40.悠久を謳う徒花(下)
Tips:冷花のプロフィール
・173cm52kg
・長い白髪を高い位置で纏めている女性。物腰柔らかく親しみやすい人柄で、行く先々で慕われており、結婚を申し込む男性も多かったとか。
・能力:『雨乞』
自身の周辺で雨を降らせる常在能力。影響範囲は時と場合により疎らなのだが、常在能力である都合上コントロールが出来ず、長期間滞在すれば寒冷化と堆積する雨雲に紐づけられた嵐により作物や家畜に甚大な影響が出るため、発現後は浮浪を余儀なくされた。
・好物はポテトサラダ。
「これは...?」
天井に穴が空いた洞窟の最奥に辿り着いた有巣、無堂、井桁、そして天道。
そこには、巨大な氷に覆われた白い龍が眠っていた。
「永久氷塊。魔力を帯びた、解けない氷だな。」
氷に触れる有巣。
「触って大丈夫なんですか.....?」
無堂の心配をよそに、有巣は『 』で氷を砕く。
すると、白い龍が支えを失って倒れた。
「...死んでる?」
井桁が訊くが、有巣は首を横に振る。
「いや、生きてる。けど爬虫類だからな、覚醒まで時間が掛かるんだろう。」
「変温動物に見えますし、私たちとは違って低音だと活動出来ないんでしょうか。」
有巣に声を掛けられ、無堂は『解析』を起動する。
「『超速再生』...?」
「天道姉以外にもいたのか。」
「というか、人外でも人と同じ能力を持つことがあるんですね。」
有巣が触れると、ぐしゃ、と音がして龍が粉砕される。
「まぁ、常在能力だからな。」
「常在能力?って何です?」
「脳にある松果体に核が無い能力。『超速再生』と『恵体』がそれにあたる。」
「なるほど。脳を破壊されても使用出来る能力ってことですね。」
「まぁ...そうなるな...」
静かな時間が流れる。
「有巣さん?」
「妙だと思わないか。」
「妙?何がですか?」
有巣は立ち上がり、振り向く。
「龍の目撃情報だよ。コイツは永久氷塊で封印されてたのに、龍が目撃されたのはおかしいだろ。」
「それもそうですね...ということは別個体?」
「あ、あの...」
その時、天道が挙手する。
「どうした?」
「その、『呪手』を置かなきゃいけないんですよね。じゃあ、か、過去に飛んだ私かもしれない...ですね。」
「あ〜...あぁ!確かに!」
「繋がりましたね。良かった良かった。」
「んじゃ、始めようか。無堂もやる?」
「やめておきます。」
「そうか。」
能力を用いて有巣と天道が上昇する。
2人はかなり高い位置で静止し、周囲に熱を発し始める。
雑音。次の瞬間、有巣は白い首長獣に、そして天道は黒い龍に変化する。
「なるほど。天道さんが神化すると龍の姿になるんですね。」
そして、上空に雲が集まるとほぼ同時に有巣と天道の砲撃が衝突する。
衝撃。激しい光を伴い、2人の姿が消えた。
「...大丈夫ですかね。」
「多分...?」
幼い頃から、私は“天才”と言われ続けて来た。
私はそうは思わない。人との会話なんていつまで経ってもまともにできないし、どんくさくてすぐに転ぶし、勉強も全然できない。けど、楽器とか、絵とか、役に立たないことばかり褒められて、「勉強なんてできなくてもいいじゃん!」って。みんな知らない顔で。
怖かった。みんな私に優しくて、でも私は何も返すことができなくて。失望されるのが怖かった。
いつの間にか孤立していた。ただ一言、「私も混ぜて」が言えなくて。先生から「無理しなくていいんだよ」と言われたのも辛くて。一人でも平気なフリをした。強がったせいで、人と関われないまま高校生になってしまった。
ある日、お姉ちゃんが友だちを連れてきた。人形みたいに綺麗な顔の女の子...かと思ったら、声がめちゃくちゃ低くてビックリした。目の下にクマがあって、苦労したんだなぁ、と感じた。
有巣さんは私に何も求めなかった。能力は強いと褒められたけど、それ以上に「どんくせぇな」とイジられたのが嬉しかった。私も友だちとか作れるんだぁって。
クラスが変わって話しかけて来た子がいた。瑞希ちゃんは優しくはないけど、私に気を遣わない人だ。思ったことを正直に言えて、羨ましい。
私と同じ、Sクラスの2人。私の人生を変えた2人。助けを求められたら、応えなきゃいけない。
雨足の強くなる空中に黒い龍、天道穂香が出現する。
(気配...)
特段、天道に感知系統の力は無いが、なんとなく嫌な感じがしたので真下に火球を放った。
火球は山を貫き洞窟の地面を露見させた。そしてそこには4人の女性。
(あっ、あ、あぶなかった...)
魔獣を蒸発させた黒龍が降下する。
その圧と熱気に押し潰されそうになりながら、斑目は眼前の龍が何者なのかを理解しようとしていた。
(意外と大人しいな...知性があるのか?)
唖然とする4人をよそに、静かに着地する黒龍。
瞬間、辺りが大量の煙に包まれる。
「熱っ!?」
「うわあああああぁぁぁ!!!??...あぁ?」
煙が晴れて中から出て来たのは、背面に「まんぷく。」と書かれたジャージの天道穂香。
「まんぷく...?」
「ほのちゃん!!」
迷わず駆け寄り天道を抱き締める酢漿。
その時、ガラスの割れるような音と共に、空中にヒビが入った。
ヒビが広がり、穴が空く。そして、中から指が出てくる。
「はぁい、ジョージぃ...」
顔を覗かせたのは有巣だ。
「...どっちかというとシャイニングでは?」
穴を広げぬっと身体を捩じ込む有巣。
「よっこらセ〇クス。」
「うわキショ。」
「カス。」
「二度と喋らないでほしい。」
「酷ぇ...帰ります。」
「待て待て待て」
「ごめんて!ねぇ!ごめんて!」
「ふふ。楽しそうだね。」
「そう...ですかね...?」
慣れないやり取りに困惑する冷花。その視線は有巣に吸い寄せられていた。
「...有巣...仁理さん、でしたっけ。」
「そうだよ...うっわめっちゃ俺。」
有巣と冷花が目を合わせたまま数秒が経過する。段々と冷花の頬が赤く染まり、耐えきれず目を逸らす。
「あ、照れてる。」
「照れていません!」
咳払いし、冷花は有巣に向き直る。
「私というより、私の姉に似ている気がします。」
「姉?」
「双子の姉か。」
即答した有巣に、冷花は目を丸くする。
「ご存知なのですか?」
「又聞きだけどな。“氷の剣士”だろ。」
勢いよく頷く冷花。しかし、酢漿と斑目は知らない様子。
「氷の剣士って何?」
んー、と唸りながら迷った後、有巣は首を横に振る。
「後で話そう。それより...冷花だったか。3人を連れて来てくれてありがとう。」
「な、何故私の名前を...?」
「さぁ?何故だろうな。」
有巣は踵を返し、空中に再度ヒビを入れる。
「帰るぞ。これ以上は悪影響になる。」
「未来に...帰るんですか?」
「あぁ。気になることでもあるのか?」
「......その刀って...」
「あぁ、これか。」
有巣の腰にあるのは神器『紫陽花』である。
「...そのうち解るさ。」
「...?はい......」
「ほら、入った入った。」
有巣に急かされ、酢漿、斑目、綾取の3人が戻っていく。一方、天道は再度神化して上空へ飛翔していった。
「あ、有巣さん!」
穴に入ろうとする有巣を呼び止める冷花。
「また、逢いましょうね。」
ハハ、と思わず頬を緩める有巣。
「あぁ。また。」
帰りの新幹線の中にて、無堂は『紫陽花』に触れながらあることを考えていた。
「...有巣さん。」
「んー?」
「結局、神器って何なんですかね。」
「んー、組成としては神格実体に近いんじゃねぇかな。知らんけど。」
「神格実体?」
怪訝な顔をする無堂。
「なんで?」
通路の向こうから酢漿が口を挟む。
「基盤が人間だから。」
「はぁ!?」
「な、え!?今なんて!?」
目を丸くする無堂。思わず斑目も机を叩く。
「新幹線内ではお静かに〜。」
「いやいやいや、なんでそんな大事なこと今まで黙ってたんです...?」
「いや、訊かれなかったし...」
肩をすくめる有巣に呆れる無堂。
そして、無堂の関心は再び『紫陽花』に向かう。
「えと、じゃあ、これは...」
「生きた人間をそのまま加工するんじゃないぞ。あくまで俺が神器にするのは人の死体だけ。」
「あぁ、じゃあ、まぁ......とはならないんですよね。」
「死体損壊って知ってる?」
「Sクラスは治外法権だぞ斑目。」
「怖ぁ...」
無堂から『紫陽花』を受け取り、有巣は膝の上に置いて優しく撫でる。
「『紫陽花』の素材は冷花の死体だ。」
えぇ!?、と声を揃える酢漿と斑目。
「冷花さん...?」
思わず手を伸ばした酢漿に、有巣は『紫陽花』を渡す。
「これが...」
「おそらく、平安時代に制作された剣だ。冷花の死後間もなく加工されてる。」
「なんでそんなことがわかるの?」
「魂が幽閉されていたからな。」
「魂が......」
言葉を失う酢漿。
次に口を開いたのは無堂だ。
「今はどうなんです?」
「今...冷花の魂がどこにあるかって話?」
「はい。」
「さぁ?何処だろうな。」
有巣は目を閉じ眉を上げて見せる。
「ってことは、此処にはいない?」
「だな。何処で何やってんのか知らんし、なんで解放されたのかも知らんが、もう自由になってる。」
「そっか...良かった。」
沈黙。次に綾取が口を開く。
「有巣くんはなんで冷花ちゃんの名前を知ってたの?」
「大学の文献にあった。」
なるほど、と納得する綾取に対して、へぇ、と怪訝な顔の無堂。
「さては信じてねぇな?」
「はい。正直。」
「まぁ、俺そこまで頭良くないし。納得もさせられねぇけど。」
その一言で有巣が窓の外を見始めたため、そこで会話が終わった。
中途半端に会話が終わったため、有巣には何か思惑があるのだろう、と考えることにした無堂。それとは裏腹に、ライブ感のみで生きている有巣には深い考えなど一切無いのであった。
Tips:神器
神器とは、能力を持った道具の中でも特に耐久性に優れているものである。
神器は例外なく所有者の手によって召喚することが出来る。これは、神器の素材が人間の身体であるため、所有者を“魂”とみなして引き合うことによって引き起こされる作用ではないかと考えられているが、真偽は不明である。
神器の所有者になる条件は明確には定まっていないが、その多くは魔力や性質などの要素が神器と適合することである。肉親や幼馴染など、親しい間柄であれば殊更適合しやすいのは言わずもがなであり、この様子を「神器が持ち主を選んでいる」と表現した学者もいた。




