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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
2章 皇宮へGO
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第22話 会心の一撃

ロエルが「心に決めた人」とは――その一言が、その場にいる者すべてに妙な波紋を広げていくことになるとは、この時、まだ誰も思っていなかった。少しだけ真面目で、だいぶ様子がおかしい。そんな、いつも通り(?)の舞踏会の一幕。

「俺、心に決めた人がいるんだ」

「ほぅ。それはどこのご令嬢だ?」



「それは…」


ロエルは一瞬、言葉を失い、わずかに視線を泳がせた。


ロエル侯爵は目を細め、口元には笑みを浮かべたまま、しかしその瞳の奥では獲物を狙う猛禽のような鋭さで、息子を射抜いている。


ルードはロエルに視線を向けたまま、何もできず拳を強く握りしめた。

爪が食い込み、痛みを感じているはずなのに、それすら意識に上らない。


キドは場を満たす圧に息が詰まり、恐怖にも似た感情を抱きながら、それでも侯爵から目を離せずにいた。

逃げるという選択肢すら、頭から消え去っていた。


次の瞬間。


ロエルは大きく一歩踏み出し、迷いを振り切るように手を伸ばす。


「!?」


「この人だ!」


「……は?」



有無を言わさず、キドの肩を掴み、そのまま強引に引き寄せた。


「ちょっ……一体何を……?」


キドの抗議は、完全に状況に置き去りにされた間抜けな音として宙に消えた。


ロエルはさらに一歩踏み込み、その腕をキドの背中に回し、まるで守るかのように自らの胸元へ引き寄せる。


距離は、あまりにも近い。


ルードは思わず口を開け、言葉を失ったまま固まる。


ラミアは何が起きたのか理解できず、目を丸くしてぽかんと立ち尽くしていた。


周囲にいた令息令嬢たちも同様だった。

まるで時が止まったかのように、ざわめきも音楽も、すべてが一瞬で凍りつく。


ザグル侯爵の表情から、ゆっくりと笑みが消えていく。

代わりに浮かび上がったのは、抑えきれぬ怒りの色。


「何を言っているかわかっているのか?」


低く、地を這うような声。


「そうですよ! 本当に何を……」


キドはようやく我に返り、慌てて否定しようと口を開いた。

――が。


ロエルはキドの背中をさらに引き寄せ、侯爵から視界を遮るように自らの胸に押し付け、誰にも見えない角度で、容赦なく拳を叩き込んだ。


溝落ちへ、正確無比な一撃。


「ゴフッ」


肺の空気が一気に吐き出され、キドの身体から力が抜ける。

白目を剥き、そのままぐったりとロエルの腕の中に崩れ落ちた。


ルードは、たった一人その一部始終を目撃していたが、あまりの出来事に声を失い、ただ唇を引き結ぶしかなかった。


「わかってるよ。俺は公爵家の副団長であるキドと家を継ぎたいと考えてる」


ロエルは額に冷たい汗を滲ませながらも、鋭い笑みを浮かべ、真正面から侯爵を見据える。


腕の中で気絶したキドは、まるで運び込まれる戦利品のように、ぐったりと揺れていた。


侯爵の顔が、目に見えて歪む。


「侯爵家を継ぐ者として跡取りを設ける事は、生まれながらの義務だ。

お前はその義務を放棄しようと言うのか?」


ラミアは不安と戸惑いの入り混じった表情でルードを見上げる。


ルードはその視線に気付き、即座にラミアの耳を両手で塞いだ。


「お兄様?」


小さな声で問いかけるが、ルードは答えず、ただ視線を前に固定したまま、事の成り行きを見守る。


その時。


思わぬ方向から、澄んだ声が割り込んだ。


「……何がいけないんですの?」


空気が、わずかに揺れる。


「どうして、愛する方と共にいたいと考える事自体が、罪かのように仰られるんですか?」


「私達は、家門の道具じゃない」


「一人の意思を持った、人間よ」


凛とした令嬢たちの声。


ロエルは、完全に虚を突かれたように目を見開き、言葉を失って彼女たちを見つめた。


ザグル侯爵もまた、鋭い視線を令嬢たちに向ける。


だが、彼女たちは一歩も退かなかった。


むしろ、頬を染め、瞳をきらめかせながら声を重ねる。


「ロエル様、私、ロエル様とキド様を応援いたしますわ」


「笑顔の貴公子様と、硬派な副団長様の恋……素敵ですもの」


「まるで恋物語みたい……!」


一気に色めき立つ令嬢たち。


頬を赤らめ、手を胸に当て、うっとりとした表情で二人を見つめる。


「えーと……ありがとう……?」


ロエルは完全に予想外の展開に戸惑いながらも、困ったような、それでいてどこか優しい笑顔を向ける。


「キャー!」


その一瞬の笑顔に、令嬢たちの黄色い声が一斉に弾けた。


ルードは、ラミアの耳を塞いだまま、口元をひくりと引きつらせる。


キドはロエルの腕の中で、相変わらず白目を剥いたまま、意識不明。


ザグル侯爵は、場の空気が完全にひっくり返ったことを悟り、わずかに唇を歪めた。


「ロエル、屋敷に連れて来い。その『心に決めた者』とやらをな」


それだけ告げ、踵を返す。


重苦しい余韻を残し、侯爵の背は人波の向こうへと消えていった。


ロエルは、大きく息を吐き、張り詰めていた表情をわずかに緩めた。


普段は決して見せない、素の疲労と安堵が滲むその横顔を見て、ルードは思わず声をかける。


「ロエル……」


「……いいのか? これで」


ロエルは目を閉じたまま、口元に小さな笑みを浮かべて答えた。


「……ああ」


お読みいただきありがとうございます。

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