皇子の策略
僕は、第一皇子の権力を最大限に使い、今回の使節団派遣を目論んだ。もちろん、その結果は成功。
使節団のメンバーとして、エルザは侯爵家だったため、理由付けが簡単だった。エミリアは、彼女と仲が良いため、学年での成績が優秀だからという理由付けでリストに追加した。
メンシスは、相変わらず多忙を極めていたが、公爵家が皇国との貿易を望んでいる品があることを知った僕はそこにつけ込んだ。現地での交渉をチラつかせたら、スケジュールを調整してくれた。ついでに彼の側近も参加者に加えといた。
僕は夏前に帰国してしまう。
せっかくだから、みんなと思い出を作りたいよね。将来を約束された僕たちに、残されている自由な時間は残り僅かだから。
どうせ殿下たちも公務だのなんだの理由を付けて無理やり来るだろうし。もちろん、そうしてもらうように、早い段階で情報を漏らしておいた。
ふふ、夏が楽しみだな。
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「えっと、ここにいるメンバー全員で??え、メンシスはそんな時間取れるの?」
「あぁ。向こうで仕事が入ったからちょうど良い。」
実際は、トマスにそう仕向けられたからだが、なんとなく癪なので、エルザには言わなかった。
エミリアもいきなりの皇国行きに驚き、思わずマルクスを見た。彼はそうだよと肯定するように頷いて微笑んだ。
「では、今回の使節団派遣の概要を簡単にお話しするわね。」
夏季休暇に入って1週間後、皇国に向けて発つ。片道5日間の馬車の移動で、現地での滞在は5日間。皇国で行われる建国祭に参加するためこの日程となった。
建国祭とは、毎年夏のこの時期に3日間通して行われる、皇国でもっとも盛り上がる催しである。
国の繁栄を祝い、3日間通して、市街地の至るところで屋台や見せ物屋が並び、賑わいを見せる。
最終日には、皇族が市街地でパレードを行い、多くの人がそれを一目見ようと参列する。これは、皇族の力をしらしめ、且つ圧倒的な支持率をアピールして統治しやすくするためでもあるらしい。
そして、この最後の日の夜、皇城では夜会が開かれる。エルザ達は、そこにレイ王国の王立学院からの使者として参加する。これが今回の目的だ。皇国の貴族が集まる場に参加し、友好関係をアピールすることが求められている。
ローラ先生から説明されたのはこんな内容であった。
「そういうことで、夜会への参加が今回の一番の目的だから、そんなに難しいことはないわ。ただ、皇国の方と話す機会があるだろうから、各々皇国の歴史や分化など最低限の知識は付けておくようにお願いね。」
「エルザ、エミリア、皇国に関することは僕が教えてあげよう。まだ時間はあるし。メンシスとマルクスはもう十分に知っているから必要ないもんね。」
マルクスの顔が強張り、こめかみに青筋が浮かんでいる。エミリアのことを呼び捨てにされたことにかなり腹が立ったらしい。メンシスの表情も固い。
ちなみに、この後結局、心配で仕方なかったメンシスとマルクスの2人は、トマスの皇国講座に無理やり参加したのだった。
「それと、夜会でのパートナーなのだけど、去年の収穫祭の時と同じペア割りで良いかしら?」
「メンシス、前回は学院からの指示で仕方なくエルザとペアになったんだろう?だから、今回は僕がエルザの相手を務めようかな。」
「去年の収穫祭も、学院からの話がなくとも自分からエルザ誘うつもりだったので、ご心配なく。」
「ふふ、冗談だってば。だからそんな怖い顔で見ないでくれる?」
メンシスを揶揄ったトマスは楽しそうに笑っていた。揶揄われた彼の目は冷たいままだった。
え、この人、事あるごとにちょっかい出しまくる気かしら…
そんなことがしたくて今回のこと企んだの…?
さすがにそんな暇じゃ無いよね?
エルザはトマスの思考を読み取るべく、彼の顔をちらりと盗み見た。つもりだったのに、気付いた彼はしっかりとエルザの方を振り向き、蕩けるような微笑みを投げかけた。その攻撃力にエルザは思わず目を細めた。
ぐっ、、、
その美しい顔を武器にするなー!
目がやられるわ、、
そんな2人を見て一瞬立ち上がりかけたメンシス。
トマスはそれを見て、ケラケラ笑っていた。