなハンマーも見るからに殺傷能力が高そうな上に使い古されており、それらの装飾も、彼から感じる攻撃性を強くしている。


「いっ……いや、良いんだ。こんなのただのじゃれ合いだよ。き……気にしないでくれ」


 いまだ締め上げられたままのシューズが苦しそうにしながらもフレラータを庇うように受付嬢に対してそう言った。


「チッ!」


 それに苛立ったフレラータが、シューズを投げ飛ばす。

 シューズは倒れ込んで、グッと声を漏らした。


「テメェが代わりに死んじまえばよかったんだ!!」


 ペッ、と唾を吐きつけて、フレラータは荒々しく足音を立てながら出て行った。

 乱暴に閉められたドアにつけられたドアベルがカランカランと大きな音を立てて止まったあと、場を一瞬嵐が過ぎ去った後のような静寂が支配した。


 その一瞬もすぐ終わり、探索斡旋所は徐々に喧騒が溢れ出す。

 様子を伺ってはいたが口を出さずにいただけの人達が多くいたのだ。


「シューズさん、大丈夫ですか?」


 先ほど声をかけてきた受付嬢が、心配そうにシューズに駆け寄る。

 彼女の名前はフーコ=ルドエク。

 パープルブロンドの髪を後ろで縛ってポニーテールにしている、少し小柄な女性だ。

 フーコの耳は笹の葉のように尖って長く、それは彼女がエルフとも呼ばれる樹人族の血を引いた人物であること示している。


「ああ、ありがとうフーコさん。大丈夫です」


「……大丈夫で済ませちゃダメですよ。フレラータさんのあれは許してはダメな暴力行為です! 斡旋所の方で何か罰則を……」


「いや、本当にいいんです。この上フレラータまで働けなくなったら、この斡旋所にとっても小さくはない打撃になってしまいますよね?」


 シューズの所属していたパーティが壊滅したことで、その分の負担が斡旋所に所属している他のパーティや人達にかかっていることをシューズは長年の経験から感じ取っていた。

 その負担がうまく回るようになるまでは、まだ時間がかかるだろう。


「ですが……」


「それより、さっきの話ですけど……」


「さっきの……? ああ、えっと、シューズさんへのパーティ斡旋の件は、人手を希望しているパーティは居なくはないのですけれども…………その……」


「やっぱり、仲間を置き去りにした男は嫌か……」


「……すいません」


「フーコさんが謝ることじゃないですよ。……また頼みます」


 そう言って少し背中を小さくしながら、シューズは探索斡旋所を後にした。

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