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桜の下で-壱-

 新しいクラス分けを見る為、真司は下駄箱前に貼られている貼り紙を見ていた。


「宮前……宮前……み……み……」


 しかし、貼り紙前には生徒が多くなかなか自分の名前をスンナリ見つけることができなかった。

 すると、自分の肩をポンっと叩く人物がいた。振り返ると、そこには神代遥(かみしろはるか)が立っていた。


「よ、宮前」

「おはよう。神代」

「おはよ」


 フッと笑って挨拶を返してくれる姿は、正にイケメン。

 元々身長も高く顔も整っているので、女子生徒が騒ぐのも頷ける。しかし、彼はこう見えてまだ中学生で、しかも、今年で二年生だ。

 真司は、遥のことをいつ見ても『同じ歳には見えない』と、思っていた。


(やっぱり、神代は中学生に見えないなぁ。それに比べて自分はどうだろう?大きめに作ってある学ランは、まだ少しぶかぶかで背もあんまり高くないし……いや、低くもないと思うんだけど!でも、力も弱いし……はぁ~)


「宮前。何、百面相してんだ?」

「えっ?!」


 真司は慌てて自分の顔に触れる。


「ひ、百面相……してた?」

「してた」

「はぁ~……」

 真司は溜め息混じりに項垂れ、遥を一瞥すると、また溜め息を吐いた。


(そりゃぁ、百面相にもなるよ……。神代は男の僕から見てもかっこいいし、それに比べて自分はって、当然思うし。現に思ったし……うぅ……)


「また百面相。てか、自分のクラス見つけたんか?」

「え?あ、あぁ。それならまだなんだ。人が多いから、なかなか見つけられなくて……」

「そっか。お前、俺と同じクラス」

「え、そうなの?」

「あぁ。2組。因みに、(かい)も。また、あいつと同じクラスっていうのはめんどーやけどな」


 (かい)というのは、荻原海(おぎはらかい)のこと。

 背が小さく小柄で癖っ毛のあるふわふわな髪は、まるで子犬のように見える。海のことをよく知る者は、愛称として海のことを『うみちゃん』と呼んでいた。

 本人曰く「なんやねん。てか、その名で呼ぶな!」と、返事をするあたり何だかんだで本気で嫌ではないらしい。

 仮に本気で怒っていても、お菓子をあげればご機嫌は治り許してくれる。この辺も恐らく犬っぽさが出ているのだろう。


 真司はそんな海と遥と同じクラスになったことにクスリと笑う。


「荻原も同じだと、賑やかなクラスになりそうだね」

「まぁな。あいつ煩いし」

「あはは……」


 苦笑していると、遠くの方で真司と遥の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おーい。真司ー、遥ー!はよ来いよぉー」

「あ。荻原」


 噂をすればなんとやら。

 下駄箱と校内を繋ぐ渡り廊下で、海が大きく手を振り「おーい!」と、呼んでいた。

 遥は真司の肩に手を置くと「ほら、さっさと行くぞ」と、真司に言うと、遥と真司は下駄箱へと向かった。

 幸い、下駄箱は三年間同じ場所なので、一々自分の名前を改めて探すことはない。真司は靴を履き替えると「よしっ!」と、小さく呟いた。


(新しいクラスは、気持ちを入れ替えて頑張るぞ!)


 真司は珍しく気持ちに気合が入っていた。

 昔の真司なら、そんな気持ちは芽生えなかっただろう。なにせ去年までは、引っ越しに過去の出来事、家にある掛け軸のお願い事等色々あったからだ。

 しかし菖蒲と出会い、あやかし商店街で些細な日常を過ごす内に初めて〝良い〟と思えたのだった。


 それは何に対してかはわからない。

 過ごし方や生き方、もしかしたら人生そのものが良いのかもしれない。

 今まで後ろばかり向き俯いて生きてきた。だからこそ、この〝今の出会い〟は前を向かせてくれるものだった。


 気合いが入りギュッと拳を握る真司は、新しい出会いに期待し、待っている海と遥の元へと駆けて行く。

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