↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エントゥリアスの騎士  作者: 日向 聖
第二章 聖獣の契約者
18/21

奇妙な旅人-09

 水面のように刻一刻とその様相を変える水砂漠“ナダル”――。

 風に吹かれ、砂が波のようにうねりながら色を変えるその様は、まさに絶景としか言いようがなかった。

 見渡す限り辺り一面砂の海であり、青く澄んだ空は、地平線の彼方で薄いグラデーションとなり溶け消えている。

 そんな中を、駱駝に似た“マナク”と呼ばれる動物を引いた商隊が、隊列を成してゆったりと進んでゆく様は、まるで小さな頃に読んだ冒険小説の中の一場面のようであった。

 その時だった。右側の砂面から直径三メートルはありそうなマンタのような平べったい魚が飛び上がった。

 「あ、ラーノだ! 見てみて、リィース様! ラーノだよっ」

 マナクに乗ったリィースの膝に抱かれていたファラが、大きな声ではしゃいでいる。

 リィースはいつの間にか商隊から三頭のマナクを借り、彼らはまるで商隊の一員のように、隊列の最後尾を歩いているのだった。

 砂面から飛び出したラーノは、平べったい身体に二本の長い触角を靡かせ、空を飛びまた砂面へと潜ってゆく。何匹ものラーノが空を飛ぶ様は圧巻の一言であった。

 「へえ――。こいつは吉祥だな。ラーノの群れに出会えるなんてそうそうある事じゃないぞ。奴らは臆病で、こんな風に商隊が歩いている時に、砂面から飛び出してきたりはしないからな」

 そう言ってリィースはファラの髪を撫でる。

 ファラはくすぐったそうに目を細めながら、リィースの話を聞いていた。

 「いいもんも見れたし、折角だからこの旅路の安全を祈ってやるか――」

 スウっと息を吸い込み、リィースは口ずさんだ。

 


 神は何処ぞ 四方の神々

 太陽に戯れし白き御影ぞ 恐るるに非ず

 黒き翼持ちて指先触れしは 小さき者

 息吹触れしは 御方の言の葉

 夢と能わす 美しき御影よ

 我ら小さき者なりて その足下に羽を休めん



 それは不思議な歌であった。

 リィースの銀鈴にも似た声音が、歌を紡ぐ度、キラキラとした金色の光が空が舞い落ちてくる。

 光は商隊全体に降り注いでいた。

 ふわふわと落ちてくる光に手を伸ばせば、それは触れると同時にすうっ――と暖かな感触を残して消えてゆく。

 歌に気づいた商隊の者達が、空から降ってくる光に頬を緩め、ありがたい…と口々に礼を述べた。あの幻想を見せる歌とはまた違うそれは、彼らの疲れを癒やし、歩みを更に進ませた。

 太陽が一番高い正午過ぎ、隊は幌を立て、マナクの上に座ったまま休憩を取った。

 隊のあちこちで、今回は運が良いと喜ぶ声がする。リィースのように強い術師が旅に加わってくれる事は滅多になく、ましてや癒やしの歌など歌ってくれる事などまずない。リィースが今回隊にしてくれている事は、破格な事なのであった。

 「おい、お前…大丈夫か?」

 そよぐ風に身を任せていると、リィースがそう遠矢に問いかけてくる。

 「え?」

 言ってる意味が解らなかった遠矢が首を傾げると、リィースは僅かに眉宇を寄せた。

 「お前、朝よりも顔色が悪くなっているぞ?」

 言われ、遠矢はますます戸惑った。

 特別に体調が悪い所があるわけではない。どこも痛くはなく、気分も悪くはない。

 いや…寧ろ気分は今までにないほど良いのだ。

 じっ――とそんな遠矢を見ていたリィースは、訝しげに瞳を細める。

 「いや。顔色が悪いんじゃないな。肌の色がどんどん白くなっていってるようだ……。それに…顔つきも変わってきてないか?」

 朝、泉で己の顔を映し見た時に感じたのと同じ事を指摘され、遠矢はゴクリ…と喉を鳴らす。

 「――お前はやはり“渡り人”なんだな……」

 初めて聞く言葉に、今度は遠矢が眉宇を寄せた。

 「最初に歌ってやったろう? 創世の歌を――」

 言われ、遠矢は思い出す。最初にリィースが歌ってくれた時に“お前の為の歌だ”と確かに彼は言ったのだ。

 「創世の歌で歌われる一節、異界の玉座とは異世界の事だと言われている――」

 そう言って、リィースは彼の知っている創世の話をしてくれた。


 かつて、世界を呪った男が居た。

 その男は魔道士としては破格の力を持っていた。

 神を、人を、ありとあらゆる存在をも呪った男は、異界の扉を開き魔物をこの世へと引き入れ、そして世界は――滅ぶ寸前に追い込まれる。

 神の名代としてエントゥリアスの王を務めていた白銀の騎士は、アスティア大陸の者達と強力し、かつて空に浮かんていたと言われている浮遊大陸ごと、魔物たちを時空の狭間へと封印した。その反動で、エントゥリアスに居た者たちは、白銀の騎士共々異界へと飛ばされたと言われている。

 “渡り人”とは、その異界から真実のこの世界へと戻ってきた者の事を言うのだ。

 だから、この世界へと戻ってきた魂は、真実の…この世界にいた当時の姿を取り戻してゆくのだ。

 自分もそうなのだ――と言われ、遠矢は震える指先を握りしめた。

 “渡り人”は帰ってくるのだ。

 つまり――元の世界へと戻る道はない。

 足下が崩れてゆく恐怖に、遠矢は血が滲むほどに強く唇を噛みしめた。

これで、奇妙な旅人は終わりです。次から新しい章になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。