奇妙な旅人-08
砂漠で目覚めてらか三日目の朝、ファラに起こされたトーヤは、リュゼが黙々と荷物を片付けて、旅立ちの準備をしているのに気づいた。
「ほら――」
そう言ってリィースから渡された食事を採っていたトーヤは、戸惑いも露わに彼に問う。
「ここを出てく――んですか……?」
普段通りに喋ろうとして、慌てて敬語に置き換えるトーヤに、リィースは笑った。
屈託のない笑い顔は、彼を子供っぽく見せる。
「無理して丁寧に喋る必要はねえよ。俺も口が悪いしな」
リィースがそう軽口を叩くと、リュゼがピシャリと釘を刺す。
「貴方はもっと丁寧に喋る努力をして下さい。無法者のようなしゃべり方では、一族の者に示しがつきませんっ」
「ああ~~はいはい」
「リィース様ッ」
二人のやり取りにクスリ…と笑い、トーヤは食べ終えた食器を泉で荒い、リュゼへと返した。
受け取ったそれを荷物袋へと仕舞い、リュゼはトーヤを見下ろす。
「とっとと支度をしたらどうだ? このまま置いて行かれたいのか?」
周りを見回せば、幾つもの商隊が出立の準備をしている。
自分も連れて行って貰えるらしい…と、トーヤはホッと吐息をつく。
どちらしても、彼らの主人であるらしいリィースに話をして、旅に連れていって貰うつもりであった。
ただ、トーヤには旅を続けるだけの金も装備もない。
そんな者を彼らが親切に連れて行ってくれると了承してくれるのかどうか、かなり不安ではあった。
かと言ってここに一人で置いていかれたとしても、生きていけるだけの術はない。また、水を含んだ砂漠など歩いた事もないトーヤには、一人でこの“庭”と呼ばれる緑地を出ていく事すら難しいのであった。
「ありがとう…ございます」
礼を述べると、リュゼは僅かに眉を上げる。
「礼なら我が主に言え。あの方が連れていくと言わなければ、私はお前を連れていくつもりはなかった。――いや、むしろファラに感謝するのだな。お前を拾ったファラが連れていく…というから、リィース様も連れて行く気になったのだろうから――」
淡々とした言葉は、どこか辛辣ですらあった。自分は何か彼に嫌われるような事をしただろうか…と、トーヤは戸惑う。
次の言葉を探しあぐねていると、昨夜彼らに歌を強請った男が彼に話しかけてきた。
「兄さん。あんたの弾く琴も素晴らしく良い音だった。本当にありがとう。どこかで歌う事があったら、またぜひ聴かせてくれ」
熱心に話す男を、リュゼは素気なくあしらう。
どうやら、彼はトーヤが気に入らないというわけではなく、人間そのものが嫌いなようであった。
「ねえねえ、トーヤ」
足下から愛らしい少女の声が聞こえ、トーヤは足下を見下ろす。
ふわふわと桃色の髪が揺れた。
「トーヤは“シュオール”に行ったことある? ファラはね、まだないの。リィース様は、とっても大きな街だっていうの。ほんとだとおもう?」
愛らしく首を傾げる少女に合わせ、トーヤはしゃがみ込んだ。
「俺も行った事ないな。見てみるのが楽しみだ」
「うんっ。ファラも楽しみ~~」
笑う少女に、トーヤは先程リュゼに言われた事を思い出す。
「――ありがとうな、ファラ。俺のこと拾ってくれて。お陰でこんなとこで死ななくて済みそうだ」
「んう?」
「いや。なんでもない」
柔らかな髪を撫でると、ファラは怪訝そうにトーヤを見つめた。
「トーヤ。どこか痛い?」
「いや。どこも痛くないよ?」
「うー……でも…トーヤ…お顔が白いよ?」
「え……?」
心配そうな顔で告げる少女の言葉に、トーヤは慌てて泉の水面に顔を映した。
「――――?」
水面に映るのは、いつもと同じ顔なのに、どこか…何かが変だった。
『俺…こんな顔してたか??? それに…やけに肌が白いような……』
訳の分からぬ恐怖が、足下からゆっくりと這い上がってくるのをトーヤは感じていた。
短いですが、一旦アップします。




