第14話 恐怖の手紙
皇室から届いた一通の招待状。ラミアの無邪気な言葉に振り回されるルード、手紙=処刑と本気で怯えるキド、そして相変わらず自由なロエル。「俺、処刑ですか?」「ただの招待状だ」「王子みたい?」――今日も公爵家は平和(?)です。※ここから新章に入ります。物語の空気が少しずつ変わっていきますが、これまで通りのテンポで続いていきます。
春の陽気に包まれるバルコニー。
柔らかな光の中、ルードとラミアは紅茶を手に午後のひとときを過ごしていた。
ラミアはソファに腰掛け、カップを両手で包む。
「良いお天気ですね」
「そうだな。こうして静かに過ごすのも久しぶりだ」
ルードは穏やかに微笑む。
ラミアは妹のような存在だ。その無邪気な笑顔を見るたび、胸の奥が少し温かくなる。
「ロエル様は冗談も多くて面白いですし、でもちゃんと紳士的で……」
「キド様も、騎士団のことや私のことをよく見てくださって、優しいんです」
ルードの眉が、わずかに動いた。
(……うむ。そこは少し、いやだいぶ危ないな……)
ラミアは楽しそうに続けるが、当の本人はまったく気づいていない。
ルードは内心で小さくため息をついた。
(ラミアの天然さを利用して、ロエルが何かやらかさないか……
キドはキドで、暴走して訳のわからないことをしないか……)
紅茶を一口飲み、努めて落ち着いた声で言う。
「ラミア、今日は何も考えず、ゆっくりしていればいい」
「はい、お兄様」
春の光に照らされるその笑顔に、ルードは微笑むしかなかった。
(……今日も俺は過保護全開だな)
⸻
バルコニーの余韻も冷めやらぬうちに、執務室へ使者が現れた。
封書を見た瞬間、キドが青ざめて飛び出す。
「……皇室から、何か……!?」
封を切る前から、すでに顔色が悪い。
ルードは手紙を受け取り、落ち着いて開封した。
(なるほど。安定を取り戻したことを祝う、記念祝賀会か……)
以前、皇位継承を巡って政情は不安定だった。
交戦的すぎる継承者が問題を起こし、帝国全体が緊張状態にあったのだ。
だが皇帝が正式に皇太子を任命し、両王子はようやく「競うべき場所」を得た。
俺とロエルが不穏分子の処理に関わり、両王子も勝手に首を突っ込んできたが――
剣術、帝王学、戦術、政治経済、その資質に問題はない。
結果として帝国は安定し、
「帝国には双剣、双盾あり」とまで称されるようになった。
(……その裏で、ラミアには両王子達と対極に徹した教育が行われたがな)
争いも疑念も知らず、花のように、蝶のように育てられた少女。
悪? 策略? 裏切り?
何それ、という顔で微笑むのも無理はない。
(祝賀会にラミアも参加……か。社交慣れしていない彼女には、少し荷が重いな)
「落ち着け、キド」
声をかけた瞬間、キドは足をもつれさせて転倒した。
「わっ……す、すみません!」
その様子に、ロエルが肩を揺らして笑う。
「お前、本当に焦るな。手紙一枚で顔色変えすぎだろ」
「ロエル様のせいかもしれません!」
「なんで俺?」
「皇女殿下への振る舞いです!」
「それならお前だろ。ラミアの腕にでも怪我させたのか?」
「……俺の身を差し出せ、という通達ですかね」
「処刑でも?」
キドの小声に、ロエルはついに吹き出した。
「……手紙は招待状だ」
ルードが両手を広げる。
「問題ない」
キドはその場にへたり込み、ロエルは優雅に紅茶を掲げた。
⸻
数日後、皇室から迎えが来るという知らせが届いた。
「次に会うのは記念祝賀会ですね」
「はい、お兄様。お兄様の正装、きっと素敵でしょうね」
照れつつも、ルードの胸中は穏やかではない。
(あの場で、この無自覚を晒すのか……)
「ロエル様も来られますよね?」
「うん。そうだね。」
「絵本に出てくる王子様みたいで、令嬢たちに人気が出そうです」
「……王子、だと?」
ルードのこめかみがひくりと動く。
王子だって? こいつが? が、実際の王子たちもあんなだし……。慌てて首を振る。
「フッ。こんな腹黒い王子がいたら嫌ですね」
キドが小声で言う。
「おい、聞こえてるぞ」
「ラミアの感想を否定するのか。不敬だぞ、キド」
「結局、俺だけ悪者ですか……」
ロエルは軽く片膝を折り、冗談めかして言った。
「では、姫。あなただけの王子となりましょう」
「まぁ……」
「やめろっ!」
目を輝かせるラミアと、即座に止めに入るルード。
ロエルは声を上げて笑い、キドは静かにため息をついた。
(……祝賀会、本当に無事で済むのか?)
春の穏やかな空の下、そんな不安だけが、ひっそりと積み上がっていった。
こちらから2章に入ります。
よろしくお願いします。




