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相殺式  作者: 冴白
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歪んだ専門家たち

会議室に入ると、

すでに二人の人間が座っていた。


一人は、

壁一面のモニターを背に、

椅子に深く腰掛けた中年の男。


もう一人は、

背筋を伸ばし、

両手を膝の上に置いた若い女性だった。


「座れ」


古谷直也が、

短く言う。


想槍剛が席に着くと、

中年の男が、

ちらりと視線を寄越した。


「……新人?」


低く、

どこか刺のある声。


「小谷とおるだ」


年齢よりも疲れた顔。

だが、

目だけは異様に冴えている。


「一日中、

 防犯カメラ見てる」


そう言って、

モニターの映像を指差す。


そこには、

交差点、駅構内、

コンビニのレジ前――

ありふれた日常が、

無数に並んでいた。


「復讐したい小物が、

 どんな顔で歩いてるか、

 よく分かる」


自嘲なのか、

本音なのか、

判別がつかなかった。


「監視、追跡、

 タイミング調整は俺の仕事だ」


小谷は、

想槍を値踏みするように見た。


「感情で動く奴は、

 ここじゃ長く持たん」


「……ご忠告、

 ありがとうございます」


想槍がそう返すと、

小谷は鼻で笑った。


「礼を言われる筋合いはねぇ」


そのとき、

若い女性が口を開いた。


「田村しずくです」


声は、

驚くほど落ち着いていた。


「警察から出向しています」


その一言で、

想槍は彼女を見た。


警察。


この場所には、

最も似つかわしくない言葉だった。


「いじめが、

 嫌いなんです」


田村は、

まっすぐに言った。


「強い立場から、

 弱い立場を踏み潰す行為が」


「だから、

 警察になりました」


小谷が、

小さく舌打ちする。


「理想論だな」


田村は、

一切、動じない。


「ええ。

 自覚しています」


「でも、

 ここにいるってことは――」


視線を、

古谷に向ける。


「理想だけじゃ、

 何も変わらないことも、

 理解しています」


古谷は、

二人のやり取りを、

黙って見ていた。


「想槍剛」


彼が名前を呼ぶ。


「君の役割は、

 “声”だ」


「被害者でも、

 加害者でもない」


「“間に挟まれた人間の声”を、

 最後まで聞く」


想槍は、

ゆっくり頷いた。


小谷が、

ぼそりと呟く。


「聞いた結果、

 死にたくなることもあるぞ」


田村が、

静かに返す。


「それでも、

 聞かないよりはいい」


沈黙が落ちる。


三人は、

似ても似つかない。


価値観も、

動機も、

正義の形も違う。


だが――

この歪んだ三人だからこそ、

“相殺”は成立する。


古谷が、

淡々と告げた。


「今日から、

 この四人が、

 一つの案件を動かす」


想槍剛は、

胸の奥で、

微かな違和感を覚えた。


――この場所は、

誰かを救うためにある。


だが同時に、

誰かを確実に壊す場所でもある。


そのことを、

彼はまだ、

言葉にできなかった。


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