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天然皇女と3MENたち  作者: angelcaido
1章 あつまれ!公爵城
12/19

第12話(番外編 : G戦場のラミア )

公爵家に滞在中の皇女ラミアの私室から、突然響いた悲鳴。駆けつけた当主補佐キドが目にしたのは、刺客でも陰謀でもなく――皇女が「見たことのない虫」と呼ぶ、ある存在だった。なぜか「神の御使」として扱われるそれを巡り、女官、騎士団、侯爵家嫡男までを巻き込んだ公爵家史上、最も口外できない一日が始まる。これは、決して記録には残らない、だが確かに戦場となった日の物語。※本作は一話完結のコメディです。本編を知らなくても楽しめます。

公爵家で当主ルードの右腕を務めるキドは、静かな廊下を足早に歩いていた。


皇女ラミアが滞在してから、すでにしばらく経つ。

屋敷の空気も、使用人たちの動きも、すっかり“皇女仕様”に慣れきっている頃だった。


本来なら、ここに侯爵家嫡男ロエルの姿もあるはずだ。だが彼は今、所用で一時的に屋敷を離れている。


(……平和だな)


キドはそう思った。

思ってしまった。


その瞬間だった。



皇女殿下私室の方向から、屋敷を切り裂くような悲鳴が響いた。


「キャーッ!」


反射的に足が止まり、次の瞬間には走り出していた。

悲鳴が上がった場所は、先日から滞在している皇女ラミアの私室。


(何があった? 刺客か?)


いや、ありえない。

帝国の剣とまで呼ばれるこの公爵家で、しかも皇女の私室だ。警備に抜かりはない。


キドは扉の前で一瞬だけ息を整え、即座に開け放った。


「どうされました? 緊急事態と判断し、お部屋に立ち入ることをお許しください」


室内では、皇女ラミアと女官たちが固まるように震えていた。


「あ、あの……見たことのない……その……虫? が……」

ラミアはおずおずと口を開く。


「……虫、ですか?」


「お前たちは何をしている? 早く対処しろ」

キドは冷たい視線で女官たちを叱責する。


「で、でも……私、無理です」

「わ、私も……」


女官たちは怯えながら視線を逸らした。


「……?」

キドは首を傾げる。

「一体何だというんだ。どこだ? 俺が片付ければいいんだな?」


「は、はい。お願いします」


女官が指差した先――

そこにいた。


カサカサと不規則に動くその虫。

いや、虫と呼ぶのも憚られる。昆虫の一員に数えるのは、昆虫に対して失礼と言っていい。


キド

(!!)


まずい。

こんなものが皇女殿下の私室に現れたと知られたら――。


顔色を失ったキドは、とっさにラミアへ向き直った。


「殿下。これは……神の御使と呼ばれる存在です」


女官たちが一斉に困惑の表情を浮かべる。


「まあ……それはとても縁起が良いですね」

ラミアは安堵したように微笑んだ。

「私、失礼にも怖がってしまいました」


「確かに、先ほど拝見したお姿は神々しく、艶やかに光っておりましたね。それに頭には……」


「キャーッ!」


女官は、その先を聞きたくなかったのだろう。両耳を塞いだ。


「お前たち! 不敬だぞ!」


「キド様も耳、塞いでるではありませんか!」


互いに耳を塞ぎながら、大声で言い合う異様な光景。


「……私は、何かいけなかったのでしょうか」

ラミアは戸惑いながら尋ねた。


「殿下は何も悪くありません!」

キドは即答する。

「悪いのは……神だ。この御使をこの世に生み出した神。そうだな? お前たちが清掃を怠ったわけではないな?」


「はい、決して!」

「殿下は悪くありません。悪いのは……」


「あ、あの……そのご発言は……神への冒涜には当たりませんか?」

ラミアが心配そうに口を挟む。


「…………」


沈黙。


口を開いたのは女官だった。


「神の御使を怒らせてはなりません。御使は時に祟りを与えると……」


嘘に嘘が重なっていく。


「そうです、殿下」

キドは力強く頷いた。

「ここは自分が引き受けます。お前たちは殿下を」


「命に代えましても」


真剣なふりをする一同。

だがその甲斐あって、ラミアを庭園へ避難させることに成功した。



ラミアが庭園で穏やかにお茶を楽しんでいる頃。


公爵城内では。


「敵の侵入経路の発見を急げ」

「一匹たりとも、この公爵城に足を踏み入れることは許さん」


「は、騎士の名誉にかけまして!」


そこは、完全に戦場だった。



庭園に影が落ちる。


「まあ、ロエル様。侯爵家へお戻りになっていたのでは?」


「用事、思ったより早く終わってさ」


侯爵家嫡男ロエルは、柔らかな笑みのまま周囲の異変を察した。


「……何かあった?」


「ロエル様、私、先ほど神の御使様にお会いしましたの」

ラミアは眩しいほどの笑顔で語る。

「とても光栄でしたわ」


女官たちは一斉に目を逸らした。


「……神の御使い?」


「はい。私の私室を訪れてくださったのです。烏の濡れ羽色のように日を浴び、神々しく……」


「ヒィッ!」


女官が耳を塞ぐ。


「……それって、もしかして……」


「聞きたくないです! その名前を!!」


ロエルは苦笑し、ラミアは不思議そうに微笑んでいた。



公爵城・執務室。


「皇女の部屋に出たのは問題だが、騎士団まで動員するのは大げさすぎないか?」


腕を組むルードに、キドは胃を押さえた。


「殿下が“見たことがない”と仰ったんです。

つまり皇宮には出ない。あれだけ広いのに」


「……まずいな」


「このことが陛下のお耳に入れば……」


「緘口令を引け。第一級機密だ」


「へぇ。楽しそうだね」


声の主に、二人は振り向く。


「ロエル……」


「皇女を騙した件、罪になるかなぁ?」


「脅すつもりか?」


「脅してもいいのー?」

ロエルは楽しそうに笑う。

「歴史に残るかもね?」


「ええ、どうぞ」

キドが真顔で言った。

「そうなれば称えて差し上げましょう」


「よっ! ゴ⚪︎⚪︎⚪︎侯爵」


「やめろ!」


「よっ! ゴ⚪︎⚪︎⚪︎」


「お前は爵位すら消えてるぞ!!」


ロエルはついに観念した。



皇宮。


「ラミア、最近はどう?」


「神の御使様にお会いしました」


その言葉を訝しみ、皇帝は静かに手を上げた。


「公爵家を調べよ」


影は命を受け、闇へと溶けていった。



数日後。


調査報告書は、極めて簡潔だった。


『対象は確認できず』

『神性なし』

『虫類に分類される可能性が高い』

『正式名称は――』


皇帝はその一文を読み、手を止めた。


「……書かなくていい」


「陛下?」


「いいから書くな」


皇帝は深く息を吐いた。


「この件は、なかったことにする」


「しかし記録上――」


「残すな。絶対にだ」


その日のうちに、

公爵家第一級機密は「皇宮指定・存在しない事件」に格上げされた。



後世。


歴史書の片隅には、こう記されることになる。


公爵家滞在中の皇女ラミアは、

ある日「神の御使」に遭遇したと語ったという。

その詳細は不明。

ただし当日、公爵家では騎士団が全力で出動し、

侯爵家嫡男が笑いをこらえ、

当主補佐が三日間寝込んだと伝えられている。


歴史家たちは、この事件をこう呼んだ。


――G戦場のラミア。


そして公爵家の愉快な者たちは、

この名が後世に残ることを、

まだ誰も知らなかった。

お読みいただきありがとうございます。


先日、人生で初めて御使=Gと対決。戦いは2時間に及びました

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