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7-5:思わぬ出会い

感想、お気に入り登録等々ありがとうございます!



7ー5


バッシャバッシャという、水音とキャッキャという黄色い声。あぁ、目の前には天国が広がっております…


もう…召されても、いい気がしてくる…


「姫様、集中なさいませ」


「うぅ…はぃ…」


今日、俺は淑女教育の補習です。


今まで午前中にやってたんだけど、ちょっと前から保健所行ったり、商会や冒険者ギルドとの会合に出たり、孤児院の視察行ったり、文官に色んな教育したり、執務やったりで、午前中にすらやらなくなり始めてた。


んで、ちょこーっと前の癖というか、なんと言うか…貴族っぽくない仕草をしてたのがバレたんだよね。何があったのか説明すると…ベッドの上で次はなるべく自動化した調理器具を作ろうと思って、設計図広げて「う~ん」って考え込んでたところ、マーサが入室してきてた。マーサはノックもしたし、呼び掛けたらしいが、返事がなかったので、突入してきたらしい。俺は考え込んでて気付かなかったんだ。


で、設計図広げて胡座かいて、頬杖突いてる姿を見られました。えーと、マーサ曰く


「淑女が足を広げるとは何事ですか!」


「頬杖はお止めなさいと言いましたでしょう!」


で、それに対して俺の返答も不味かったっぽい。考え込んでたのに、その襲撃だったので、呆気に取られて判断力が鈍ってた。


「えーと、下着とか見えてないからセーフ」


…特大の雷が落ちた。


プライベートビーチからずっと溜まりに溜まってたものが爆発したっぽい。でも10分ほどの説教で済んだんだよね。明日は休日で、プライベートビーチに行くから、って。で、朝になりいざ行こうと思ったらコレでした。パーティドレス着せられて、補習を言い渡された訳です。


うぅ…目の前でエサぶら下げられて、与えらないワンコの気持ちが今ならよく分かる。泣きたくなる。


「しくしく…」


「姫様、泣き真似はお止めなさい。涙は女の武器です。ここぞという時にお使いなさいませ」


「私にとっては、今がその時かと」


「そんな訳がないでしょう」


「うぅ…」


マーサが許してくれない。悲しい。でも教育をサボってたのは事実なので何も言えない。でもサボりたくもなる。厳しいのはモチロンだけど、そもそも俺は元々中身男だよ?たまに忘れかける気がするけど…


ぶっちゃけ、このまま淑女教育受け続けると、その内に心までとか…完璧に否定できなくてツラい!


まぁでも、今のところは大丈夫かな。前世の記憶や感覚が勝ってるから。今はそんな事よりも直近の問題として、さっさと終わらせてプールに飛び込みたい。



「姫様、背筋が曲がっておりますよ」


「…はい」


今は歩き方を矯正されとります。背筋は伸ばして、軸をブラすなって言われた。無茶言うな。人間、歩いたら頭は上下左右に揺れるでしょうよ。それを体幹だけで矯正するのはムズい!


「集中なさいませ」


「……」


結局、午前中一杯は補習に充てられました。折角の休日が…シクシク…








「はぁ…午前中だけで疲れました」


「ヒスイも災難ねぇ」


「うぅ…何でララァナとルゥは免除されてんの?」


「ヒスイが寝た後に私とルゥは受けてるもの」


「…初耳なんだけど」


午前中は淑女教育でこってり絞られて、元気が皆無の俺です。もうマジ疲れた。


午後は自由時間になったから、少し泳いでたんだけど、さすがにずっと泳ぐ気にはなれなかったので、砂浜を散歩したいと言ったら、ララァナ、ルゥ、それとユリーさんを護衛に付けるのと、この先にある漁村まで行かないならという条件付きでOKを貰った。まぁ、漁村と言っても結構遠いらしいので、そこまで歩く気にもなれない。


「あはは、ヒスイちゃんも大変ねぇ。でもマーサさんもヒスイちゃんの為を思って厳しくしてるんだと思うわよ?できるだけ煙たがらないようにね」


「それは…分かりますけど」


ユリーさんが諭すように言ってくる。まぁ、マーサが厳しい理由は分かる。俺は仮にも辺境伯家唯一の跡取り娘ということになっている。この国で辺境伯は、都市国家ばりに広い四大領の主。巨大な軍事力を運用することも許可されてて、なおかつ中央においても権威が強い。クーデター起こそうと思えばいつでも起こせてしまうくらいだ。まぁ、それが起きないのには理由があるわけなんだけど。今はそれはいいや。


とにかく、実質的には辺境伯は一国の国主に近い。それの直系の孫娘。そうなると、この先関わってくるのは、当然高位の貴族、果ては王族。ってか、去年の暮れから今年の年始にかけて、ずっと王族--それも先王、国王、王妃と関わってきた。冷静になるとかなりヤバイことしてた。想像してみて欲しい。


本当に昨日まで世間一般でいうところの、お貴族様のマナーなんて知らない庶民だったのに、急に「じゃあ、今日天皇とお茶会やって」って言われた状況を。マジでこの状況だったわけだよ。この国の王族がフランクかつ、おじい様が恩を売ってて良かった。マジで。


で、俺は来年も王妃様にお呼ばれしております。何に?新年会に。


……消え去ってしまいたい。


どうやら、各家の当主が出る王国会議をやってる最中は、その夫人方は暇になる。なので、仲のいい者同士だったり、近しい親類縁者で例年集まってちょっとした食事会だったり、お茶会をしているらしい。で、来年は俺にもお呼びが掛かりました。


いつお呼ばれしたのかというと、ケイリュオンへ発つ前に国王陛下から王妃の手紙を貰ったんだよね。例のポーチにしまい込んだやつ。それが来年実施するという新年会の招待状でした。しかも、王妃からの招待状なので、参加メンバーはロイヤルファミリーの集まりらしいです。


…確か醤油がぶ飲みすると倒れるんだっけ?しかし、残念ながらここに醤油はない。結局作ってない。麹菌探そうにも、どう探したもんか分からんし。というか、そんなのしたら、今の貧弱な体じゃポックリ逝く気がする。


とにかく、その王妃が主催する新年会に呼ばれちゃった訳です。いやー、中身を知った途端に侍女軍団は大騒ぎ。でも、領地の立て直しの方が優先度高かったので、今まではお目こぼしされてきたわけだ。でも、流石にマーサもそろそろヤバイと思ったんだろう。


だから、急遽補習が組まれたんだと思う。


とにかく今は解放されて自由時間なので、今のうちにリフレッシュである。と言っても、砂浜が続くだけで大して面白味もない。


「ところで、3人とも水着は慣れた?」


「あー…まぁそこそこは?」


「えっと…男性が居ないあの場所限定でなら。あ、リガウス様はだいぶお歳を召してるから何とか…」


ユリーさんとララァナはまだ羞恥心の方が大きいらしい。一方のルゥは年齢の違いか、文化の違い故か大して気にも留めてないらしい。むしろ、動きやすくて気に入っているっぽい。一人で着難いのが難点だって、この前書いて教えてくれた。結んだりする必要のない、競泳水着みたいなタイプなら一人で何とか着れるらしいけど、それでも大きな翼を通すのに苦労するみたいなので、誰かに補助してもらうのが楽で良いとのこと。


「んー、熱中症対策として、ケイリュオンの領民くらいには広げたいんですけどね」


「そうねぇ。水に浸かってる間は涼しい訳だしね。男女別にしちゃえば入れるって人も居るとは思うけど」


「そうですね。最初は孤児院で広げてみますか。城の敷地内にプールが出来れば、孤児の遊ぶ施設として有用でしょうし、熱中症対策になりますからね」


実は夏に入ってから熱中症になった人達がそこそこ居るんだよね。一応、保健所で水分を摂るようにとかの指導はしてるんだけど、それでも出てきてしまう。まぁプール入ってても、水分補給しなきゃ脱水症状で死ぬけどね。


「うーん、子供とかなら確かに普通に楽しんでくれそうだけど、問題は…」


「マーサさん、よねぇ」


「「「う~ん‥」」」


健康維持のための施設ってことで受け入れられないかな?あと、子供の頃からプールで遊ぶことを覚えて、それが上手いこと大人にも伝播していけば、娯楽施設として事業化もできるんじゃないかな?市営プールならぬ、領営プールってことで、ちょこっとの入場料を取りつつ、買い物ができる施設を付設して、収益を上げるとか。


折角海があるんだから、観光業を栄えさせれば人の流入も増えるよね?あー、でもそこで働くための従業員の確保の問題が…それに海性魔獣への対策もして安全面への考慮も…


うぅ、やっぱり人材が足りない…


俺が色々と保健所作ったり、塩田広げたり、騎士を始めとした軍事関連を推し進めたり。それらの仕事自体も忙しいけど、色々やってたら、それに付随する仕事なんかも当然出てくる。なのでキャメロット内の人的資源はカッツカツである。どのくらいかと言えば、乞食が居なくなるくらいにはカッツカツです。


路傍で踞ってたりした人なんかも拾い上げて、治療して、教育して仕事に就いて貰っている。なので、キャメロット内には乞食がほぼゼロです。動けない人だろうが、病人だろうが、教育されてない人だろうが、治して働いてもらう。路傍で寝ている暇なんて、今のこの領地にはないのである。使えるもんは何でも使う。


そういう駆け込み寺?ハローワーク?的な役割もウチでは保健所に持たせているので、毎日忙しい。俺も時間があまり無い日であっても、朝一で『アクア』と『フリーズ』で施設を冷やしてから出掛けたり、執務に取り掛かるようにしている。



それらを運営する資金は幸いにして塩があるので、その収益でかなり楽が出来る。なにせ、必要な人の手を減らして、取れる塩の量も上げてコストを下げてる。けど、売りに出している塩の値段は以前のままにしてあるからね。まぁ、ガッポガッポ儲かる儲かる。そんなわけで金の心配はあまりないんだと。問題はやっぱり人的資源の枯渇。


とにかく、今いる人材にはできるだけ健康でいてほしい。将来領地の仕事に関わって来るであろう孤児も含めてね。


「でも、孤児院でも3、4人熱中症の子が出ちゃいましたし、提案くらいはしておきましょう」


「そうね。城内だと気軽に水浴びできる川なんかもないからね」


「リガウスさんの許可さえ降りれば--っとと、ルゥちゃん?どうしたのかしら?」


ブラブラと砂浜を歩いていたら、ルゥが翼を目の前に出してきたので静止する。遠くを見るようにしていたようだが、ララァナにハンドサインを送ると、上空へと飛び上がった。一方の俺はララァナに抱き上げられる。ユリーさんも警戒体制を取っている。


全員、水着の上に服を1枚羽織った程度なので、装備が薄い。ユリーさんとララァナが念のためにと装備している短剣くらいだ。幸いプライベートビーチまではそこまで離れていないので、『魔鎧』込みの俺の足でも1分と掛からず戻れる。


十数秒ほどだろうか?偵察のために飛び上がっていたルゥが降りてきた。そのまま砂浜に字を書き始める。


『何かが倒れてる』


「何か?人じゃなくて?」


『違う。丸っこくて、灰色の動物?初めて見る』


「丸っこくて灰色?うーん…ルゥ、念のためおじい様を呼んできて。私はここで待ってるから」


俺の言葉にルゥがビッと敬礼をして、一直線にプライベートビーチまで飛んでいった。そうしていたら、おじい様がすぐに飛んできた。マーサや他の侍女、フィニーたち職人連中は置いてきたらしい。


「ルゥからヒスイが呼んでいると聞いて来たが…どうした?」


「ルゥが言うには、この先になんか灰色の丸っこい動物?物体?が倒れてるみたいなので、私たちだけで確認する前に、おじい様を呼んでおこうって思いまして」


「ふむ、なるほど。しかし、灰色で丸、か…」


「おじい様は何か知ってるんですか?」


「うむ。まぁ、予想はできる。予想通りであれば、危険は無いはずじゃ。行ってみるとしよう」


って訳で、おじい様が加わって件の灰色の丸っこい動物?とやらを確認しに行く。歩いて3、4分くらいで、ようやく俺にも外観が確認できた。と言うか、見たことのあるシルエットというか、フォルムというか…


「アザラシ?」

「フォルカじゃな」


俺とおじい様の声が重なった。


全く同時だったので、お互いに顔を見合わせる。え、なんか知らない単語が出てきたんだけど?フォ…なんて?


「えーと…フォ、何ですか?」


「フォルカという。以前、竜種であるガルグを討伐した際に、色々と助けがあったと言うたであろう?」


「あぁ、言ってましたね」


「その助けが、ほれ。この幻獣じゃ」


「え」


え、待って待って。こんなムチムチ丸々フォルムのアザラシーーもといフォルカって生物が?嘘だろ?


見た目は前世で俺が知ってる、まんまアザラシ。そこそこ近付いてるのに、寝ているのか動きもしない。こんなのが、竜種と戦ったの?え、え~…


フォルカってのが、群れの数で押しきったのか、はたまた特殊な力でもあるのか…それか、この世界の竜って大したことない?


「色々と信じられないんですけど…それにしても大人しいですね?こんなに近付いても警戒すらしないなんて…」


「ふむ…いや、待て」


おじい様が近付いて、フォルカという動物の裏に回る。俺もそっちへ回って、息を呑んだ。


「っ、『ヒール』!」


裏側の腹の部分が抉るように傷付けられ、そこから血が流れ出ていた。俺はすぐに駆け寄って、『ヒール』を施しつつ、『鑑定』で状態を確認する。




フォルカ

Lv:33


種族:幻獣

性別:メス

状態:裂傷、衰弱、瀕死

HP:6

MP:411

Atk:322

Def:501

Int:401

Mnd:580


スキル:

『鋭牙』

『水中索敵』

『精霊魔法:水』



HPの数値がヤバい!片手で『ヒール』をかけつつ、ポーションの類いもぶっかけていく。ギュンギュンとすごい勢いでHPが回復し、傷も塞がった。ほ、保健所でひたすら治癒魔法使用しまくって、ポーション作成しまくってて良かった…


『ュ…』


「ん?」


フォルカの治療が済んだと思ったら、フォルカのヒレ?が動いて、モソモソと何かが出てきた。


「……」


『……』


出てきたソレと目が合って、お互いに固まる。灰色のフォルカをそのまま小さくして、色素を薄くしたような…というかほぼ白い。パッチリした目に、鼻先から幾本も伸びるヒゲがピククと動く。フンフンフンと鼻を動かして、匂いを嗅いでいるのだろうか?


え、何この子?


ついついソーっと手が伸びてしまう。手の匂いもフンフンと嗅いでいるかと思ったら、グイグイと頭を擦り付けてきた。それに応えるように、俺もついつい指でワシャワシャと頭をかいてやる。


……………………か、かあいい。


「おじい様」


「…いかんぞ?」


「この子、飼います」


「…いかんと言ったのじゃが?」


「イヤです!飼います!」


ヒシリとミニフォルカの首に腕を回して抱き締める。当のミニフォルカは遊んでるとでも思ったのか、顔に掛かった髪を鼻で動かしては、甘噛みするようにして、戯れている。


「多分、この子たち親子ですよね?治して経過観察もせず放り出すのは無責任だと思います。だから、生態調査と経過観察のために飼います!」


「勝手に決めるでないわ。フォルカは幻獣とはいえ、獣じゃ。それに魔法も使う個体も居る。何かあればヒスイの身の方が危険じゃ」


「自衛出来るように鍛えます!それとちゃんと躾けます!ね?お願いします!ちゃんとお世話しますから!」


「しかし、のぅ…」


「お願いします!」


前世の実家では犬を飼ってたけど、独り暮らしの間は飼えなかった。なので、動物が持つ独特の毛の成分に飢えてるんです!


ルゥの翼もモフモフしてるけど、それとはベクトルが違うというか…


こう、思い切り抱き締めてモフモフに顔を埋めてグリグリやりたい!


「んお?」


なんか背中の辺りで動く気配がしたと思って振り返ったら、気を失っていた親フォルカが目を覚ましたらしい。あ、首軟らかいな。器用に俺とミニフォルカ、おじい様達の方を一瞥した。もう一度俺の方を見て、目が合う。ジー…っと見られて気まずい。


どうやら親フォルカの方もミニフォルカ同様に匂いを嗅いでいるらしく、フンフンと鼻が動いている。嗅ぎ終わったのか、頭が元の位置に戻った。


あ、あれ?何もなし?多分、子供?のフォルカに見ず知らずの俺が抱きついているのに、何もしてこない?


…もしかして、治ったばっかりで体力はまだ戻ってないのかな?俺は抱きついていたミニフォルカを放して、親フォルカの頭の方に近付く。立ち上がったとき、ミニフォルカがもっと遊ぼうとでも言いたいのか、手を甘噛みしてきた。


「ごめん、後でね」


傷のあった場所をよく確認して、完璧に塞がっているのを確認する。うん、傷は大丈夫。『鑑定』でもHPはフルまで回復している、と思う。あ、状態が貧血(軽度)になってる。そりゃ、あれだけ血を流してたらそうなるよね。


「おじい様、フォルカって普段何を食べるんですか?」


「…魚が主な筈じゃ」


「この近くに漁村があるって言ってましたよね?そこで魚を買って、与えましょう」


「だから、飼ってはならぬと--」


「ここまで治したんです!面倒は私が見ます!でも、私だけじゃ無理なので手伝って下さい!お願いします!」


俺自身の精神にダメージがくるけど、上目遣い+抱きつくようにして、『おねだり』を発動する。うぅ、中身いい歳した大人がこれをやるダメージが…


「ぬ、ぬぅ…」


暫くの祖父vs孫バトルの結果…


「………はぁ、分かった。分かったが、危険と判断したらすぐに海に返す。世話は多少他を頼っても良いが、基本はヒスイだけで行う。こやつらが野生に帰りたがるようであれば、すぐに返す。よいな?」


「はい!ありがとうございます、おじい様!」


ふふふ、勝った!このバトルで俺は基本負けなしなのである。まぁ、精神的にダメージを負うのと、なんか別のことで負けた気がするけど、今はいいや。


「じゃあ、まずは食料ですね。漁村に--」


「そっちは私が行くわ。この先にある漁村は前に買い付けに来たことがあるから知ってるし。でも、荷物持ち要員で、ララァナに手伝って貰っていいかしら?」


ララァナが俺の方を見て来たので、頷く。


「ララァナ、悪いですけどユリーさんを手伝ってくれますか?」


「はい、姫様」


そう言うと2人は連れ立って歩いていった。さて、この子らをこのままここに置いておくわけにもいかないし。


「おじい様、『フライ』の魔法でこの子達乗っけてプライベートビーチまで行けますか?それと、フォルカって淡水でも生活できます?」


「飛んでいくのは構わんし、フォルカは海から川を上って生活する事もある。問題はないと思うが…」


「取り敢えず、今日のところは保護に留めましょう。あそこなら誰かに襲われることも無いでしょうし」


なにせ、一応海に通じてはいるけど、狭いからね。大型の魔獣なんかは入ってこれないはずだ。


「ちゃんと回復して、野生に帰りたそうにしているのであれば、スッパリと野生に返します。そのためにも、城で飼うよりプライベートビーチで飼う方がいいと思うんです。いつでも海へ帰れますから」


「…よかろう。む、待て。と言うことは、毎日ここへ来るのか?」


「えーと…自力でエサを取れるくらい回復するまでは?」


「…はぁ」


「と、とにかく、運びましょう!ほら、早く!」


おじい様は渋々って感じではあるけど、岩板を出してフォルカ2頭を乗っけて、『フライ』で浮かした。


ミニフォルカの方は少し不安そうに岩板から顔だけ出して俺を見下ろしてくる。軽く手を伸ばして鼻先を撫でて安心させてやる。安心…できてるかな?まぁ、飛び降りたりしてないから大丈夫だろう。


プライベートビーチに戻ってから、マーサとまた一悶着あったが、何やかんや許可をもぎ取った。


それからプールの側に犬小屋のようなものを建てて、そこにフォルカ達を入れてみた。取り敢えず雨風が凌げる場所ということで、簡素なのは勘弁してほしい。親フォルカの方は意図を察したらしく、そのまま目を閉じて寝始めた。体力を取り戻すために睡眠が必要なんだろう。


一方の子供のフォルカは遊びたい盛りなのか、グイグイと暇さえあれば俺に付いてくる。野性動物…あ、いや、幻獣か。


とにかく、野生の生き物にここまで懐かれたのは初めてだ。フォルカの特性かなーって思って、おじい様に聞いてみた。


「いや、むしろフォルカに限らずじゃが、幻獣の類いは警戒心が強い。幼い内は多少警戒心の緩いものも居るらしいが、懐くというのは聞かんの」


「へぇ、じゃあこの子達は特別ってことなんですかね?」


「ふむ…判断材料が足らんな」


まぁ、これだけ懐いてくれるなら悪い気はしない。今も俺が左右交互に顔をツンツンと触る手を追いかけて、あぐあぐと噛もうとしてきている。


「それはそれとして、この子の名前どうしましょうか」


「ヒスイが決めればいいのではないか?」


「うーん…」


またしても名前かぁ。でも今度はペット?の名前だから気が楽かも。んー…あ、そもそもオス、メスどっちだ?『鑑定』で調べたらオスだった。えぇと、じゃあ…


「パック、かな」


「…また個性的な名前じゃの。なぜ、その名前なんじゃ?」


「え?よく噛んでくるからです。パックン、って」


あ、すっごい微妙な顔をされた。でも、侍女達の反応は良さそう。問題のある名前って訳じゃないっぽいので、はい決定。


「じゃあ、君の名前はパックだ。よろしくねー」


わしゃわしゃと撫でてやると、まだ遊んでるつもりなのか、相変わらず噛もうとしてくる。まぁいいけど。じゃあ、次は母親の方だな。うーん、なんかこう丸っこい?名前がいいなぁ。親フォルカの方まで歩いていくと、薄っすら目を開けてきた。パックは相変わらず俺の後をくっついてきている。前肢を使って全身で少し跳ぶようにしながら進む姿はまさにアザラシって感じ。かわいい…


って、今はこっちの親フォルカの方だ。うーん、いい名前…


「あ、マルタにしよう」


「…まさか、丸太から思い付いたのか?」


「はい。でも何かの本で読んだ物語だと聖女の名前ですよ」


これは嘘で、この世界で読んだ本ではない。前世でマジで聖女だったマルタって人から取っている。まぁ、あと本当に寝転がっている姿が丸太っぽかったってのもあるけど。


「あなたの名前はマルタね。どう?気に入ってくれた?」


暫くジーっと俺と目を合わせていたが、目を閉じて再び寝始めてしまった。これはOKってことでいいのかな?


マルタに、パック。うん、良いんじゃない?取り敢えず、マルタの方も少し撫でつつ癒される。疲れにはアニマルセラピーがよく効きます…パックは相変わらず、遊べーって感じでグイグイ来るけどね。


そんな感じでパックと戯れていたら、ユリーさんとララァナが魚を抱えて戻ってきて、匂いに反応して起きたっぽいマルタに魚をあげた。パックはまだ母乳で育っているらしく、マルタのお腹辺りにあるであろう乳首に吸い付いていた。


理解できているかは分からないけど、明日も来るからね、って声を掛けてから俺達は城へ戻った。


明日の楽しみが増えた。



ペット枠登場。何でアザラシか?→アザラシが好きだからです。ラッコかの2択で迷いましたが、アザラシに軍配が上がりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >結局作ってない。麹菌探そうにも、どう探したもんか分からんし。  ソースは分かりませんが、米にくっついてるカビから見付けたらしいですよ?  つまり米をわざとカビさせて、そのカビを片っ端から…
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