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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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66話 見えないまま戦う

俺たちはそのまま、観測不能領域の奥へ進んだ。


見ない。

焦点を合わせない。

呼吸と足音のリズムだけを揃える。


それだけで、生存率が変わる。

だが楽になるわけじゃない。

むしろ、気持ち悪さは増していた。


石床を踏む。

着地する。

その間に、わずかな遅れがある。


身体が今どこにいるのか。

感覚だけでは断言できない。

輪郭だけが半歩ずれている感覚が続く。


前を行く凛は安定している。

雪那は最小限の動きだけで進んでいる。

ひなただけが、まだリズムを掴み切れていない。


俺は振り返らずに言う。



「合わせろ。焦るな」



ひなたが息を乱しながら返す。



「分かってます……でも、怖いです」


「怖くていい。見るな」



短く言って、次の足場へ飛ぶ。

視界の端で輪郭だけを拾う。

それで足りるはずだった。


だが、足りなくなり始めていた。


前方の足場が、一瞬だけ近づく。

次の瞬間には元に戻る。

位置だけじゃない。

噛み合いそのものがずれている。


凛が低く言う。



「さっきよりズレが大きい」



雪那が続ける。



「このままでは押し切られる」



俺は足を止めずに言う。



「ズレは無視しろ。合わせようとするな。流れに乗れ」



凛が短く返す。



「了解」



ひなたも続く。



「やります」



その直後だった。


空気が揺れる。


見えない。

だが、来る。


凛の体勢がわずかに崩れる。

足場はある。

それでも身体の位置だけが外へ滑る。


俺は踏み込む。

距離が足りない。

タイミングも遅れている。


間に合わない。距離も、タイミングも足りない。


そう確信した瞬間だった。


凛の短剣が足場に向かって振られる。

固定するはずの動き。


だが、刃は空を切る。


凛の身体が完全に傾く。


俺はさらに踏み込む。

肩に触れるつもりで手を伸ばす。


届かない。


次の瞬間、凛の身体が足場の内側へ戻っていた。


遅れて、手のひらに重さが乗る。


一瞬だけ、動きが噛み合った。


俺は一歩遅れて膝をつく。

呼吸が乱れる。


今のは、ただタイミングが噛み合っただけだ。


思考を切る。


凛が息を整える。



「……助かった」



ひなたが後ろで声を上げる。



「今の、ギリでしたよね!?」


「進むんだ」



短く言う。


余計なことを考えるな。

ズレは続いている。

一つ一つ拾っていたら持たない。


雪那だけが、わずかにこちらを見る。

だが何も言わない。


そのまま進む。


トン、トン、トン。


靴底と石が触れる音だけが、かろうじて一定を保っていた。


前方に影が揺れる。


三体。


細長い身体。

膜のような翼。

輪郭が安定しない。


魔物だ。


凛が呟く。



「見えない」



雪那が即座に返す。



「見なくていい。流れを取る」



ひなたが大鎌を握り直す。



「それ、難しいですって……!」



一体が突っ込んでくる。


俺は見ない。

風の流れだけを拾う。


左。

そう判断した瞬間、頬の横を圧力が抜ける。


凛が斬る。

軌道は正しい。

それでも輪郭をすり抜ける。


雪那の氷が走る。

一体の動きを鈍らせる。

完全には止まらない。


ひなたが踏み込む。


大鎌を振り上げる。

その瞬間、二体目が横から入る。


見えない。


間に合わない。


そう思った瞬間、身体が動いた。


ひなたの肩を押す。

進路がわずかにずれる。

横からの圧力が空を切る。


大鎌が落ちる。


鈍い衝撃。

一体が砕け、黒い粒子になって散る。


ひなたが目を見開く。



「え……?」



俺も同じだった。


今のは、ただ運が良かっただけだ。


そう結論を置く。


考えるな。

今は進むことだけを優先する。


残る二体が距離を取る。


凛が踏み込む。

見ずに斬る。

一体、消える。


雪那の氷が最後の一体を縫い止める。

ひなたが叩き割る。


戦闘が終わる。


全員の呼吸が荒い。


俺は奥を見る。

正確には、見ない。


それでも分かる。

さらに深い場所に、より強い歪みがある。


ひなたが息を整えながら言う。



「今の、本当にギリでしたよね……」



「そうだな」



それ以上は言わない。


ズレているのは空間だけだ。

そういうことにしておく。


トン、トン、トン。


足音を揃える。

呼吸を合わせる。


それだけを繰り返しながら、俺たちはさらに奥へ進んだ。

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