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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
2章 皇宮へGO
20/22

第20話(番外編 : 侯爵家の影に生きる僕の初めての笑顔)

暗殺と欺きに囲まれた侯爵家で、冷徹に育てられたロエル。人を信じることも、心を開くことも許されない日々の中、皇宮で幼い皇女に出会い、初めて心を揺らされる。わずかな安らぎと、初めての微笑み——重苦しい日常に光を差す、侯爵家出身の少年の短い物語。※本編連載とは独立した読切です。

皇宮親睦祝宴


春、花が咲き乱れ、暖かな陽気が続くこの日。

貴族、そしてその子息たちが皇宮に集い、華やかな賑わいを見せていた。

そして俺も、この日初めて皇宮に足を踏み入れた。


口元には笑みを浮かべ、細めた目も一見すると笑っているように見える。だが、その奥は決して笑っていない。薄気味悪い男が言った。


「お前は高位貴族と繋がれ。懐に入り込み、情報を、弱みを手に入れろ。

それは我々の武器となる。

お前と同じくらいの年齢の年若い令嬢も来ているだろう。相手はまだ子供だ。ペラペラ家門のことを話すように仕向けろ」


あの時、俺だってまだ八歳の子供だった。


薄気味悪い男――侯爵家当主であり、俺の親父。


あの頃は、言っている意味がよくわからなかった。

侯爵家といえば聞こえは良いが、長い歴史の中で欺き、知略、策略、裏切りを重ね、他家を蹴落として手に入れた爵位。それが俺の家、ザグル侯爵家だ。


ラミアは無知ゆえに知らないが、下位貴族は蠅のように群がり、高位貴族は警戒して近寄らない、そんな家門。


初めて皇宮に足を踏み入れた時、親父は俺を、子供たちが集う場へ放り込んだ。


「あなた、綺麗ね。ザグル侯爵家なのね。私とお話して」


年若い――いや、若すぎる令嬢たちに囲まれ、俺は辟易した。


俺より少し年上の二人の王子は、会場を抜け出して外へ出て、対決を楽しんでいるらしい。

目を輝かせて。


何がそんなに楽しいのか。

当時もそう思った。今なら、この感情にはっきりと名前をつけられる。――反吐が出る。


親父は人混みの向こうを指し示し、低く囁いた。


「あれは先日爵位を継いだルード公爵だ。お前より一つ上だったか。今は皇宮預かりとなっている。

公爵家出身の令嬢が現在の皇后だ。仲良くして損はない。それに、いつかその伝手で我が家門も皇宮に上がれるかもしれん」


薄気味悪い笑い声を、俺は無感動に聞いていた。


――ルード。

世界の不幸を一人で背負っているような顔。陰気臭いやつだな。


それが、初めて彼を見た時の感想だった。


それから数年後、再び祝宴が開かれた。

両王子は相変わらず対決に夢中で、会場をかき乱し、庭園へと駆けていく。使用人たちが困り果てている。


またか……何も変わらないな。


令嬢たちは、この世界の仕組みを理解し始めたのか、年に似合わない媚びを覚えたようだった。


たった数年。

俺はまだ、立派に子供だった。

笑顔で流す術も、心にもない賞賛も、できなかったし、したくもなかった。


ふと、あの公爵の姿が目に入った。

かつて不幸を背負っていたあいつが、今は笑っている。

照れくさそうで、不器用な笑顔。それでも確かに、もう不幸は背負っていなかった。


――疎外感。


その感情が胸に広がる。

活発でもなく、よく笑うわけでもない。

親父から笑顔を奪われたような、薄気味悪い子供。

それが、俺だったのかもしれない。


親父が仮面の笑顔を貼り付け、社交に夢中になるのを背に、庭園へ出た。

奥へ進めば、人影はない。


ただ時間が過ぎればいい。

早く帰りたい。いや、帰っても、また同じことをやらされるだけだ。


諜報、毒殺、解毒、拷問、隠蔽。

もちろん剣術もあるが、公爵家のような騎士道とは無縁だ。


相手に見られず背後から斬る方法。

瞬時に即死させる方法。

大勢に囲まれても生き残る方法。


卑怯でいい。

卑怯こそ、侯爵家らしい。


――疲れたな。


そう思った時、遠くから声が響いた。


「皇女殿下ー。どちらですかー?」


その直後、近くの茂みが揺れ、小さな影が現れた。

質の高いドレス。幼い顔立ち。


――皇女殿下か。

俺よりもずっと小さい。

小さい子供は苦手だ。場を読まないし、泣き声もうるさい。


思わず視線を逸らす。


「こんにちは」


ぺこりと頭を下げ、にこやかに挨拶される。


「……こんにちは」


間を置いて、ぎこちなく返す。


「ラミアです」


満面の笑み。


「……ロエル・ザグルと申します。皇女殿下」


「一緒に行こ」


小さな手が、ためらいなく俺の手を取る。


「……どこへ?」


「あっち。えへへ」


視線の先は会場。

この皇女は、俺をあの喧騒へ連れ戻す気らしい。


遠くから、再び声が聞こえる。


「皇女殿下ー。どこですかー」


「……殿下、侍女がお探しです。侍女の元へお送りします」


「行かない?」


「行かない」


短く答えると、少女はしょんぼりと肩を落とした。


「……何で?」


視線を逸らしながら、静かに告げる。


「侍女が心配してますよ。行きましょう」


そう言って、俺はラミアを抱き上げた。

軽い体重。驚くほど小さい。


そのまま侍女のもとへ運び、引き渡す。


深々と礼を言われ、その場を離れようとした時、背後から声がかかった。


「今度は行く?」


振り返ると、不安そうな顔。


「はい。今度は」


そう答えると、少女はぱっと笑顔になり、小指を差し出した。


「約束ね」


小さな指に、自分の指を絡める。


「はい。約束です」


その時、俺は初めて、自然に笑った。


風が舞い、花が咲き乱れる皇宮で。


お読みいただきありがとうございます。

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