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エントゥリアスの騎士  作者: 日向 聖
第二章 聖獣の契約者
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暗闇の玉座-02

 パチパチと…爆ぜる音を立てながら燃え盛る篝火。

 水砂漠の“庭”の入り口を飾りるそこを過ぎれば、小さな泉の傍に赤々と燃える焚き火があった。

 その“庭”には、今のいままで誰かが居たかのような気配がそこここに残っていた。飲みかけの酒瓶、食べかけの串焼き。焚き火に掛けられている鍋はグツグツと音を立て、食欲をそそるスパイシーな香りを漂わせていた。

 一種、異様とも言えるその“庭の”状態は、まるで人の姿だけが忽然とかき消えてしまったかのようであった――。



 水砂漠を半分ほど過ぎた所で、ルシャスとリリティアは一晩の火を借りるつもりでその庭へと向けて足を進めた。

 水砂漠用に魔力が施された羅針盤を使えば、砂漠のオアシスである“庭”へと辿り着くのは容易である。ただし、それは道には迷わない…というだけの事であり、決して水砂漠を渡る旅路が楽になるというものではない。

 水砂漠を覆う熱と湿度、そして所々に潜む魔物や虫など、普通に街道をゆく旅と比べ、水砂漠を渡る旅は危険極まりないのだ。

 ましてや、今回二人には旅路を急ぐ理由があった。

 攫われた遠矢の命…だ――。

 最初にしたリリティアの見立て通りならば、魔物は彼を使い、彼が元いた世界へと渡るつもりという事になるだろう。そうなれば、遠矢の命があるとは思えなかった。

 寧ろ、生きていられては邪魔になるのだ。彼の魂が肉体を離れ、元の世界に忘れられた半分の魂の元へと帰るその時が、“界”の道を開く時なのだ。

 ジリジリとした焦燥に駆られながら、ルシャス達は旅路を急いだ。

 彼の星がまだ落ちていない事を励みに、彼と共にあると思われる深紅の呪謳士“リィース”の足跡を追ってきたのだ。

 ルントで遠矢が魔方陣へと消えてから既に六日。

 リリティアの星見と占術だけが、遠矢を追うただ一つの術となっていた。

 “庭”の入り口にある左右の篝火を超えた途端、二人を出迎えたのは一種異様な庭の姿であった。

 赤々と燃え盛る炎――。

 グツグツと湯気を立てる鍋。

 食べ食べかけのものも、飲んでいたものも…何もかもそのままにして、まるで人だけが忽然と姿を消したかのような“庭”――。

 ルシャスはゆっりと幅広の剣を引き抜き、辺りの気配を窺った。

 リリティアは右手をゆっくりと掲げ、詠唱を唱えた。


   血と水と――

   この世にありし盟約とに縛られし者達よ!

   我が声に応え ここに出でよ――!

   ムエルテ・モルテ・モルス――っ

   

 唱え終わると、地表が盛り上がり土をかき分けて骨となった指先が現れる。

 土から蘇った死者達は、土を吸い込み皮膚を再生していった。

 「ルシャス様――。気配は強いですわ……」

 「ああ」

 短く返事をした途端、右方向からそれは突然襲いかかってきた。

 キィン――っと鋼を弾く音がする。

 暗闇の中、銀光を放ちながら放たれたものは、巨大な鎌の形をしていた。

 剣でそれを弾き帰したルシャスは、右に旋回しながら剣を横に振るう。

 鋭い切っ先が薙いだのは、薄茶色をした六カ所の間接を持つ脚であった。

 ザザサッ――という音と共に、十二本の脚と鎌の形をした両前脚を持つ、巨大な魔物がその姿を現した。

 「なっ! よりにもよって、ジゾルだなんてッッ!!」

 言い様、リリティアは後ろに下がりつつ次の詠唱を唱えた。


   土塊と水と血によって造られし

   忠実なる僕よ――

   汝等に与えられし鋼を纏いて

   汝等が適を滅せよ――!

   ロムフ・ドリ・ジャヴェイロ――!!


 死者達の右手が上がり、身体の表面を覆う砂鉄がそこに集まってゆく。

 黒々とした砂鉄は、やがて槍へと姿を変えた。

 死者達の持つ何十本もの槍が、一斉に魔物へと向かって放たれる。

 空から降ってくる長い槍は、巨大な鎌を貫き、蠍のような魔物の身体を貫き、その巨大な身体を土へと縫い止めた。


 『ギギギィィィィィ――――ッッ!!!!』


 耳障りな叫び声を上げながら、自由になる部分を振って魔物が暴れ出す。

 長い尾が焚き火の炎を薙ぎ払い、辺りは月明かりだけとなった。

 「ルシャス様!」

 「解っている――。氷雪剣《ラーダ》」 

 ルシャスの声に応えるように、幅広の黒い剣はピキピキと音を立てながら氷を纏ってゆく。

 キラキラと、月上がりに剣に纏いつく霜が光を放った。

 「ハア――ッ」

 声と共に高々と飛び上がり、ルシャスは大剣をジゾルの頭へと突き刺した。

 頭を刺し貫かれたジゾルは、剣の刺さった場所から一気に凍り付いてゆく。

 やがて、ジゾルが動かなくなった事を確認し、ルシャスは剣を引き不抜いて地上へと飛び降りた。

 「ルシャス様、お怪我はありませんか!?」

 「ああ、問題ない」

 一つ吐息をはき出し、ルシャスは辺りを見回した。

 「ここに居た者全て、こいつの餌食になったか……」

 「そう…ですわね……。恐らく、そう考えるのが妥当かと思われますわ」

 ルシャスは足下に落ちていた子供の玩具を手に取り、微かに眉宇を寄せる。

 「こんな所にまで魔物が入り込んでくるとはな」

 「ええ。どうやら、何者かに結界を壊されたようですわ」

 自分たちを殺す為に、何の関係もない者達を巻き込む相手に、ルシャスは手にした玩具を強く握りしめた。

今回は久々にルシャス達の話です。遠矢との再会は、もう少し先になりそうです。

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