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相殺式  作者: 冴白
20/28

相殺ごっこ

最初の事件は、

「模倣犯」と呼ばれた。


公園の駐車場。

口論の末、

二人が殴り合い、

一人が死亡。


加害者は、

取り押さえられる直前、

こう叫んだ。


「相殺だ!」


ニュースは、

慎重だった。


「個人的トラブルによる

不幸な事件です」


だが、

翌日。



二件目 ――“釣り合う相手”


深夜の路地。


万引き常習犯と、

暴行歴のある男。


面識はない。


だが、

SNSで繋がっていた。


《同レベル同士で

 ケリつけよう》


結果は、

相打ち。


現場に残された

スマートフォンには、

こんなメモがあった。


相殺成立

被害者なし



三件目 ――選ばれる人間


昼間の住宅街。


張り紙。


この家には

DV加害者がいます


相殺対象


夜。


家に火がついた。


住人は助かった。

だが、

隣家の高齢者が

一酸化炭素中毒で亡くなった。


犯人は、

泣きながら言った。


「計算外でした」


「でも、

 あの人は

 悪い人だから……」



ニュースが変わる


三件、

五件、

十件。


言葉が、

変わり始める。


「相殺思想に

影響された可能性」


「市民による

私的制裁」


「新たな

社会問題」


だが――

コメント欄は違った。


「やりすぎだけど、

気持ちは分かる」


「国がやらないから

市民がやった」


「これも

自己責任社会」


“止めろ”より

“分かる”が多い。


それが、

一番、

恐ろしかった。



組織の崩壊音


地下会議室。


報告が、

机に積まれていく。


古谷直也は、

一枚一枚、

目を通していた。


「……もう」


低く、

呟く。


「我々の

 手を離れている」


小谷とおるが、

珍しく声を荒げた。


「最初に

 線を引かなかったからだ」


「“悪い奴同士ならいい”

 なんて」


「誰が、

 決めた」


沈黙。


誰も、

答えられない。



想槍剛 ――聞こえすぎる声


想槍のスマートフォンは、

鳴りやまなかった。


DM。

匿名通話。

動画。


泣き声。

怒鳴り声。

笑い声。


「相殺してきました」


「これで

 スッキリしました」


「正しいですよね?」


想槍は、

耳を塞ぐ。


だが――

塞げない。


これは、

自分が見てきた

“声”の、

成れの果てだ。


誰も、

救われなかった声。


誰も、

聞かなかった声。


それが、

刃を持った。


「……違う」


想槍は、

震える声で言う。


「相殺は、

 ゼロになんか

 ならない」


「必ず、

 増える」


怒りも。

犠牲も。

そして――

“正しいと思い込む人間”も。



一線を越えた事件


そして、

決定的な事件が起きる。


中学生。


いじめ加害者とされる少年と、

被害者とされた少年。


同じ校舎。

同じ屋上。


「相殺だ」


その言葉と共に、

二人は落ちた。


助かったのは、

一人だけ。


記者会見で、

その親は言った。


「相殺が

 あると思った」


「だから……」


その瞬間。


想槍剛は、

はっきり理解した。


もう、

 黙っていられる段階じゃない。


止めなければ、

世界が

“相殺”そのものになる。

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