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10-4:おそら、きれい

意外な人物登場です。

10-4


春というのは、おかしな季節である。どうにも変なのが湧きやすい。今日も今日とて、執務を終わらせて色々と雑事をこなした後に、適当に海辺でも散歩しようとララァナとルゥ、テュリスを引き連れてプライベートビーチに来ていた。希望した幻獣軍団と、ウチに暮らしている亜人の希望者も連れてきたから、そこそこ大人数になった。彼らは一応護衛の意味も含んでいるとのこと。単純に監視の目を増やしたいという意図もあるとは思うけど。因みに同行者は全員女性。


この前、ホラス達と一緒に居た事が、おじい様にバレたんだよね。家族団欒みたいな感じの会話の中でポロッと。そしたら、「ま、まさかその中に、こ、恋人に考えている者が居たりはしまいな!!?」って言い出した。いや、子供が遊んでるくらいで、そこまで考えを巡らせないで欲しい。そんな訳で、おじい様は私に男が近付くのを、以前より警戒するようになった。最近はちょっと緩くなりだしてたと思ってたんだけど、油断した。スマン、ホラス。また暫く会えんかも。


私がやっている執務でもそうだ。執務室内に、これでもかと護衛を配置されて、ぶっちゃけ狭い。文官も変えてしまおうとか言い出した。侍女の中で読み書き、計算ができるものを文官として教育するようにとのこと。おい、このジジイとも思ったが、まぁ文官が増えるのはありがたいし、足りてないのは事実だから賛成することにした。でも、本人の適性と希望を優先するようにキツく言っておいた。


ウチでの数少ない貴族出身の文官であるリーベが「...女性文官という雇用先を作れば、中央から引っ張れる枠を増やせるやも」とかいう事を呟いていた。どうやら、女性武官はこの国に存在しているが、女性文官は存在していないらしい。


女性が政務に関われないようにしているらしいというのと、どうしても出産と子育てで抜けてしまう事があるので、コンスタントに活躍できる人材とは言い難いとか何とか。どこぞの公爵家だったり伯爵家の夫人として、根回ししたり、夫を動かしたりするのが精々とのこと。ウチでは産休、育休で雇い止めはしないけど、それでも誰かが抜けてる間の仕事は消えないし。色々と仕事の割り振りを変えたり、仕事を削ったりすることで何とか保っている。そんなこんなで、多分この国で初の女性文官を育成することになった。


とまぁ、そんな具合に最近は私の周囲をほぼ女性陣と幻獣で固めるという具合になっている。一応、本来はこうあるべきらしいとはマーサ談。普通は執務に関わることは基本ないから、位の高い女性ほど周囲は女性ばかりになるらしい。悪かったね、変わり者で。そもそも中身の性別違うけども!






さて、話を戻そう。とにかく、今の私の周囲は女性ばっかり。その状態でプライベートビーチに来ている。我が家所有のプライベートビーチはプールも備えつつ、潮騒も聞こえるリッチ仕様。プールに足だけ浸けて涼むこともできる。さすがに、春先だからまだ泳げない。入ったらさすがに寒い。そう絶対に寒いはずなんだよ。それなのに...


「ハッハッハッハッ!いいな、これ!この領は変わったものが多いとは聞いていたが、これは気に入った!この中なら鍛錬してても、汗が気にならないし、水の負荷がいい鍛錬になる!周囲が岩壁だから魔獣の襲撃を気にしなくていいのも良いな。フンッ!!」


ズバンッ!!


と、我が家所有のプールで足を蹴り上げて、大量の水飛沫を巻き上げてる不審者が居る。年の頃はまだ20歳...18歳?より少し前の少年って感じか?うーん、分らん。でも取り敢えず、上半身裸の不審者である。上半身はよく鍛えられている事が伺えるほどに筋骨隆々といった感じ。ってか、負荷があるはずの水中で、あれだけの水飛沫を上げられる蹴りを繰り出すとか、結構ヤバいのでは?えっと、取り敢えず『鑑定』をば――


「うえ?」


グイと引っ張られて、ルゥの翼の中に収納される。ふと上を見ると、ルゥの瞳孔が開いていた。前に出ているララァナも、どこぞから取り出した杖を構え、テュリスは剣の柄に手をかけて、いつでも抜刀できそうである。ミュゼは...なんかあっちこっち視線が行ったり来たりして、アワアワと口にして混乱中。うん、自分より慌ててるやつが居ると冷静になれるな。


いや、というかミュゼ以外が完全に戦闘モードなんですけど!いやいや、守ってくれるのはいいんだけど、何も情報のない相手に襲いかかろうとしないで!


少し身を捩って、ルゥの翼から顔を出して『鑑定』を発動する。




ガルヴェルド・フォルネウス・ユースティナ(14歳)

Lv:89

種族:人間

性別:男

状態:正常

HP:1285

MP:1051

Atk:1312

Def:1319

Int:1001

Mnd:998


スキル:

『物理補正』

『魔法補正』

『直感』

『剛拳』-『拳を用いた攻撃時に、相手のDefを自身のDef値分無視する』

『烈脚』-『脚を用いた攻撃時に、相手のDefを自身のDef値分無視する』

『瞑想』-『動かないで居る間、HPとMPが徐々に回復する』

『魔闘気』-『HPとMPを一定量消費し、消費した分の数値分をHP、MP以外に加算する』

『武気』-『武器にMPを消費して、魔力を纏わせる』

『ユースティナ式剣術』

『我流拳術』

『魔法:風』

『魔法:火』

『魔法:雷』




……なんで、私の会う不審者という不審者は軒並み高ステータスなの?嫌味?嫌味なのか?それとも、例のアレから追加の呪いとか受けてる?ってか、ちょーーーっと待って。いや、マジで待って。名前が...って、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!


「ララァナ!テュリス!ストップ!ほんとにストップ!!!」


ルゥの翼から『魔鎧』も込みで抜け出して、ララァナの腰に縋り付くようにして止める。急いで武器をしまうように指示を出して、2人の前に立つ。後ろが困惑してるけど、今は構ってられん!


「ほぅ、話に聞いてた通り『鑑定』持ちのようだな」


目の前の不審者--もとい王族の少年が愉快そうな表情をしつつこちらへ視線を向ける。


「お初にお目にかかります、殿下。私はケイリュオン領--」


「あー、やめだ、やめ」


礼を取ろうとしたら、少年に止められた。え、えー...


少年はザバッと音を立ててプールから上がると、ナイスシルバーなお爺さんからタオルを受け取って、乱暴に体を拭いて水分を乾かしていた。って、この爺さんいつ現れた?


「殿下、幼いとはいえ淑女の前で――」


「口を閉じろ、爺。それに構わんだろ、ここには根っからの貴族至上思想の人間など居ない」


どうやら、執事っぽい?お爺さんは嘆息しつつも、これまた何処ぞから取り出したシャツを少年に一瞬で着せ、一歩下がった。いや、ほんとにこの爺さん何者だよ。


「ふむ、ひとまずは良いだろう。改めて、お前がヒスイだな?」


「は、はぁ。確かに私はヒスイと申しますが...」


「よし。ではヒスイよ、お前の領都へ案内してくれ」


え、えーー...折角の息抜きなんですけど...でも、一応王族の命令?って事にはなるわけだし...


「ふあっ!?」


「よし、行こう。どっちだ?」


一瞬で距離を詰められて、気付いたら抱え上げられてたんですけど!?ちくしょう、ステータスの暴力反対!んでもって、ララァナとルゥがめっちゃ凄い視線飛ばしてる!!拳めっちゃ握ってる!お願い、やめて!?不敬罪になっちゃうからー!!


「ほぅほぅ、亜人を雇っているとは聞いていたが、中々にいい殺気を飛ばすな。だが、やめておけ。俺はこれでも王族だ。不敬罪でお前達の主の首を飛ばしたくはなかろう?」


すごい悔しそうにしているけど、ララァナ達の動きは止まる。う、うーん、なんかTHE我が道を往くって感じの王族なのか。先王、国王陛下とはまた違ったタイプだなぁ。と、そんな事よりも。


「恐れながら殿下、私の祖父にこのような場を目撃されると大変な事になるのですが...」


「あぁ、ケイリュオン卿の孫娘煩悩ぶりは王宮でもよく知られているからな。俺も知っている。だが、将来の伴侶の1人を抱きかかえるくらい問題ないだろう?」









「............は?」


待って。なんか言ってんだけど、コイツ。え、なんて?


「まぁ、今は幼すぎて食指が全く動かんがな。ハッハッハッハッ」


…疲れてるんだな、私。うん、きっとそう。えーと、確認確認。


「......あの殿下、よく聞こえなかったのですが、何と仰いましたか?ハンペンと仰ったんですよね?それでしたら、城で提供可能ですけど」


「ハン...?何だと?いや、伴侶だ、伴侶。ん?そうか、子供には難しい言葉だったか。もっと分かりやすく言うとだ、俺はお前を嫁に貰いに来た」




…………………………おそら、きれい。




























ーー☆



























「くたばれ、小僧おぉぉーーー!!!!!」


「煩せえぇぇ、クソジジイーーー!!!」


ドッカアァァン!!!


と練兵場に設置されている石舞台の上で、魔法と拳がぶつかり合う。いや、おかしい。何であの王族、魔法を拳で弾いてるの?一応ガントレットみたいなのしてるから、それの効果もあるんだろうか?ってか、明後日の方向に飛んでいった、おじい様の巨大炎弾が騎士団、冒険者の魔法使い達が総出で張った障壁にヒビを入れてるんだけど。一応、そのさらに外に張っている、『ウェスト・コア』で張った障壁は突破されていない。


この前扱いを覚えてから早速使ってみました。一々地下まで行くのは面倒だけど、おじい様のキレ具合からして、安全策は取っておくべきと判断して、大急ぎで行ってきた。


次はおじい様が地水火風の4属性を織り交ぜた弾幕を張る。派手な面制圧である。それに対して、殿下が、恐らくフル強化したであろう脚力で一気におじい様の前まで詰め寄る。属性弾に関しては、上手いこと間を抜けたんだろう。だが、よく見ると掠ってるね。流石に無傷といかなかったらしい。


「とったー!」


「甘いわあぁぁぁぁ!」


殿下のガントレットが、おじい様のボディに叩き込まれるかと思いきや、おじい様は読んでいたらしく、持っていた長杖を放り出した。魔力を武装に変えるスキルを使用したらしく、具現化した剣を両手持ちで装備して、その剣で拳の軌道をズラし、そのままカウンターを決める勢いである。あわや首を斬られるようなコースであったが、殿下の方は大きく上体を逸らしてスレスレで回避していた。


「っぶね!」


「死に晒せぇぇーーー!!」


「ぬあぁぁぁ!」


おじい様は振り抜いた剣の軌道を突如として変えて、斬り返す。今度は胴と足がサヨナラするように振り抜こうとしている。それを殿下のガントレットで防ぐ。ガキン!と金属同士が烈しく衝突するような音が響いて、殿下が距離を取ろうとする。が、そこへ今度はおじい様が、剣から持ち替えた槍で襲う。ボッ!と、風穴を空けるような鋭い付きを連続で繰り出して、それを殿下が何とか往なしている。


「誰がヒスイをやるものか!!儂を殺してからほざけ、クソガキ!!」


「上等だクソジジイ!!ぶっ◯して、ヒスイを嫁にしてやらぁ!!」


「黙れ、チンピラがぁーー!!」


魔法と拳、武器だけの応酬だけではなく、罵詈雑言の嵐である。そもそも何でこんな事になったのか。それは十数分前に遡る。


























ーー☆


























「ケイリュオン卿。ヒスイを嫁に貰いに来たぞ。まぁ、今は婚約になるだろうが」


(ブチン)


「おう、表出ろ。クソガキ」




























ーー☆


























以上。回想終了。いや、マジで出会って数秒でバトルが決定してた。城内のその場でおっ始められると困るので、急いで練兵場に移動してユリウス達騎士団を総動員して準備を速攻で進めさせた。というか、おじい様の怒り具合がヤバい。さすがに王族殺しはマズいから勘弁して欲しい。なので、適当なタイミングで止めに入るつもりなんだけど、どうにも殿下が結構粘ってるんだよね。総合力で言えば、おじい様が終始優勢なんだけど、身のこなしと反応は殿下がほんの少しだけ上っぽい。それで何とか耐えてる感じだけど、MPもHPも消費しながら戦っているからか、やはり徐々に表情がキツそうになってきていた。


「ふぅ...はぁっ......」


「この程度で儂からヒスイを奪っていこうなどと、片腹痛いわあぁぁーー!!」


「ぐ...」


何度かの応酬の後に、どっかのタイミングで拾い上げたのであろう長杖の石突による強烈な突きが殿下の鳩尾近くにクリーンヒットした。装備している革鎧のお陰か、辛うじて貫通はしてなかったようだが、10m以上吹っ飛んで、そのままさらに後方へゴロゴロと転がって倒れた。


「がっ...はっ...」


どうやら、息も絶え絶えといった様子である。うん、これは明らかに勝負あ――


「死ね、小僧」


「へ?」


な、なんか、おじい様が今日1特大の炎弾を放る構えを取ってるんですけど!?マジで王族を殺す気か!?


「騎士団、兵士、冒険者全員!おじい様を全力で止めなさい!今すぐ!ルシア、フィルゥ!」


オオイヌのルシアと、虎のような幻獣であるスァーオのフィルゥにも指示を出して、止めるように命令する。ルシアとフィルゥの精霊魔法で未だに膨れ上がり続けている炎弾を削ってもらいつつ、ユリウスを始めとした騎士団連中には、おじい様を取り押さえに行ってもらう。


「ええい、放せ!こやつは今ここで塵も残さず焼き払ってくれる!」


「お待ち下さい、リガウス様!相手は王族ですので!どうか!どうかここは抑えていただきたく...」


「放さんか!領主の命令が聞けんのか!!」


「王族殺しとなれば、連座で姫様の身も危ういですぞ!!」


「そうなれば、王家全員相手してくれるわ!!」


「騎士団、兵士、冒険者全隊!何としても領主様を止めろー!」


「「おおーーーー!」」


「どけ、貴様らあぁあぁ!!!」


そっからはもう目茶苦茶だった。群がる騎士や兵士、冒険者を千切っては投げという感じに次々と弾き飛ばし。その間に殿下の執事や、ウチの使用人たちが命からがら殿下の身柄を安全地帯まで運んだり...


最終的には私自身が「いい加減にしろ」と、少しキレ気味に言って、ようやく事態は終息した。マーサから口調について苦言を貰ったが、状況が状況だったのでお説教は免除されたのが唯一の救いかな。


……何でこんな事に!
















ーー☆




















翌日のキャメロット城内にて。ムスッとした様子の殿下と、苦虫を噛み潰したような顔したおじい様が対面に座り、私はおじい様の隣に着席させられている。殿下の執事さんが何かを耳打ちした後に、殿下はまだ不服そうではあるけど、頭を下げてきた。


「この度は英雄と呼ばれるケイリュオン卿の実力を見たいがために、少しの無礼を働いて迷惑をかけた事、謝罪する」


「...謝罪を受け取りましょうぞ、ガルヴェルド殿下」


「「............」」


あ、あれ、終わり?


なんか、微妙な空気が流れてる。き、気まずい。え、えーと...


「発言しても、よろしいですか?」


「あぁ、許可す――」

「あぁ、構わ――」


「「...あ゛?」」


もう完璧に、やり取りがチンピラか㋳なんだよ。勘弁してくれ。私は一つ息を吐いて、今のやり取りを全部無視する。


「まず、殿下にお詫びを。私の祖父が不敬を働いたことを謝罪いたします」


「......いや、ヒスイが謝罪する必要はない。ケイリュオン卿もな。先程言ったが、これは俺が望んだことなのだ。そういう事だ。いいな、爺」


「...はぁ、仕方が御座いませんね。本来はこの訪問が公式ではありませんので、今回は私も口を閉ざしておきましょう。配下にもそのように申し伝えます」


「あぁ」


ふむ、ん?えーと、つまり、結果としてはお咎めなしって事ですね?よし...よしよしよし!処刑とかされずに済む!さすがに死ぬのは勘弁。


「公式でないのならば、早々に王都へ帰還された方が良いのではないですかな、殿下?」


うん、遠回しではあるが、おじい様の帰れって副音声が聞こえる。


「そう邪険にしないで貰いたい、ケイリュオン卿。ケイリュオン卿の尽力あって、西領が秩序を取り戻したことは、ここに来るまでに分かった。王家としても、感謝しているくらいだ」


「うむ、国王陛下、それに先王陛下からも同様の言葉は掛けられましたからな」



「あぁ、そうだろうな。本来であればその尽力に報いるべきではある。が、無い袖は振れんというやつだ。許せ」


「今さら褒美など求めんよ」


だからお前からの感謝はいらん、って副音声が聞こえる気がする。


「それに関しては感謝を。そして、これから言うことに関しては、先に謝罪を」


「殿下」


「止めるな、爺」


どうやら、これ以上頭を下げるなと執事さんは言いたいらしいが、殿下は止めるつもりはないようだ。


「改めて、ヒスイを嫁にくれ」


ミシリと隣から音が聞こえる。今すぐ逃げ出したいー。いや、まぁ、確かに王家の誰かと許嫁になったってのは聞いてたけど。でも確か相手は決めずに『王家の誰か』になってたはずなんだけど。


「えっと、質問していいですか?」


「あぁ」


「そもそも何で急にそんな話を?私は婚姻できる年齢ではないですし、未だに貴族院にも上がっていないんですよ?そんな子供に求婚するなんて、何かしらの理由があると思うんですけど」


それにタイミングもおかしいんだよね。ここキャメロットはこの国の最西端にある都市だ。中央の王都までは、どれだけ馬を飛ばしても1ヶ月以上掛かる。ってか、2ヶ月で着けばかなり早い方。しかもそれは、かなり道程がうまく行った場合に限る。通常であれば、この国の都市間の移動というのは最低でも2ヶ月以上は覚悟して臨むのが普通なのだ。場所によっては国内なのに、半年以上かかることもザラである。それを新年明けてから1ヶ月も経たずにここに居る。王族は全員、新年は王都に居るはずなのだ。新年の式典関連が終わってからすぐに移動したとしても、早過ぎる。


ということは、年末から既に出発したか、転移門以外の移動手段を王家は確保しているということになる訳だが...


まぁ、今はその辺の話をすると主軸がズレそうなので自重する。どっかのタイミングで聞き出そう。


「...王権を盤石なものにするためだ」


「王権を?お言葉ですが、殿下。およそ2年前に国王陛下が行った粛清で、王家の権威は示せたと伺っていますが...」


「表向きは、な」


殿下は周囲へ目配せすると、おじい様が察したらしく家宰であるセドリック、殿下の執事以外の護衛や文官たちを退室させ、護衛としては騎士団長のユリウスだけが残った。


「そこの騎士は聞いて問題ないのか?」


「あぁ、問題なかろう。元が貴族籍ではないし、貴族との繋がりもない。口も硬い」


「ふむ。では話そう。まずは...そうだな。王家の内情からだな。親父の方針で、王太子は未だに定めていない、というのは知ってるか?」


そうだったんか。初めて知ったよ。言われてみれば、王子という言葉はちょくちょく聞いていたが、王太子という言葉は聞いてこなかった。つまるところ、次期国王を決定していないわけだ。


「初めて知りました」


「ふむ、そうか。まぁそんな訳で、俺たち兄弟の内いずれかが王位を継ぐのは確定として、問題はその内の誰が継ぐか、なわけだ」


ふむ?普通ならよほど大きな問題がない限りは、長兄である第一王子が継ぐのが筋だ。そして、その第一王子というのが、目の前に居るガルヴェルド殿下なわけだけど。


「...あまり気乗りはしないんだが、普通なら第一王子である俺が継ぐべきなのは分かるな?」


「えぇ、そうですね。一番筋は通っているかと」


「あぁ、そうすれば王位継承問題は起こらずに済む。親父の考えとしては兄弟全員にチャンスを与えて、競争させるという腹積もりだったらしい。無能に国は任せられないからな。それに関しては俺も同感ではある」


確かに。能力が高い者を次の王位にと考えるのが普通だな。無能な上司ほど害悪になるものはない。......私は、ほら。まだ子供だから。これから有能になるから。ってか、執務とか既にやってる時点で有能ですし?うん、謀反の心配はない、はず。


「だが、そこに馬鹿な貴族共が横槍を入れようとしている。奴らが私腹を肥やすためには、有能な王は邪魔なわけだ」


私はゲンナリとした気分になる。何でどこの世界にも汚職やる政治家が湧くんですかね?真面目に働け、バカども。


「奴らが望むのは傀儡だ。そこで目を付けられたのが俺の末弟でな。何を吹き込まれたのかは知らんが、俺と次男に敵意を剥き出しにしている」


「...ニミュエ妃殿下はこの事をご存知なのですか?」


確か王子は全員ニミュエ王妃の息子だったはず。つまり今回争っているのは同腹の兄弟というわけだ。実母である王妃が把握してないとは思えないんだけど...


「もちろん知っている。だが、あの馬鹿は母上にも反感を抱いている。親父にもな」


「......王子とはいえ、反逆の意思を疑われて極刑が適用されかねないじゃないですか」


なんか、ドロドロな王家の事情を聞かされて既に気分が重い。


「あぁ、そうだな。正直頭にくるし、あの馬鹿が追放になろうが処刑されようがどうでもいいが、なるべく両親を悲しませたくはなくてな。表向きは王位継承権争いが起こっているようには見せていない。隙を見せれば間違いなく便乗してくる貴族も居るだろうからな」


「...なるほど。ここで貴族を大きく台頭させたくないから、王権を盤石にしたいという事ですね。それは分かりましたけど、何でそこで私との婚姻になるんですか?」


「そこはこの国における、王家のルーツと慣例に関係がある。初代国王は四大領それぞれから1人ずつ姫を娶ったという歴史がある。それ以来、国王は四大領から妻を娶るというのが慣例となった」


ふむふむ。ん?でも現王って奥さん3人だったよな?ここの前領主はド屑だってのは聞いたな。仮にその娘を娶った場合...うげぇ...


「...まぁ、察しはついたか。ケイリュオンの前領主一族はアレだったからな。俺の祖父の代からケイリュオンから嫁取りはしていないんだ」


「えーと...それは、色々と荒れそうですね」


確かここの前クズ領主は、クズではあったが権謀にだけは長けていたという話だ。それに中央とのパイプもしっかり持っていたという話のはず。


おそらく、先王陛下から続けてきた嫁取り拒否は、前領主や汚職貴族を一掃するための布石だったんだろうな。徐々に影響力を削いでいって、ここぞという時で一掃する。そして、そのタイミングで巻き込まれたのが私の誘拐事件だった、ってとこかな?


「そうだな。事実、祖父はケイリュオンからの嫁取りを拒否したせいで、相当数の後ろ盾を失ったはずだ。それこそ中央を2分してもおかしくない程に。だが、数十年にも渡って仕込んだ策で、ケイリュオンの前領主は倒された。トドメを刺したのは現ケイリュオン卿であったわけだが。まぁそこの経緯はとにかくとして、だ。数年前には、中央に巣食っていた残党や腐敗貴族共も粛清できた。だが、思っていた以上に影響が大きかった」


「......今になって反旗を翻そうとしている貴族がまだ居る、ということですか?」


「確証はない。だが、親父への暗殺未遂がここ数年で、最低でも1年に1回は起きている」


…超ヤベーじゃん!!毎年国のトップが狙われるって、治安どうなってんだ!?って、そういや私も巻き込まれかけた事あるわ!王妃とのお茶会で!毒盛られかけたわ!


「早い話、『舐められてる』んだよ、今の王族は。まぁ事実、これだけのことをされてんのに、黒幕を未だに捕らえられてねぇ。俺もどれだけ鍛えたって、相手が分かんなきゃ殴れねぇ。そこで、お前だ」


「は、はぁ」


「まず、中央に巣食ってる老人共を味方につける」


はて?何で老人?だから、何で私?


「あいつらは、表向き引退してるが、実質としては未だに各貴族家では絶大な発言力を持ってる。それと、横の繋がりが馬鹿にできねぇ。そして、そういう連中ほど過去の栄光や慣例ってやつが忘れられねぇ。だから俺が祖父より上、つまり曽祖父までの王の再現をする。何で今も生きてんだって、化け物みてーなのも居るからな。せめて、そいつらが敵にならないように仕向けるだけでも儲けもんだ」


ふむ、確かに。老獪な連中が敵に回って、横槍入れてくるのは面倒くさいからね。


「俺の曽祖父の時代を生きてた奴らが、まだチラホラ居るんだよ。そういう連中は血筋やら伝統に煩いしな。実際に親父の嫁取り拒否のときも、裏で動いてたような連中だ。先代と当代の国王が拒否した習わしを俺が再現する。そうすりゃ、幾つかの貴族家は多少懐柔しやすくなる。だから、ヒスイ。嫁にこい」


う、うーん、なるほど。つまり、100%政略結婚だね。まぁ、どこぞの男を愛せとか言われるよかマシかもな。でも、そもそも結婚しないのが理想なわけだけど。


今のところ、私と『王家の誰か』が許嫁であるという事を流してから、面倒くさい申し込みの総数自体は減ってる。ここは狙い通り。問題はそれでも手紙送ってきたり、面会を希望するアホども、もしくは真性の変態共。でも、そいつらは適当にあしらって、このまま結婚適齢期過ぎるまで、条件を誰も達成できなければ万事解決。


んで、今回このガルヴェルド殿下は、貴族共を黙らせるために婚姻関係を結んでおきたい、と。


うーん、形式上の政略結婚や婚約であっても、これ幸いとマーサ辺りが焚き付けてきそうな予感がするんだよね。私の次のケイリュオン後継問題とかもあるし。以前から考えてはいるけど、そこは養子でも取ればいいかなー、と考えてるし。


まぁ、ってなわけで。


「嫌です」


お断りました。






いつも読んでくださり、ありがとうございます!


あとは、年内にもう1話くらい投稿出来たらなー、と思っています。

遅くとも、年明けには投稿します。


今年は暖冬なのか、満員電車の中がクソ暑い・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ、そりゃ辞退するよなぁ。 ケイリュオン領の後継ヒスイしかいないしここまで領を発展させたのに何で王家に嫁がにゃならんねんって感じだろうな。 まあそれ以前にヒスイ中身おっさんだから男との結…
[一言] >俺の曽祖父の時代を生きてた奴らが、まだチラホラ居るんだよ。そういう連中は血筋やら伝統に煩いしな。実際に親父の嫁取り拒否のときも、裏で動いてたような連中だ。  そんな連中ならアレなのに拉致…
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