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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
国務四課統理育成選抜試験編
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迫り来る選択

作戦会議は続いた。


だが、先程までのように全てを言葉で詰めるような空気ではなくなっていた。


班分けが決まった瞬間から、話は現実的な方向に歩みを進める。


「侵入経路は正面じゃない。待ち伏せの可能性が高いからだ。敵役が十名いるならほぼ確実に入口を塞ぐ」


「裏口から行くってことかい?」


ノアさんが首を傾げる。


「裏口か搬入口がいいんじゃないかしら。病院には必ず物資搬入用の通路があるから」


グレイスさんが提案をする。


「そんなの気にしなくていい!」


ヴィクターさんがまた叫び出す。


「正面突破すれば全部解決!しかも暴れられる!」


「うるさい」


ルーカスさんが即座に言い出す。


「暴れるのが目的じゃねえ。任務達成が目標だっつってんだろ」


「暴れた方が早いだろ!」


「お前の頭の中ではな!」


ダリアさんが苦笑いしながら言った。


「とりあえず、裏口からの侵入の方が安全そうだね」


「そうだ」


アッシャーさんは頷く。


「救出班は裏口から侵入し、人質の確保を優先する。制圧班は少し遅れて正面から突入。敵を引きつけろ」


「なるほど、陽動か。ルーカス達なら適任だね」


ノアさんが小さく笑った。


「適任って言うな」


ルーカスさんが不機嫌そうに言う。


「俺らが暴れ役ってことだろ!?最高じゃねえか!」


ヴィクターさんがまた騒ぎ出す。


「暴れるな。潰せ」


アッシャーさんが冷たく釘を刺す。


「敵役の幹部を落とせば統率は崩れる。救出班が動きやすくなる」


「誰を優先的に潰せばいい?」


ダリアさんが問いかけた。


確かに、どの幹部を優先的に潰すかで戦い方は大きく変わる。


「幹部の権理の詳細が明かされていないからなんとも言えないが、全体に指揮をしているような奴は真っ先に潰せ」


「合流地点はどこにするの?」


グレイスさんがそう言うとアッシャーさんは持っていたペン先で病院の中央を指した。


「中央階段付近、もしくは建物の中心だ。どちらの班も戻りやすい」


「じゃあ私たちは人質を確保したら、そのどちらかに行けばいいってことね」


「そうだ。そこから撤収地点まで護送する」


先生から任務の内容を聞かされて数分とは思えない計画の綿密さ。


誰もが頷くしか無かったその時。


「でもぉ、もし人質が別々の場所にいたらぁ?」


リーシェさんの質問で、場が一瞬固まる。


アッシャーさんはすぐに答えた。


「確かにその可能性は高い。だから救出班は二手に別れる。トモリとノア、グレイスと俺だ」


アッシャーさんと一緒に行動する訳では無い。


けどこの作戦は、必ずどこかで私とアッシャーさんを近づける。


そんな予感がした。


「これで決まりだ。明日の朝八時半に集合だ。装備確認後、現地へ移動する」


短い。


でも決めるべきことは決めた。


ヴィクターさんが大きな音で椅子を引き叫ぶ。


「よし!明日暴れるぞおおおおおお!」


「暴れるな」


ルーカスさんが即座に言う。


「暴れるぞおおおおおお!」


「話聞け!」



















資料室には、ほとんど人は残っていなかった。


ホワイトボードに残った図や筆跡がやけに現実味を持ってそこにある。


作戦会議のときの熱はとうに冷めており、残っているのは静けさと重さだけだった。


「トモリ」


突然名前を呼ばれる。


声のした方を向くと、そこにはアッシャーさんがいた。


他の人たちは既にこの部屋を出ており、完全に二人きりの空間だった。


「……何ですか?」


声が少しだけ固くなってしまう。


アッシャーさんは軽く周りを見渡した。


まるで、他の人に聞かれたくない話をするかのように。


「蒼理について忠告がある」


「忠告?」


アッシャーさんは軽く頷く。


「お前の蒼理は異常だ」


そんなの、分かりきっている。


何度も言われてきたのだから。


でも、この人の口からそこ言葉が出てくると意味が少し違って聞こえる。


「あの炎は周囲の熱を奪って燃焼を成立させている。火炎ではなく、『欠損』に近い現象だ」


私は唇を噛む。


統理庁でも全く同じことを言われた。


「本題はなんですか?」


行ってから、自分の声が震えていることに気がついた。


アッシャーさんは答えなかった。


代わりに私の顔をじっと見つめる。


観察するように。


「俺が言いたいのは『代償』があるかどうかだ」


代償。


重い。


嫌な予感がする。


「代償……って、どういうことですか」


アッシャーさんはホワイトボードの図に視線を落としたまま続ける。


「権理は理を歪める力だ」


「歪めた分は、必ずどこかに返ってくる」


「反動で済む場合もある。だが、そうじゃない場合もある」


私はその言葉を、理解したくなかった。


でも、理解してしまう。


蒼理は普通じゃない。


普通じゃないものには、必ず代償がある。


そういう世界だ。


「蒼理は、理そのものを崩している」


アッシャーさんの声が続く。


「だから何かを削っている可能性が高い」


削る。


その言葉で、喉がきゅっと締まる。


「……何を」


聞きたくないのに、聞いてしまう。


アッシャーさんは一瞬だけ間を置いた。


そして、はっきりと言った。


「お前自身の何かだ」


その瞬間。


心臓が一回、大きく跳ねた。


息が止まる。


頭の中が一瞬だけ真っ白になる。


「……私、ですか」


声がかすれる。


あの力は、私の何を代償にしているのだろう。


アッシャーさんは否定しない。


肯定もしない。


ただ淡々と続ける。


「可能性の話だ」


その言葉が一番残酷だった。


否定でもなく、確定でもない。


逃げ道だけ残したまま、出口を塞いでくる。


「……どうして蒼理の解析が遅れているのか分かるか?」


突然、そんなことを言われた。


「それは……他の権理とは違う性質を持っているから、じゃないんですか」


「それもあるが─────観察記録が圧倒的に少ないからだ」


アッシャーさんは続ける。


「お前が蒼理を使っていたのは精々三分程。加えて蒼理を使った戦闘はしていない。情報が少なすぎるんだ」


アッシャーさんは腕を組む。


「自分の払っている代償を早く知りたいなら、自分で蒼理を使うのが最短ルートだ」


残酷な言葉。


何を代償にしているか分からない状態で、代償を払う行為をする。


本当に意地悪な事を言う。


試されているようだ。


「最終的にどうするかは、他でもないお前が決める事だ」


そう言ってアッシャーさんは資料室を出ようとする。


「トモリ」


また名前を呼ばれた。


「お前はどの選択をする」


冷静な目。


でもその奥にほんの少しだけ『確認』をしているような色が見えた。


これは問いかけじゃない。


試されている。


私は喉を鳴らした。


言葉が出ない。


蒼理。


代償。


私の力。


私の武器。


でももしそれが、私を壊すものなら。


私は─────。


「……分かりません」


辛うじて口にすることができた。


アッシャーさんは少し間を開けてから呟く。


「それでいい」


意外な言葉だった。


試している人の言葉には思えなかった。


「分からないままでいい。ただ……」


一拍置いて続ける。


「明日までに決めろ」


時間は止まらない。


待ってくれない。


逃げ道もない。


アッシャーさんは資料室を出る。


私は気づいた。


この人は助けている訳じゃない。


守っている訳でもない。


ただ見ている。


観察している。


結果を待つ研究者のように。


扉が静かに閉まる。


残されたのは私だけ。


私はその場から動く事ができなかった。

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