未知未存ドリーム
夢を見た。
街だ。僕は街の真ん中に突っ立っている。
いや、「町」の方が正しい表現だろうか?なにせ国語は専門外だ。
一本の大通り。行きかう様々な人々。雰囲気は田舎の商店街といったところ。いや、何か時代が少し古い気がする。
昔旅した川越市の小江戸や日光市あたりの建物に近いものを感じる。だけど決して江戸とかそんな日本風ではなく、かといって明治のような近代風でもなかった。
「・・・ヴェネツィア?」
ふと映画やアニメ、漫画で見た水の都の名前を口にしていた。イメージとしては大体近いものがあるだろう。
金髪の美女が目に入ったかと思えばバスケットのプロで通用しそうな背の高い屈強な男たちにも目が行ってしまう。
ジロジロと道行く人を見るのは失礼だと思ったが、何故か私も道行く人から目を向けられる。日本人は、てかアジア系は珍しいのだろうか。
さまざまな人種、かなりの人口密度、そして何より風情ある外観。
やはり観光地だと思った。
そして、これは夢なんじゃないだろうかと一瞬思った。
・・・
明晰夢を見たことがある。 夢の中で「これは夢だ。」と気付く夢だ。
これを利用して明晰夢の中に数学や物理の難問を持ち込み寝ながら問題を解くという受験勉強を教えてもらったことがあるが私には無理だった。
俺は、夢を現実と思い込むことも幾つもあったし、夢の中で重力や痛みを感じることも幾つもあった。
だが現実を夢と間違えることは絶対にありえない。
明るすぎて、多すぎる。情景が鮮明過ぎて情報が多すぎるんだ。
夢なんて流れやストーリーはあるものの細部の背景の景色なんてほとんど覚えていないし、あったとしても家の庭とか学校とか身近にある風景だ。
身体が、脳が、目で見て耳で聞こえて、肌で感じるその情報量が、これは現実だと訴えてきた。
「えっと…どうしよう」
周囲の目と耳慣れない言葉が不快で、メインストリートから一本はずれ、さらにもう一本道を外して路地裏に逃げ込んだ。
家、というか赤いレンガの壁々に囲まれてTHE 路地裏って感じだ。上にぽっかり空いた空間から見える空が対照的に青々しくて綺麗だった。
俺は人づきあいとかは苦手ではないし、注目されるのも好きな方だが、少し一人になる時間が欲しかった。
昔テレビで「見知らぬ異国の土地に放置される」なんて企画をやっていた。見る分には面白そうだったがやる分にはおっくうでしょうがない。
「言葉は通じるのかな、あと所持品が…何もないな」
財布もケータイもない。外国に飛ばされたっていうか無人島にいる気分だ。
服装も学ランにコートを着ているだけ。
そりゃこんな高校生が真っ黒な服着てたら注目集めるわけだ。
・・・って、もう高校生じゃないんだっけか。
「・・・死んだもんな、俺」
そう、自殺したはずだ。
あの日、あの夜。
だから・・・夢としか思えなかったんだけど。
何で生きているんだろう。
というか此処は何処なんだろう?
なんてことを考えていた時だった。
先ほど存在していた大通りが騒がしくなっていた。悲鳴のようなものも聞こえる。
有名人?イベント?なんてことを考えながら、気になって今来た道を歩いて戻る。
ある程度大通りに近づいた時だった。
「火事だ―!!!!」
男の野太い叫び声が聞こえた。
まず「え、日本語!?」と驚くや否や、路地裏からは建物に囲まれて見えなかった黒い煙を目視してまた驚いた。
こんなぴったりas soon as(~するや否や)なんて表現が似合う場面もないだろう。
こ ん な と こ ろ でこんなことを思い出してしまうのは受験勉強の弊害であり賜物だな、なんてくだらないことを考えながら駆け足になっていた。
☆ ☆ ☆
現場に着いた頃には人だかりができていた。
二階だろうか、窓からドス黒い煙が見える。炎は意外と見えないが家の中が真っ赤に光っていることから状況を察した。
世界史も建築技術も知らないのだが、レンガの家も火事になるんだな、なんてぼけっと思い拭けていた。おそらくオールレンガなわけなくてレンガ作りは外装だけなんだろうな。家の中は燃えているのだろう。
何人かの男たちが家の周りを忙しそうに走り回っているが、その10倍以上は安全なところから見物している野次馬だ。
かくいう俺もその1人。人ごみの最前列まで行ったがこの距離で十分に熱かった。
何か手伝えないかと思ったが、何もできないほど目の当たりにした火事は恐ろしかった。
バケツリレーなんて無駄だし、消防車が仮に来たとしても半日は火が消えないだろう。(そもそもこんな道が舗装されていないとこに大型車がこれるのかってのと、こんな綺麗で不思議な街に似つかわしくない消防車なんてあるのか?って疑問が浮かんだ。)
これはもう建物を崩すしかない、素人でもそう思った。
いくらレンガ作りと言えど、ここまで密集している家はすぐにでも飛び火するだろう。それなら建物が崩れる前に人の手で崩してしまえばいい。これくらい国や時代が違えどわかるはず。
壊せないのか?
「おい、この家ってあの婆さんの家だよな?」
「ああ」
「かわいそうに・・・ついこの間婆さんの葬式だったってのに今度は火事か」
野次馬の会話が耳に入ってくる。
「それより国軍はまだか!もう自警の手には負えないぞ!」
「早く取り壊せ!」
忙しそうに走り回っていた男たちが怒号を飛ばし始める。
「何で取り壊さない!もう無理だ!飛び火するぞ!」
「ダメだ!これは国の管轄だ!」
正義感溢れる男ともう一人の男の声が火事や野次馬に負けないくらい強くなる。
「何故だ!一刻も早くやらないと!軍は待てない!」
「ダメだ!待て!」
「なんでだ!」
「人殺しになるぞ!」
それを聞いた男は目を大きく見開いて絶望の表情を浮かべた。
それを言った男は肩を震わせうつむいていた。
「いるのか。まだ、中に、人が・・・」
「ああ・・・だから、建物は壊せない。壊すなら国に責任を取ってもらう・・・」
その会話は最前列にいた「主人公」の耳にも入っていた。
そうか、かわいそうに。もうどうしようもないな。生きているといいな。なんてことを思い浮かべていた。
「たしか、婆さんの一人娘だろ?まだ10歳かそこらだっただろう」
「ああ、可愛いくていい子だったのに。無事だといいが・・・」
そんな会話を野次馬がしていた時だった。
「助けなきゃ!」
【かわいい】【女の子】という単語に反応した。
「はあ?何言ってんだ?この大火事だぞ。もう助からんし、誰も飛び込む勇気なんて…」
一度死のうと思った身なのだ。女の子の命が救えるのならそれはいい人生であった。
子供を助けてヒーローになるのもいいではないか。
幸い、冬場の自転車通学スタイルだったので手袋とマフラーとニット帽を装着したもふもふ状態である。さらに学ランパーカーという男子高校生御用達のスタイルだ。
ニット帽の上からフードをかぶり、町の至る所にある水路、海まで続く水路に飛び込んだ。
「おい!男の子が水路に落ちたぞ!」
つめたすぎる。三月の海は体が動かない。頭が動かない。
早く上がらなければここで死んでしまう。
水路から這い上がったらこっちはこっちで心配された。俺の周りに人だかりができている。
「大丈夫か!っておい!そっちに行くな!」
ずぶぬれのまま煙の出ている家へと歩を進める。
「おい!おめえ!焼け死ぬぞ!やめとけ!」
男に手を力強く引かれたが無理やりほどいて走り出した。
「離せ!女の子を助けるんだ!」
そして火の中へと飛び込んだ。
そこで、夢は終わった。




