【番外編】マルクスの執着
あの時俺は本気で彼女を誘うつもりだった。なのに、ルシア皇女に邪魔された。
彼女の性格からして、皆の前で強引に誘えば断れないだろうと思ったから、俺はあの日ランチの予定を立てたのに。
ああ、俺本当に性格悪いな、、。
結局俺は、その日の放課後、彼女を呼び出した。
「いきなり、ごめんね。ランチの時に言えなかったことを言いたくて、、収穫祭のパーティー、僕のパートナーになってくれないかな?」
「えっ…」
「急に言われても困るよね…。でもさ、エルザ嬢のドレス姿見たくない?踊る姿もあの2人ならきっと絵になると思うんだよね。」
「それは、、見たいですわ。滅多に見れないエルザ様のドレス姿ですもの。」
よしよし、もう一押し…
「ね、だから僕と組んだら良いかなって。婚約者が決まってないエミリア嬢が1人で参加してたら、色々と大変だろう?」
「それは、そうですわね…。では今回だけ、ですよ?」
「ありがとう、ものすごく嬉しい。」
俺は、あどけない笑顔を作って、心底嬉しそうに笑った。いや、嬉しかったのは本当だ。
それを見て、エミリアが少し頬を染めてくれた。
それが俺にはどうしようもなく嬉しかった。俺が彼女の感情を動かした、その事実が。そして彼女は可愛かった。
「ねぇ、エミリア嬢、せっかくパートナーになるんだから、お揃いの色を身に付けたいなぁ。どうかな?僕と仲良いところを見せとけば、変に言い寄ってくる奴とかもいなくなると思うよ?僕と勝負しようなんて奴いないしね。」
俺は知っていた。彼女がまったく興味のない男からしつこく言い寄られていることを。もちろん排除済みだが。俺がこんなことをしてなければ、彼女の婚約者などいくらでも決まっているだろうに。
「お揃いの色、、ですか?」
「そうそう。お互いの色をアクセントで使うとか良いなって。パーティーとか出たことないから、そういうの少し憧れるんだよね。どうかな?」
「少し、でしたら。」
「ありがとう!ふふ、楽しみだなぁ。」
やっぱり彼女は押しに弱い。
当日、パーティー会場で彼女のドレス姿を目にした瞬間、俺は心臓が止まるかと思った。
ただでさえ美しい彼女が着飾っている、そのことに加え、俺の色を纏っているその姿に、形容し難い幸福感で心が満たされた。
心まで俺に染めたい。
俺しか目に入らないようにしたい。
誰の目にも触れさせたくない。
そんな黒い感情で埋め尽くされそうになる。
いや、ダメだ。時期早々だ。
勢いで行けば彼女に逃げられる。
ちゃんと彼女の性格を理解して、ゆっくり囲っていかないと。
俺みたいな奴に目をつけられてほんと可哀想な子。
でも、もう逃してあげられない。
俺のものになる以外の選択肢は君には無い。
その代わり、全力で愛し尽くすから。
俺がいないと生きていけないほど甘やかしてあげる。
俺の愛に溺れさせてやる。だから、だから早く、
俺のものになって。
「エミリア嬢、今日の君は一段と美しいね。こうして君の隣に立てて光栄だよ。さぁ、パーティーへ行こうか。」
狂気じみた彼女への想いを胸にしまい、俺はいつもの人好きのする笑顔で彼女の手を取った。