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間話1-1 それぞれのアオハル


「ごめんなさい」


……その言葉を聞いた時、まず思ったのは『やっぱりな』という感想だった。

そうは思っていても、衝撃の方が強い。多分、他人事のように受け止めないと耐えられない、と防衛本能が働いたのだろう。


日もすっかり落ちた夜の公園。

今日、二人で出かけるためにバーゼスさんを誘い、OKを貰った。

定番のデートコース。ネットで調べたコースをさらに下見し、念入りに準備した。

今日の彼女は終始楽しそうで、俺はもしかしたらと期待もした。


しかし目の前にいる銀髪の女性は、申し訳のなさそうな表情で、しかしはっきりと言い切った。

思い切って告白した結果はあえなく撃沈と言う訳だ。

次に言葉を出すのに数回の深呼吸が必要だった。

彼女は困った顔で、しかし俺が落ち着くのを待ってくれていた。


「……やっぱり駄目か。少しはいけるかもと思ったんだけどなー」


できるだけ軽く聞こえる様に、努力したつもりだ。

でも声が震えるのを隠すことはできてなかったのだろう。

バーゼスさんは眉をへの字にして、答えた。


「ごめんなさい。でもマツル君が悪いわけではないから。これはあくまで私の問題」

「……どういう意味?」


彼女の言葉に、俺は何とか問いかけ直す事ができた。

そして俺の言葉に、バーゼスさんは一枚の紙を取り出す。

一瞬だけ躊躇い、しかし俺に向けてその紙を渡してくる。

俺はその紙を受け取ると表にする。


それは、一枚の写真だった。

純白のウェディングドレスで着飾ったバーゼスさんがそこに映っていた。

彼女の隣には、赤毛の男性が、タキシードを着てバーゼスさんの隣にいた。

二人の周りには彼女達を祝福するように彼女と同年代の男女がそこにいた。

バーゼスさんははにかむように、しかし幸せそうな笑顔でそこに映っていた。


つまり、この写真が意味することは一つだった。


「バーゼスさん。結婚していたんですね」


俺の言葉に彼女は頷く。確かに彼女は大学生。サツキさんのように学生結婚している可能性を考えるべきだった。

結婚しているようには見えなかった。

休みの日には大抵俺たちのグループと一緒に遊んでだし、男の影なんて見えなかったけれど。

いや、これだけ魅力的な女性なのだ。少なくとも彼女に彼氏がいることくらい考えるべきだった。

俺が好きになった。それだけで突っ走って彼女の事情は一切考えていなかった。

これは、俺が考えが足りていなかったという事だ。少しは聞いた方が良かった事だった。


俺が思考の堂々巡り黙ってしまっていると、バーゼスさんは一回目を伏せ、もう一度俺を見る。


「……正確には、結婚していた、だけどね」

「?……それは……?」


頭が追いつかない。バーゼスさんは一体何を言おうとしているのか。


「彼は……もういないの」


その言葉が意味することに、俺は思い至らず沈黙する。

彼がいない? 別れたという意味には聞こえない。

別れただけならこんな深刻な表情をするとは思えない。

他に考えられる事は……まさか、すでに故人という事か?


写真の中の二人はこんなに幸せそうにしているのに? 

一体何が、バーゼスさん達にあったのだろうか。

混乱する俺に、バーゼスさんは少し苦みのある表情で俺を見る。


「もう昔の事だし、心の整理はついているのだけどね。それでも新たな恋はできない。だから、これは私の問題」


俺にはとてもそうは見えなかった。

今のバーゼスさんを見て、心の整理をつけているなんて思えなかった。

……いや、普段のバーゼスさんは一緒に遊んで、一緒に笑っているのだ。

つまり、これは俺が思い出させてしまったという事なのだろう。


「だから、ごめんなさい」


もう一度、バーゼスさんは言う。

そのバーゼスさんの憔悴した様子に、俺は一つの結論を自分認めた。

俺は深呼吸をして、今度こそ気持ちを落ち着ける。


「俺の方こそ、ごめんなさい。俺の気持ちだけで突っ走ってしまって。バーゼスさんの気持ちははっきりわかりましたから」

「……」


バーゼスさんの表情が変わる。なんとなく怒られた子供のような表情。

だから、俺は言葉を続ける。


「バーゼスさんが良かったら、ですけど」

「……はい」

「これからも、一緒に遊びましょう。今まで通り友達として」


バーゼスさんはただ固まったまま、俺の瞳をじっと見る。


「駄目、ですか?」


俺のダメ押しの言葉。

その言葉に彼女は小さく、しかしはっきりと首を横に振った。


「そんなことない……ありがとう、これからもよろしくね」

「ああ、よろしく」


そうして、俺の恋は終わった。

バーゼスさんと別れ、家に戻る。

何もする気がお起きず荷物をすべて放り出し、ベッドに飛び込んだ。

蝉の鳴き声が、やたらと遠くに感じた。


「……明日、カリタにでも愚痴を言いにいくか」


誰かに話して、いつもの自分に戻ろう。

そう思いながら俺は瞳を閉じることにした。


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