54話 見えている位置がズレている
風が、変わった。
前方の空気がわずかに沈む。
次の浮遊島へ飛ぶ直前だった。
俺は足を止める。
浮遊島の縁。
その向こうで、影が動いた。
羽音が重い。
鳥じゃない。
緑色の鱗が光を鈍く弾く。
細長い首。
硬い尾。
翼を広げた影が、三つ。
ワイバーン。
全部がこちらを捉えている。
ひなたが息を呑む。
「え、竜じゃん……!」
凛が一歩前に出る。
雷の気配が細く走る。
「任せて」
「私達の本来の強さ、見せる」
雪那も並ぶ。
視線はすでに敵を測っている。
コメントが一気に流れた。
「雑魚モンスターで竜系統かよ!」
「難易度おかしいだろ」
「ボス前座の面してない」
「空の迷宮バグってる」
俺はワイバーンを見ない。
足場を見る。
風を見る。
崩壊の順序を読む。
今の足場もすぐ崩れる。
次は右から崩れる。
中央は一瞬だけ残る。
三手先まで固定できる。
順番は読める。
使える。
一体目が突っ込んでくる。
一直線。
速いが、軌道は素直だ。
凛が踏み込む。
「雷閃」
発動が見えない。
閃光が走り、首元で火花が弾ける。
ワイバーンの姿勢が崩れる。
止まらない。
続けて撃つ。
「雷閃」
「雷閃」
同じ箇所を削る。
だが、まだ落ちない。
鱗が硬い。
コメントが跳ねる。
「耐えるのかよ」
「雑魚の耐久じゃない」
「首焼いても落ちねえ」
二体目が横から回る。
高度を上げ、死角へ入る。
その進路を雪那が先に塞ぐ。
空中に細い線が張られる。
「氷糸結界」
ワイバーンが突っ込む。
翼が絡む。
ほんの一瞬だけ止まる。
その一瞬で十分だ。
凛が撃ち抜く。
「雷閃」
硬直。
飛行が崩れる。
三体目が口を開く。
風が集まる。
吐く気だ。
俺は足場を見る。
左から消える。
「右に寄れ。
三秒後、左が消える」
ひなたが即座に動く。
「分かった!」
凛と雪那も戦いながら位置をずらす。
直後、さっきの位置が消えた。
コメントが流れる。
「環境の方が敵」
「戦闘どころじゃない」
「指示ないと無理」
一体目が再突入する。
首元を焼かれても止まらない。
凛が距離を保つ。
削り続ける。
「雷閃」
「雷閃」
まだ落ちない。
だが、確実に鈍っている。
「雷網」
雷が広がる。
ワイバーンが正面から触れる。
全身が跳ねる。
翼が乱れる。
高度が落ちる。
そこへ雪那が重ねる。
「氷牢・静」
片翼が凍りつく。
完全には止まらない。
だが、もう飛べない。
落ちる。
ひなたが前に出る。
踏み込みが大きい。
振りかぶる。
遅い。
大鎌が空を切る。
ワイバーンが尾を振る。
ひなたの動きが止まる。
コメントが流れる。
「惜しい!」
「今の当てたかった」
「火力役外した」
ひなたの呼吸が荒れる。
肩に力が入る。
このまま振れば、また外す。
二体目が暴れる。
氷糸に深く絡む。
雪那が立ち位置を半歩ずらす。
逃げ道が完全に消える。
凛が削る。
「雷閃」
「雷閃」
「雷閃」
三連。
倒さない。
削り切る。
雪那がさらに空間を絞る。
「氷糸結界。
翼、止めるわ、氷牢・静」
凍結。
二体目も落ちる。
ひなたが構える。
振りかぶらない。
動きが小さい。
俺は短く言う。
「引きつけて、一歩」
ひなたが息を止める。
落下してきたワイバーンが爪を伸ばす。
その瞬間、踏み込む。
一歩だけ。
大鎌が最短で走る。
鈍い手応え。
鱗が割れる。
首が折れる。
地面に叩きつけられた。
「……今の、当たった」
届く位置を理解した。
残り一体は限界だった。
首を焼かれ、翼を凍らされてもがく。
雪那が終わらせる。
「氷糸結界」
逃げ道を閉じる。
凛が撃つ。
「雷閃」
動きが止まる。
ひなたが踏み込む。
迷いがない。
軌道が短い。
叩き込む。
頭部が石床に沈む。
静寂。
コメントが爆発した。
「ひなた伸びてる!」
「今の完全に別人」
「連携えぐすぎる」
「雑魚戦のレベルじゃない」
ひなたが大きく息を吐く。
肩の力が抜けている。
だが、足場の右端に亀裂が走る。
予定より早い。
振動で崩壊がずれた。
順序が変わる。
前を見る。
次の浮遊島。
その縁で空間が歪む。
崩壊とは違う揺れ。
カメラが勝手に動く。
俺達じゃない方向を向く。
視界の端の表示が先に崩れる。
現実より一瞬早く。
コメントが、一拍遅れて流れた。
「今の何?」
「画面バグった?」
「位置おかしくね?」
俺は息を整える。
これは遅延じゃない。
ズレている。
見えているものと、実際の位置が。
「……次、来る」




