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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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82話 vs 水精霊②

天城ひなたは前へ出た。

水精霊は左右に割れながら迫ってくる。

だが、二つに見えても流れは一つだった。


右が先に崩れる。

左が遅れて寄る。

その全部が、同じ場所へ戻ろうとしている。


大鎌を振る。

形を刈らない。

戻る先を横から断つ。


水が弾ける。

手応えは浅い。

それでも今までとは違った。

散った飛沫が、一瞬だけ戻れずに空中で迷う。


全部、そこに引かれている。


水精霊が腕を広げる。

周囲の水帯が一斉に走る。

軌道がずれる。

一度目が通り過ぎ、遅れて同じ軌道が戻ってくる。


ひなたは踏み込んだ。

一つ目をかわす。

二つ目を大鎌の柄で受け流す。

三つ目が半拍遅れて脇腹を打った。


息が詰まる。

足が流れる。

踏んだ位置がずれる。

さっきまでの場所に、遅れて水槍が突き立つ。


怖い。


見えているのに、合わない。

避けたはずの場所に、後から攻撃が重なる。

時間ごと引き戻されるみたいに、軌道が重なってくる。


それでも、分かる。


この相手は刈っても減らない。

崩しても終わらない。

戻る場所が残っている限り、何度でも形を作り直す。


だから断つのは、そこだ。


ひなたは深く息を吸う。

大鎌の刃先を少しだけ下げる。

水精霊そのものではなく、その奥を見る。


足元を回る水の帯。

散った飛沫。

崩れた腕。

全部が、ほんの一瞬だけ同じ一点へ引かれていた。


水精霊がまた崩れる。

肩がほどける。

首が落ちる。

胴が裂ける。


だが、消えない。


戻る。

全部、そこに戻る。


ひなたは床を蹴った。

正面ではない。

半歩外す。

さらに半歩ずらす。


遅れて、さっきまで立っていた場所を水槍が貫いた。


今だ。


大鎌を振る。

一点へ向けて、斜めに。

水精霊の胸ではない。

その後ろ、何もないはずの空間へ。


水が裂けた。

初めて、戻りが止まる。

輪郭がぶれる。

人型が一瞬だけ崩れる。


視界の端にカメラが滑り込む。

ひなたを映し、すぐに引く。

コメントが流れる。



「そこなの!?」


「本体じゃないのかよ」


「今の止まった!」



ひなたは答えない。

呼吸を整える。

視線を外さない。


水精霊が膨らむ。

周囲の水が持ち上がる。

圧が増す。

逃げ場がなくなる。


次の瞬間、全部が落ちた。


上。

横。

足元。


さらに遅れて、同じ場所へもう一度。


ひなたは走る。

一歩目をかわす。

二歩目で床がずれる。

着地が噛み合わない。


三発目が来る。

受けるしかない。


大鎌の柄で受ける。

重い。

腕が痺れる。


さらに遅れて、もう一度衝撃が返る。

同じ軌道。

同じ重さ。

今度は肩へ入った。


ひなたの体が吹き飛ぶ。

床を転がる。

視界が揺れる。


それでも、手放さない。

大鎌だけは離さない。


仰向けのまま、水精霊を見る。

輪郭は揺れている。

だが、さっき断った場所だけ戻りが遅い。


そこだ。


頭じゃない。

身体が先に理解する。


ひなたは立ち上がる。

膝が震える。

脇腹が痛い。

肩が重い。


それでも、止まらない。


息を吐く。

吸う。

整う。


力を込めない。

振りかぶらない。

無駄が、消える。


ひなたは小さく息を吐いた。



「……これなら、届きます」



水精霊が正面から来る。

崩れながら。

増えながら。

遅れて戻りながら。


ひなたは形を見ない。

流れだけを見る。


戻る一点。


そこに、重なる。


一歩。

半歩。


踏み込んだ瞬間、足元の床が砕けた。

空気が押し潰される。

重さが一瞬だけ集まる。


次の瞬間、すべてが消える。


最短。


『月刈・断』


大鎌の刃が、低く弧を描いた。


音は遅れて消える。

衝撃もない。


ただ、水精霊の中心だけが切り離された。


輪郭が崩壊する。

腕も胴も頭も、ばらばらにほどける。


だが今度は戻らない。


散った飛沫が一点へ集まれない。

ぶつかり合い、形を失う。

水のまま落ちる。

ただの水になって、足場へ広がる。


終わりが見える。


だが、水がまだ動く。

残った流れが、無理やり形を作ろうとする。


ひなたは迷わない。

崩れた中心へ踏み込む。

残った一点へ、もう一度だけ刃を入れる。


大鎌の内刃が水柱を引っ掛け、そのまま横へ刈り払う。


水柱が割れる。

内部から白い泡が噴き上がる。

遅れて、すべてが崩れ落ちる。


今度こそ、戻らない。


水精霊は足場に広がり、そのまま光を失った。

揺れていた輪郭も、遅れて来る衝撃も、すべて消える。


ひなたはその場に膝をついた。

呼吸が荒い。

腕が震える。


それでも、顔を上げる。


カメラが戻る。

コメントが流れる。



「今の何!?」


「速すぎて見えなかった!」


「一撃で終わったぞ」



ひなたは中央空域を見る。


その瞬間、ルナリアの周囲で空間が軋んだ。

距離が歪む。

足場の位置が一瞬だけずれる。

遠くが近くなり、近くが遠ざかる。


歪みが、明確に増えている。


ひなたはゆっくり立ち上がる。

大鎌を握り直す。

息を整え、短く言った。



「……もう外しません」

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