時間制限と準備
兄上とは歳が離れていたが、仲は悪くなかった。あんなことが起きる前はそれなりに慕っていたと思う。
優秀だった兄上が、好きな人がいたのにも関わらず、政略結婚を強いられたことで起こしたあのクーデター。あれが無ければ、私は、王位継承権第一位になることは無かった。
そう、あんなことが無ければ…
今は当たり前である恋愛結婚。これは兄上が残したものだ。しかし、あの日から兄上の名を口にすることは禁止されている。
彼のおかげで私たちは幸せを手に入れられるというのに。
だから私は決めた。
次に国王となる自分こそが、心から愛する者と結婚し、幸せな王家を作り上げると。それが、今の私が兄上のために出来ることの全てだと思っている。
なのに、
「はぁ。今日もエルザ嬢に想いを告げられなかった…」
「昼休みのカフェテリアで告白する馬鹿がどこにいますか。」
放課後、クレメンス殿下とアイザックの2人は、いつものように生徒会室で雑務を片付けていた。
「しかし、そろそろ時間がありませんね…」
「分かっている。」
クレメンス殿下と結婚する者は、婚約した段階で、王妃になるための教育を受けなければならない。それは、どんなに優秀でも最低1年間、普通は3年ほど掛かると言われている。
これまでは政略結婚だったため、15までに相手を決め、3年間王妃教育を受けた後18で結婚することが慣わしであった。
そのため、自分で相手を決めるのなら遅くとも18になる前までに、と国王陛下から言われているのであった。彼は今年17になるため、残された時間は少ない。
「やはり、皇国の建国祭が最適でしょうね。おそらく、そう思ってトマス皇子も情報を流してくれたのでしょう。殿下達に残された時間は僅かですから。」
「そうだな。そこで彼女に想いを告げる。エルザ達も夜会に出るのだろう?彼女にドレスを贈るのはどうだろうか。」
「確実に引かれますね。」
「では、薔薇の花束か…」
「彼女のトラウマを増やしてどうするんですか。」
「そこまで言うか…」
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メンシスはこの日仕事を早めに切り上げ、夜屋敷に商人を呼び付けていた。
物欲のない彼には珍しい行動で、使用人たちは興味深そうに様子を伺っている。もちろん、彼に気付かれないよう装いながら。
彼は迷っていた。
目の前には、
シルバー、ヘーゼルブラウン、ピンク、パープル
が並んでいる。
彼の手はそれぞれを行ったり来たりしている。どれも決定打に欠けるらしい。
「うーん、、思い出の色も悪くないけどね、ちょっと弱気すぎるんじゃない?」
マルクスが面白そうな顔をして、部屋の中を覗き込んできた。
「でもねぇ、こっちはこっちで重いかなぁ。」
「お前、それアドバイスでも何でもなく、ただ言いたいだけだろ。」
「バレた?」
「はぁ…」
「こういうのはね、自分で選ばないと意味がないんだよ。迷って悩んで相手のことを考えて、ほら、幸せでしょう?」
「ああ、そうかもな。」
メンシスは、マルクスに揶揄われながらも、その後たっぷり1時間悩んでようやく決めたのだった。
※殿下のお兄さんの話は、第2話に記載があります。




