異変
朝は思ったよりも静かにやってきた。
でもいつもとどこか違う。
床が硬い。
座ったまま寝ている。
隣でダリアさんが寝息を立てている。
──そうだ、今は試験中だ。
私はバッと立ち上がり、設備管理エリアの出入口に向かう。
そこには見張りをしてくれていたルーカスさんとノアさんが並んで座っていた。
「あの、ごめんなさい、もう交代ですよね?」
「いや、もう朝だし見張りは終わりにしよう」
ノアさんが私の方を向いて話しかけた。
腕時計が振動する。私が腕時計を確認すると、
【残りグループ数:11】
数字は、最後に腕時計を見た時からさらに減っていた。
「だいぶ減ったよな。最初は21チームあったってこと考えれば」
ルーカスさんが呟く。
「あ、やっぱみんな起きてたか」
後ろから声がした。振り返るとそこにはダリアさんの姿。
「今日はどうするの?」
「昨日はこれで乗り切れたし、このままの作戦でいいんじゃないかな」
「賛成。わざわざ戦う意味あんまねーし」
「私も同じこと思ってた。勝手にグループ減ってくれたらありがたい限りだしね」
三人の言葉を聞き、私はミニマップを開く。
自分たちの位置のみ表示される簡素な画面。
敵の位置はわからない。
だからこそ、音と痕跡が重要な情報になる。
「東棟は危険域の可能性が高いです」
「あー、昨日のガラス音か」
「昨日あっちですごい音してたしね」
「だから今日は、西側に回って動いてるグループを観察したらいいかなと思うんですけどどうですか?」
「いいんじゃないかな。僕も同じようなことを考えてたよ」
ダリアさんとルーカスさんも賛成だ、と言わんばかりに頷いた。
こうして、2日目が始まった。
窓から差し込む太陽光が、私たちと廊下を優しく照らす。
私たちは、その廊下を足音を殺して歩いていた。
誰もいないのに、どこかで誰かに見られているような気がしてずっと落ち着かない。
あまり動くと他グループに気づかれてしまう、そう分かっていても周囲を見渡さずには居られなかった。
「いた。次の観測グループはこのグループにしよう」
ノアさんの視線の先には確かにグループがいた。
四人ではなく三人で行動している。一人だけ別行動をしているのか、脱落してしまったのか。
私は三人の行動ルートに注視しながら静かに歩き、追いかける。
背中に、妙な違和感が走る。
何かがおかしい。
私は足を止めた。
「……どうした?」
「いえ、なんかちょっと……」
言いかけた瞬間、影が落ちた。
上だ。
気づいたときにはもう遅かった。
天井付近の窓枠から人影が落ちる。
次の瞬間、鋭い衝撃が私にかかる。
息が詰まる。
視界がぐらりと大きく揺れる。
「トモリ!!」
誰かの叫び声が遠くで聞こえる。
私の身体は床に叩きつけられた。
ぼんやりとした意識、そして視界の中で襲撃者の顔が見えた。
不思議そうな表情の少女。
白髪が私の視界を掠める。
「へえ、意外と避けないんだ」
一年A組、アリシア・シャロンさん。
私と同じクラスの少女だった。
そこで、私の意識は途切れた。




