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戻ってきた私

 半分、崩れた魔王城の王座の間。

 そこにいるのは、激闘の末に魔王を討伐した勇者一行だ。


 私は、魔王と戦った聖獣の艶やかな毛を撫で、別れを告げる。

「シャルル、お疲れ様! 今度はもっと強い召喚士だと良いわね」

 ライオンの顔と身体と鷲の羽根、それに毒がある蛇の尻尾。

 最初は怖かったけど、私を常に護ってくれたシャルル。

「フン!……良い主だった」

 ふふふ、ツンデレだね。最後に抱きしめて、契約を解く。


「本当に帰るの?」

 心配そうな聖女のアンジェラ。聖女に相応しい清浄な空気を纏わせている美女。

 その横には、こちらの世界の聖騎士が付き従う。ふふふ、お互いに好意を持っているのに、なかなか進まない恋。

 私がいなくなった後で、結婚とかするのかな? お幸せに!


「ユキぐらい養ってやるぞ! こちらに残った方が良い」

 勇者のマキアス、魔王を倒してユリア王女と結婚が決まっている。

 確かに、貴族になったマキアスなら私一人ぐらい養えるだろう。

 でも、ユリア王女との新婚生活のお邪魔虫になるのは嫌!


「あちらの世界の方が女の子には住みやすいのかも知れないが……聖獣とも別れなければいけないのだぞ! 俺と一緒に賢者の塔で暮らせば良い」

 賢者のユングが聖獣を持ち出した。別れ難いけど、聖獣はこちらの世界の守り神っぽいから無理だよ。特にシャルルは王家の紋章にもなっているからね。


 魔王と戦うために異世界に転移させらた仲間は、次々と倒され、残ったのは私を含めて四人。

 あちらの世界で読んだラノベでは、魔王を倒しても元の世界に戻れない設定もあったけど……魔王を倒したら、転移陣が現れた。

 これだけは、こちらの神様に感謝だね! それ以外は、突然に魔物がいる異世界に転移させられ、魔王を倒せなんて無茶振りされたけどさ。


「本当に元の世界に帰れるのかしら?」

 聖女のアンジェラにはお世話になった。転移させられた仲間の中で、一番若く、役立たずだった私をいつも庇ってくれた優しい人。

 私は、最初はスライムしか召喚できなかったからさぁ。

「役立たず!」って罵られたりしたんだよ。


「それは、大丈夫だ!」

 賢者のユングの青い目が光る。鑑定してくれたのだ。


「ユキ! お前がユリア王女と結婚するなと言うなら……」

 ゲッ、何を言い出すの! 勇者のマキアスって、自意識過剰なんじゃない?

 確かにこちらの世界に来た時、魔物とか怖くて、マキアスには助けてもらったけど、恋愛感情は一ミリも持っていないよ!


「いいえ、結構です! それに、私は元の世界でスローライフをするつもりだから! 皆様、お元気で!」


 魔王の王座の間に現れた転移陣、紫色と白の渦。

 ちょっと飛び込むのに躊躇するけど、魔物がいる異世界は私には向いていない。

 安全で清潔な生活と美味しい和食が恋しい。それに、これから大学に進学するって時にこちらに来たんだ。

 大学で農業を学んで、無農薬農業をして、ゆっくりと過ごしたいよ。魔物のいない世界でね!

 

「ユキ、すぐに命の危機になるって事を忘れないでね!」

 最後まで聖女アンジェラのありがたい忠告だ。


 ここに転移された仲間は、あちらの世界で命を落とした者ばかり。

 魔王を倒しても、すぐに死んだら困るけど、そこは神様経由で、病の人は完治、事故の人は数分前に戻るそうだ。


 私は……お婆ちゃんの家に向かって、バス停から山道を歩いていた。

 その時、転移させられたのだ。最後の記憶は、田舎では珍しい赤いスポーツカー。

 きっと、交通事故で亡くなったんだと思う。


 異世界転生とか転移で、トラック事故が多いよね。相手のドライバーさんも迷惑じゃないかな? って読んでいた時に考えたんだ。


 転移して、数分後に赤のスポーツカーに轢かれるなら、すぐに道から外れなきゃ! 


 ……………………


「ここは……お婆ちゃんの家への道!」

 帰ってきたんだ! なんて感慨に耽っている場合じゃない。

 スポーツカーに轢かれないように、山に登らなきゃ!

 そうだ、冬だったんだ! でも、ツタを手に持って、山に登る。


「キキキキキキー」

 おお、赤いスポーツカーだ! あれがカーブしきれずに私を引いたんだな。

 今回、カーブの先に私はいない。ガードレールにぶつかって止まった。

 あのガードレールとスポーツカーに挟まれて亡くなったんだなぁ。


 スポーツカーから、若い男の人が出てきて、車が動くか気にしている。

 スピード出し過ぎなんだよ! と心の中で注意しておく。

 少しガタガタ音がしているけど、スポーツカーは去った。やっとバクバクしていた心臓も落ち着いたよ。

 道にツタを頼りに降りる。


「お婆ちゃん、待っているだろうな!」

 本当は四年ぶりだけど、服も身体も前のまんま。不思議!

 田舎暮らしを母親は嫌がって都会に出たけど、私はこっちの方が好き。

 大学もこちらから通いたけど、通える距離には国公立しかないんだよね。ちょっと無理かも? いや、頑張ろう!


 そんな呑気な事を考えながら、お婆ちゃんの家へと急ぐ。

 ただ、転移した仲間たち。魔王を倒す前に亡くなった人達がどうなったか?

 亡くなった時は、涙が枯れる程泣いたし、怖かったのに……四年の間に死に慣れて考えもしなかった。

 転移した仲間がダンジョンの中の魔物みたいに消えたのにショックを受けたのも忘れていた。


 私は、魔王を倒して、こちらの世界に戻った。

 他の仲間達も……それを知るのは、もう少し後になる。

 

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