2-2話 イベントが始まりました?
蒼い稲妻亭から出ると、まずは地図を確認する。
なにせ、この町の地形など全く知らないのだ。地図なしで歩くのは自殺行為に等しい。
『あ、行きたい場所があるなら場所をセットするといいのだ』
ミリンの言葉に従い鍛冶屋に行き先をセットする。すると道に光の線が現れた。
その光の線は大通りをある程度進むとわき道に入っていく。
「あ、これがルート補助か。わかりやすいナビゲーターだな」
『あ、このルートはセットしたお主にしか見えないから注意するのじゃ』
「パーティー共有にはできないのか」
『というかパーティー設定とかないからのう』
「そう言われればそうだった」
そういえば、パーティー設定とかしなかった気がする。
気にしていなかったが、これ戦闘時に普通誤爆もありうるな。
『この辺は需要が多ければ実装を検討するのじゃ』
「その言い回しだと難しそうだな」
『決めるのは運営の役割だからのう』
「それもそうか。ま、あると便利な機能だと思うけどな」
『テストプレイ時は慣れている人間がやっていたからのう。その辺視点は欠如してるかもしれんのじゃ』
「クローズドβもやらなかったのか」
『納期が厳しくてのう』
どうやら大人の事情があるらしい。でもその辺プレイヤーが気にする必要はないか。
ミリンとの会話を終わらし、ルートに沿って歩き始める。
しばらくして大通りから外れ、小道を通ることになる。
大きな町らしく建物が大きく、比較的見通しは悪い。
ルート補助がなかったら確実に迷うところだなと思いながら歩き続ける。
――ふと、音が聞こえた。
それは押さえつけられたような声。多分、女性特有の高めの声。
気のせいだと思いたかったが、街中に危険が全くないとも考えにくい。
街中でも何かイベントが発生する可能性はあるのだし。
俺は足音を立てないように注意しながら、音がしたと思われる道の角まで行き少しだけ顔を出す。
視線の先には5人のガラの悪そうな男たちが、一人の女性を組み伏せている所が見えた。
俺は、すぐに顔を引っ込め聞き耳を立てる。
「口は塞いだか!?」
「ああ、これで大丈夫だ。てこずらせやがって」
「こんな小娘に二人も倒されるなんてなぁ」
「殺すなと言われているんだ。手加減しながらは難しい。仕方ない」
あー。またベタベタなイベントだなぁ。
わかりやすくていいけど。
彼女を助けたら何らかのイベントが始まるのは想像に難くない。
この場にイルミがいれば、参加確定だったのだが……一人で勝手に進めるのは少しだけ悩む。
何か参加する切っ掛けが欲しい。
そう思いながら、ふと配信画面を視認する。
そこには数件、コメントが付いていた。
豚紳士 :こんなん助ける一択やろうが!すぐいけ!
社筑 :くそうなんで俺は三日目から参加なんだ!
ミナミク:3対1だと不意打ち必須よねー
あれ? なぜか視聴者のコメントがリアルタイムだ。
声は出せないため、とりあえず文字情報でミリンに送る。
『ああ、彼らは三日目からのプレイヤーなのじゃ、ルームでも体感時間加速はできるからのう。
希望されたので有料コンテンツとして、リアルタイム視聴を可能にしたのじゃ』
あ、なるほどな。とりあえず納得する。同時にイベント参加の方針も固まった。
視聴者も望んているんだ。やらない理由がない。
不意打ちは確定で行う。負けたりしたら話にならない。
剣は……今回はやめよう。相手が出してくるまでは格闘で対処。
スキルレベル0だけど、少しは補正がある、といいな。リアルで殴り合いはしたことないし。
後は相手が弱いことを祈るだけ。
ま、すでに一般人に二人倒されているんだ。きっと大したことはない。
俺は手ごろな石をとると、角からでる。
3人とも女性に集中しているのか、まだこちらには気づかない。
遠くの一人に狙いをつけるように全力で投げると同時、走り出す。
俺の足音に気づいたのか、近くの一人が顔をこちらに向ける。
同時、石が別の男の頭部に命中。崩れ落ちるように倒れた。
「なんだ! てめえ!」
怒声と共に一人の男が殴りかかる。
動きが見える気がする。ちゃんと、ゲームの方で補正が掛かっている。
少なくともウサギの魔物より動きは遅い。
相手の殴り掛かってきた拳を軽く避けると顎をめがけてカウンターを放つ。
鈍い感触と共に相手が倒れようとしているのを確認。
そのまま女性を組み伏せている男の腹めがけて蹴り上げた。
男は声すら上げららず、もんどりうって倒れた。
……思ったより簡単に終わって良かった。
社筑 :いえー!^^
ミナミク:おーーーーーーーー
コメントを流し見しつつ、状況を確認。
確実に3人とも気絶状態。……多分、死んでる奴はいないはず。
まあ本当に死んでても来週には復活するから気にするだけ無駄のはず。
とりあえず、女性の所へ近寄って状態を確認。
彼女もまた気絶しているようで反応がなかった。
赤毛の髪を片口で切りそろえている。
どちらかというと可愛いよりの顔立ちだが、多分俺よりは年上だろう。
細身の体だが男二人を倒しているわけで。恐らく見た目ほど弱くもないだろう。
「助けたは良いけど……どうしよう」
このまま衛視に引き渡そうかとも思ったが、逆に自分が怪しまれるかもしれない。
かといって、このまま放っておく選択肢もない。
蒼い稲妻亭に連れていくかと思ったが、大通りを歩く事になる。
気絶した女性を背負って歩く冒険者。どうみても怪しい人間だ。
もう一度、地図を確認し、どうしようかと思っていると、相変わらずルートは鍛冶屋を指していた。
「まあ、これしかないか」
俺は一人ごちりながら、気絶したままの女性を持ち上げる。
「お、リルムからは聞いてるぞ。お前がヨキだな」
「え、そうなんですか? 早いですね」
「あいつの使い魔が来たからな。……所でだな」
「はい。まあ言いたいことはわかりますが」
「ま、とりあえずそこに寝かせとけ。お前、変な事に巻き込まれたようだな」
「かもしれません」
その後は特に何事もなく鍛冶屋にたどり着く。
鍛冶屋の親父は思ったより豪快そうで助かった。
そう思いながら、女性をベッドに寝かすことにした。




