究め果てた先のムーブ
騒ぎを聞きつけて、白衣を着た1人の女性が火災現場に立ち寄った。
肩まで伸びた赤い髪を、耳が出るように横からまとめてくるりんぱした美人だった。
「おいそこの君」
女性は、今にも家を取り壊す準備をしていた男を捕まえてぶっきらぼうに話しかけた。
「ここの責任者はキミかな。状況は?」
なんだこいつ、という目をして男は答える。
「誰だ?危ないから女は下がっていろ」
そう聞くと、何かを見下しそしてあざ笑うかのように女性は呆れた顔をして言った。
「そうか、それは失礼したな。私はフレア・カルーア・マグノリア。【教士】だ」
教士と言いながら彼女はネックレスを持ち上げて首にかけたカードを見せた。
「き、教士?!」
自警団の中の何人かの男が驚きを見せる。
「団長!この人はアレですよ!国に認められた学術、学問のスペシャリスト!その中でも博士って言えば軍の・・・!」
「確か軍の少佐相当に値するって・・・!」
こんな女性が自分より何段も高い地位にいることに驚きを隠せなかった。
フレアが身分証となるカードをしまいながらもう一度問いた。
「もう一度聞くけど、状況は?」
「は、はい!今から約15分前に出火を確認、出火元の家主のお婆さんは一週間前に亡くなっており、家族は孫が1人のみ、一緒に暮らしておりました。近隣の住民は避難させましたが、その少女の姿が確認できないのでおそらくはまだ中にいるかと・・・」
今度は素直に、単刀直入にすらすらと把握している状況を話した。
「なるほどね、それで家を壊さずにいるのか・・・」
「いえ、それだけではなく・・・先ほど少年が1人家の中に飛び込みました」
「は?!」
今度はフレアが驚きあきれた顔をした。
「え?なんで?止めなさいよ!」
「い、いや、それが私も止めたんですが、「女の子を助けるんだ!」って言ってきかなくて・・・確認が出来ないだけで実際中に人がいるか未だわからないんですが・・・」
「はぁ・・・しょうがないわね」
困った顔をして後頭部をかきながらフレアは言った。
「取り壊し、あと8分だけ待ってなさい」
フレアが現れてから5分後・・・
騒ぎを聞きつけ軍が駆け付けた。
軍と言っても10人にも満たない小隊だが。
日本でいうところの警察や消防に近い組織である自警団は都市ごとに存在するが、大きな災害の対処は国軍が行うことになっている。日本でいうところの自衛隊といったところか。
小規模な火災で駆けつけることはないのだが城下町それも城に近いところでの出荷となれば話は別だ。それ故に迅速に訪れることが出来た。
「隊長、報告によると中に少女が1名、それを助けようと数分前に青年が1名飛び込んだ模様です。」
「うむ・・・」
困ったと思いつつも、それでも冷静に隊長と呼ばれた男は告げた。
「仕方ないがもう助からないだろう。 被害を食い止めよう。火災源及び周囲の建物の破壊を行ってくれ。」
こういう悲しい決断を強いられてきた。何年も何年も。
「まってください!」
自警団の男が叫ぶ。
「・・・駄目だ、被害は広がるばっかりだ。もう待てない」
「2人だけじゃないんです!つい先ほどもう一人飛び込んだんです、学者の女性が!その人が言ってたんです、取り壊しはギリギリまで待ってくれって!」
「・・・学者の女性?」
隊長がその言葉に反応する。
「どんな人だった?」
「白衣を着た赤髪の女性で・・・名前は確か、フレアって」
「なんと!フレア教士か!」
軍が驚きと希望に満ちた声になる。
その中で一人の軍人がその雰囲気が分からないでいる。
「え、何でみなさん安堵していらっしゃるんですか?少女に青年に女性が燃える火の中、状況は刻一刻と悪くなる!最悪の状況じゃないですか!?」
「あぁ、お前新人だから知らないのか」
それに気づいて先輩が声をかける。
「大丈夫。その女性ってのはフレア教士だ。」
「キョウシ・・・ってあの?!」
「そうだ。この国に3人しかいない最高学位の【教士】。その中でも最もこの国に尽くしてると言われている人がフレア教士だ。」
「確か、軍の少佐相当ですよね?!それってウチの隊長より上の人じゃぁ・・・」
「いや・・・あの人は少佐どころじゃないぞ」
そんな話をしていた時だった。
火の上がる家の中から黒い塊・・・否、青年を背負った女性が現れた。
「教士!大丈夫ですか!」
隊長他数人が駆け寄る。
「大丈夫、おっもい・・・」
青年のコートの下にはさらに少女が隠れていた。
2人とも意識はない。
「おぉ!女の子だ!」「すげぇ!こいつ、本当に少女を助けやがった!」
自警団が騒ぎ出しそしてそれが見ていた町の人々に伝染する。
崇め奉られるその少年は、軽くヒーローにでもなったかのようだ。
「二人ともすぐに城の医務室へ運んで」
「はいっ!」
隊長が部下に指示を出す。
それをフレアが
「まって!3番通りの宿に運んで、今そこにメディがいるから」
「メディ錬士が?・・・了解致しました!」
隊長とよばれる男がこのフレアという女性に対して敬語を使っていることが彼女の身分を示していた。
「メディさんって、僕たちがいつもお世話になっている軍医さんですよね?あのひと【錬士】だったんですか?」
今度は新人も知っている人のようだ。
「いいから、早く運ぶぞ!」
先輩に急かされて二人は怪我人の少年と少女を抱えて人ごみへと消えていった。
「よくやったぞ兄ちゃん!」「えらいぞ少年!」「怪我なおせよー!」
もう野次馬という次元ではなかった。この火事を心配し見に来た数百人から惜しみない称賛を貰いながら二人は見送られていった。
「さて・・・こっからもーひと頑張りしますか」
振り返り燃え盛る家へと対面してフレアが言った。
「教士、お怪我はありませんか?」
「大丈夫ダイジョーブ」
その言葉通り、彼女の体に怪我はない。それどころか衣服や髪に焦げ跡ひとつなかった。あの火の中から出てきたのにも関わらず。
「それより全員離れてなさい。あとは私がやっておくわ。」
フレアが両手を構える。
(極近辺に密接した建物・・・壊さずにいけるかしら?)
彼女は発破解体と爆風消化を組み合わせ同時に行うことで周りの建物を壊すことなく火を消そうと考えていた。
爆風消化、というものがある。
名前の通り、ダイナマイト等を用いてその爆風を利用して火を消すという方法だ。
火元に供給される酸素を全て絶たないと意味がない。それどころか風圧が足りなければ火は余計に燃え盛り燃え広がることだろう。また、その周辺が何もない更地のような場所か爆風に耐えうる構造の建物でなければ二次災害が巻き起こる。
そして建物の解体作業でよく耳にするのが発破解体だ。
これは建物の構造を理解し、少量の爆弾を用いて必要最低限の柱を破壊し建物を内側に内側に崩すことで周りに瓦礫一つ飛ばすことなく建物を消滅させる方法だ。建築技術、構造力学、物性、等々様々な知識を必要とし、芸術とも言われる解体方法だが・・・
(内側から吹き飛ばす、それに合わせて外側から小規模の爆破、爆風を抑えつつ内側にとどめて・・・熱源は十分、エントロピーもエンタルピーも大丈夫かしら・・・酸素が足りなそうだから外気中の酸素を集めて濃度を上げて・・・あぁ計算してる暇ない!道具もないし!もう土台からこんがり全部綺麗に焼いてやるか・・・)
「はぁあああああああっ!!」
フレアの声と共に家の中央部から大きな光球が広がる。それから遅れて爆発音が聞こえる。その爆発を包み込むように今度は家をまるごと包み込む円柱の火柱が天高くまで伸びる。柱がのびきったかな、と思ったところで真っ黒なレンガの外壁を残し火は綺麗に消えていた。
熱を帯びた空気中を漂う黒い塵と炭のにおい・・・それ以外を残して音も火も綺麗に静かに消し去ったのだ。
爆発音に合わせて町の人々から悲鳴も聞こえたが火柱が消えることには皆固唾をのんで見守っていた。そして思い出したかのように喜びの歓声があちこちで聞こえた。
「すごい・・・!爆発したと思ったら火が消えたぞ!」
「やった!よかった!教士さんありがとう!!」
隣近所の建物は外壁が一部黒ずんだだけでそれ以上の被害はなかった。
「あの・・・俺、学術って初めて見たんですけど、すごいですね。魔法みたいなもんなんですか?」
軍人の一人が隣の上司に話しかける。
「この世に魔法なんてないさ。この世には【法則】がある。まぁ法則って言っても人間が勝手に決めた範囲で成り立つルールのことでしかないんだけどな。世界の真理なんて言った方が正確かもしれんな」
「は、はぁ・・・」
「まぁよく分からんよな。俺も人の受け売りだ。あの人たちは自然界のルールに従って行動しているんだ。石をぶつけると火花が散る、油には火が付きやすい、この二つの原理を使ってライターがあるわけで、別に魔法でも何でもないだろ?言うなれば科学ってやつだ。学術はこの火をつけるって現象の条件をそろえたり手助けをしたりするだけなんだとよ」
「・・・つまり勉強すれば私でもああいうことが出来るってことですか?」
勉強、してみたいなと彼は思った。




