ドラゴン-6
「いかがでした?」ミラルエさんが近寄ってきた僕たちに問い掛ける。
「素敵でした」ぼっさんが答える。
「素晴らしかったです」うにやんが続く。
「圧巻です」僕。
「ウルフレームたちと息を合わせるような動きで、まるで演劇を観ているかのようでした」
「!」おんちゃんに対して怪訝な顔を向ける僕ら三人。
「どうかした?」
「いや、おんちゃんがお洒落なコメントをしたから……」
「私だってこれぐらいの表現力は持ち合わせているんだなー」誇らしげな顔をするおんちゃん。
「さては魔物が化けているな」ぼっさんが勘ぐる。
「おんちゃんの皮を被った悪魔かもしれない」うにやんがのっかる。
「本当のおんちゃんはもう別の世界へと転生してしまったのね……」僕はしみじみとした顔で天を仰ぐ。
「転生してもまたみんなと一緒に遊べますように」おんちゃんが祈りのポーズを作る。
おんちゃんの清らかなセリフにハッと心打たれる僕たち。
そして「おんちゃ〜ん」と四人で抱き合った……。
「そろそろよろしいでしょうか?」ミラルエさんが止めに入る。
失礼致しましたと謝る我々。
「背の高い彼の言う通り、今回は上手く相手の行動と噛み合った良い例かもね」
「いつもこんな感じではないのですか?」ぼっさんが質問する。
うーんと少し上を向いて過去の戦闘を思い出そうとするミラルエさん。
「予想外の行動をしてきたらグダグダになる時はあるけど、でも大体スムーズに倒せてるかも?」首を傾けてしまう。
「それでは初めて顔合わせする相手でしたら?」
「初顔であれば慎重に戦って相手の行動が把握できたら一気に倒すって感じかなー。でもってウルフレームの群れとは何回も交戦していて大体のパターンは掴んでいるから、それに加えて視覚や聴覚からの情報、空間把握に意識を注げば、あとは勝手に体が動いてくれて今回のような立ち振る舞いになりますよ」
簡単そうに聞こえるが、そのような域に達するにはどれほどの長い年月が必要だろうか。
「立ち振る舞いで思い出しましたけど、飛ばされたウルフレーム達が僕らの伏せていた場所付近にだけ落ちてきたのは偶然なんでしょうか?」質問する僕。
「必然ではないと思いますよ」
「やけに上半身を回して引っ張ってるように見えたんですけど」
「皆様方が観ていらっしゃるので体が張り切りすぎてしまったんでしょうね」
「魅せプレイですね」おんちゃんが言葉を言い換える。
「そういうことです」
んー。納得できたようなできないような。
「これ見て、これ」うにやんが声を掛けてくる。
促された先に目を移すとウルフレームの口に短剣が刺さっていた。
そういえば最後の一匹だけ倒し方が不明確だったけどこれだったのか。
「?」
「あんな短い剣持っていたんですか?」ミラルエさんに顔を戻す。
「えぇ。ここにね」と長剣を前に出す。
視線誘導された先には空洞の柄頭があった。
「仕込み刀……」
「そういうこと」フフンと得意そうな顔をするミラルエさん。「剣に剣が収まってるなんて滑稽でしょ」
「…………」
「ありゃ、面白くなかった?」
「いえ、驚きで声を失っていました」つい本音がこぼれてしまう。
「……まぁそれはそれで、感動してくれたならこの子を使った甲斐があるというものです」と無邪気に笑う。
自信に満ちている言動、様々なことを意識する思考とそれを体現できる実践力、そして魅力溢れる戦い方とこの笑顔。このような人が《シャヌラ一の剣術士》として収まっているとは到底思えない。この国でもトップクラスではないだろうか。自己紹介の時の言葉は自慢に聞こえたが、あれは謙遜だったのかもしれない。だとしたら、この人はーーー
「それでは帰りましょうか」ぼっさんたちに武器を見せていたミラルエさんが振り返り僕に語り掛ける。
この人は一体どれだけのポテンシャルを秘めているのだろうか。ドロールドラゴン以上にミラルエ・ノクストラという人物に興味が湧いてきた。




