敵わない相手
「それは随分とらしくないことをしましたね、殿下。」
先日のルシアとのランチ会の一部始終を聞いたアイザックがあきれ顔で言った。
「惹かれあって上手くいけば2人にとって良い話だろう?そう思って私はただきっかけを作っただけだ。」
「下心しか見えませんが、、。いいですか、今一番エルザ嬢のそばにいるルード公爵令息の婚約者が決まることと殿下が彼女に選ばれることは全く別の話ですよ。」
「う…、それはそうだが、、」
「あなたはまだお友達で止まっているんですよ。まずはちゃんと口説きませんと話になりません。」
「…。」
「とにかく、彼女との接触回数を増やしてください。どんなことでも良いですから、1日に1回は殿下の存在を意識させてください。それを毎日繰り返す事で、彼女の中で無意識に、殿下の存在が大きくなるはずです。」
「なるほど、それは試す価値がありそうだな。にしてもアイザック、」
「何か?」
「お前に好かれた相手は大変だな。」
「…。」
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「ごめんなさい、見苦しいところを見せたわね。」
そう言いながらもまだ目を滲ませているエルザ。よほど変な飲み込み方をしたらしい。
「えっと、それで何か用だったかしら?」
「あぁ、これを渡そうと思って。」
そう言いながら目の前に出されたのは、高級そうな一枚の羊皮紙だった。
「ん?何よこれ?」
「お前が欲しがったものだ。」
そう言っていつものにやり顔をするメンシス。
私が欲しいもの、、??
メンシスに何かおねだりなんてしたっけ??
手渡された羊皮紙を眺める。
そこには何か書いてある。思わず声に出して読み上げるエルザ。
「えっと、、『わたくしメンシス・ルードは、エルザ・アストルム侯爵令嬢の言動に対して、その一切を処さないことをルード公爵家の名において、ここに誓う』は… 何よ、、これ。まさかラクスで言ってたやつを本気で!?」
またなんてことをやらせてしまったのかと、顔面蒼白になるエルザ。
「良かったな。これで安心して、いつものように俺を使えるな。」
完全に揶揄い口調で言うメンシス。
「もうそんなことしないわよ!!」
そう言いながらもエルザは、保身のために大人しく宣誓書を受け取った。
それを見たメンシスは珍しく声を出して笑っていた。
「あと、気になっていたんだが、お前ルシア皇女に付き纏われてないか??」
は!!!
この人、皇女の行いを付き纏いとか失礼過ぎるでしょ!!
あれ、でも、よくよく考えて見れば、毎日ランチに誘われたり待ち伏せされたり、、
あ、これは付き纏い、かも?
「付き纏いって言い方は語弊があるけども、そうね、声を掛けられてお昼とか休み時間に一緒にいることが多いかも。」
「しんどかったら断っていいんだぞ。」
え、、、心配してくれるのかな??
ありがとうでも大丈夫よと言おうとしたエルザよりも早く、メンシスが続けて話す。
「気にするなって言ってもお前は気にしてしまうんだろうけど。そうだな、気にしても良いから、自分の気持ちをもっと周りに言え。そしたら周りが助けやすくなる。」
あ…先回りされてしまった。
強がりをまた見抜かれてしまったかな。
なんだか兄と同じ匂いがする、この決して敵わないかんじ。
「うん、そうよね。善処するわ。いつも心配してくれて声を掛けてくれてありがとう、メンシス。」
メンシスの言葉で気持ちが軽くなったエルザは心からのお礼を言った。